赤い海　肉の砂浜(1)僕はもともとね、猿ちゃんとあの人が付き合うのはやめた方がいいと思ってたんだ。たぶん、関わらないで生きてったほうがいいよって。
僕もいっぱしの奴隷だから、あの人とは契約してたし、命令もしてもらったけど。
その遠慮しいなようで強欲なところとか、すごいなと思ってた。

いやそりゃ別に、お互いいい大人だし？　そんなん口だしすることじゃないってわかるよ。僕にご飯食べさせてもらってて僕にお洋服洗ってもらって髪も切られてる猿ちゃんが誰と付き合ったって別にいいっていうか同(おん)なじように僕がもろもろやってあげてるみなさんご自由にどうぞって感じではあるけど？　でもあの人はちょっと猿ちゃんはやめといた方がいいでしょ。絶対。って猿ちゃんに言ったら絶対むきになって死んでも別れないだろうし、ていうかまあ猿ちゃんはあいつのこと普通に好きなんだなってわかるからさ僕はもうなにも言わなかったけど。やっぱりなんとかしたほうがよかったんだなって、思う。
「俺と一緒にいたら、慧はしあわせになれない」
あいつがこんなひどいこと言う前にさあ、ほんと、一発入れといた方がよかったね。
いや、もう猿ちゃんかわいそうで、これ聞いた時にもうぽかんとしちゃって、それからすぐに「ふざけんなっ！」って叫んで、「おれのしあわせを、お前が勝手に決めんじゃねえ！　バカにすんな！　ムカつく！　クッソムカつく！」って叫んで、テーブル叩くの。あいつはそれを、はたかれながらもじっと見てて＿＿結局、あの男ってめちゃくちゃ頑固で、もう身を引くって、いや本人からしたらそうなんだろうねって話、決めちゃったからそう言っただけなんだろうね、猿ちゃんがもうどうにもできなくなって、頭を掻きむしって泣いて暴れても、それを見てるだけ。いや、「ごめん」って何回も言ってたっけ？

ずるいよね。今まで猿ちゃんにめちゃくちゃに甘えて、弱さをさらけ出してその欲をかきたてて、それで絡みついてきたのに、急に引いちゃうんだよ。その拒絶を一方的に叩きつけられる相手のこととか、なんにも考えてないわけ。だから嫌な目に遭う人生だったって気づかないような人。