赤い海 肉の砂浜(2)ある意味、かわいそうなのかもね。でもまあ僕からしたら、猿ちゃんを悲しませやがって許しちゃおけないぞ! ってそれだけなんだけど。
ということで、僕は重い重い荷物をよっこらしょと持ち上げた。そこに、遅く起きてきた(正確に言うと、理解くんに五時に叩き起こされたあと、ゆうゆうと二度寝していた)天彦さんがぬっと出てきて、手を差し出してきた。「依央利さん、僕が持ちます。せめて半分」不自然な荷物の正体も聞くことなくなんて紳士的な申し出。ド変態とは思えないぜ。
「大丈夫です、奴隷ですから!」僕は反射的に断ったが、「いやいや、その量を持つのはどう考えても無理ですよ」と天彦さん。ちょっぴり考え込んでしまう。これは奴隷としてはあんまり嬉しくないけれど、今日ばかりはとにかくこの仕事をさっさと終わらせなければまずいのだ。
「う〜、この時ばかりは手伝ってもらおうかな…これ猿ちゃんに見つかったらまずいんだ」
「おや、サプライズプレイですか?」
「うん。ガチで墓に持っていくやつだけどね」実際猿ちゃんに見つかったらまずいどころではなく命の危機である。
「墓に…?」
「ま、その中身も含めて…おっといけない、なんか理解くんみたいなこと言っちゃったかも」
「え……あの? これは…?」
「え? 死体だよ。猿ちゃんには絶対内緒ですよー」
どさ。天彦さんが、腕が入った大きなバッグ(僕が夜なべして作ったの!)を取り落とした。「あーっ、まずいよ、血が」「ご、ご、ごめんなさい」動転しながらも謝る天彦さんの足元に、衝撃で吹き出した残り血がすぐ近くまで迫っている。「ひっ!」天彦さんは飛び退き、「いったいどなたなんですか!?」と叫んだ。
「天彦さん、もはや彼は答えちゃくれないよ」
「そ、れは、わかりますとも! いお、依央利さんが、殺してっ、分けて、今?」
「そうそう。昨日仕留めたんだ。それから、みんなお風呂に入ったでしょう。僕は一番最後に入ったよね。ついでにお風呂場を使ってごりごりやったんです。一晩かかったけど、なんとかなりました! いやー、人を解体するのってもんのすごい負荷ですねー、気持ちよかった〜! 三十分しか眠れなかったのは本当に死ぬかと思ったけど!」
「…………なぜ、このようなことをなさるんですか…………」
「猿ちゃんがかわいそうだからね。あいつはいなくなった、それでいいじゃん? さっさと埋めてきちゃえばバレないバレない。よっし、埋めに行くぞ〜!」
天彦さんはふらふらしながら、なんとか腕の入ったバッグをまた持ち上げた。そしてもう一つ荷物を持ったが、一番軽いものだったのでたたらを踏む。「あっ、それは内臓の詰め合わせセット。うまくミキサーで粉々にならなかったんだあ」
「うぇっ…………ひぃ…………」
「天彦さん、グロとかダメなんですね」
「ぐ、グロテスク趣味と、実際の惨殺死体に触るのとではぜんぜんわけが違うと天彦は思います……」まあそういう趣味もないですけど……。
なんかぐだぐだ言ってる。
「だいたいねえー、ずるいんですよ。あの人!」
「依央利さん、あまり死者を貶めるものではありませんよ」
「そうかもしれないけどぉー」