キメセクした後に「あれ偽薬だから」ってバラされて怒って恥ずかしがる姫「あれね、カルニチン」
「は?」
「薬局で売ってるサプリメント」
「……はっ??」
「発汗作用があるから、もしかしてぽかぽかはするかもしんないけど」
「あっ、えっ」
「虎さんポテンシャルすごいね。やればできんじゃん」
虎さんはあっちこっちへ視線を動かした。噛み砕くのにだいぶ時間をかけている。わかりたくないのかもな。ハチャメチャのめちゃくちゃになったのは無理やり性感を引き出されてたとかじゃなくて、ただ盛り上がってただけってことを……。
「え!? それはもう言わなくてよくないですか!?! なんで教えるんだ!!」
「いや、体に影響の出るものじゃないから安心すればいいと思って」
「影響あって欲しかったよ! 僕の人生をグチャグチャのわやくちゃにした上で責任を取ろう! 取るな! バカか! 僕を人に背負わすな! でもおんぶしてほしい!」
「どした 怖」
「偽薬渡して平然としてる方が怖いわ! 楽しかったか!?」
「虎さんが尋常でなくエロいからめちゃくちゃ楽しかった。普段もこのくらいやってもらっても全然いいと思う」
「そっちかい。なんも気づいてない僕を嘲笑っていたわけでも、一人であやふやになっていた僕を何こいつプラセボでバカになってんだちょろいなって小馬鹿にしていたわけでもないんですね」
「そんなわけないじゃん。むしろそういう素直なとこにちょっとグッときたよ」
虎さんは無意識にか振り上げてさかんに動かしていた(別に俺を殴ろうとはしてないと思う)腕をぴたっと止めて、降ろした。
そのまま動かなくなったので、ここだと思って抱きしめる。顔を傾けて近づければ、さっきまでポコポコ怒ってたくせに、自然と対になるように動かしてくれる。こういうところだよな。
口の端にくちびるを落とすと、ぴくっと腕の中で震える。
虎さんの唇が開き、熱い呼気が俺の頬を撫でた。
それを飲み込むように口を塞いでやる。
薄く空いていたあわいに舌を差し込むと、応えられて舌先がもつれて絡み合う。
感じてる声はあがらなかった。ねちねちした音と、浅い呼吸の音だけが響いている。虎さんの体が弛緩していくのが、つながっているからよくわかる。きもちよさそう。俺もいい。でも、ここまでへにゃへにゃにはならないな。俺。なにが違うんだろ。
抱きしめていた左の腕を、上にずらして虎さんの頭を撫でようとしたとき、
――どん!と衝撃。
虎さんはさっと立ち上がり、逃げていった。
最大限の歩幅でもって進み、見る間に扉を開け放ち、俺が手を伸ばした時には廊下へ踏み出していた。
嘘だろ。これ一緒のベッドで寝る流れじゃないの? 今なんならもう一回くらいいけると思ってたよ。
「…………じゃあ許す!! もう寝ます! おやすみ!!」
うるさ。深夜の廊下で出していい声量ではないだろ。大丈夫? 誰か起きない?
「なんか許された」
いやうん、許されなくても全然するけどね。
***
「虎さん、今回はモノホンのヤクだよ」
ぺろり。小袋に入った錠剤を見せつけてくる。
「うわもうやめてください通報通報通報通報」
「冗談。ラムネ」
「あっほんとだ、やけにでかい」
「でも俺はこれでエロい気分になれる」
「異常体質か?」
ぱか。ぽりぽり。
「仮にもヤクって建て付けの錠剤を目の前で食べないで。すごく怖い」
「やろう、疑似キメセク」
「疑似って言っちゃった」