ラブミー・テンダー【犍陀多にもなれない】
熱い湯が肌を滑り「今は一体何時だろうか」と考える。今日人間をひとり解体したのだった。俺の家について何時間がたっただろう。緩やかに時間の感覚が狂っていた。無意識のうちに頭の隅に追いやろうとしていた事実を思い出したとき、シャワーヘッドから押し出される熱い湯が冷水に感じられる。ボディーソープは使い切った。ストックしてあった石鹸はもうすぐで擦り切れそうだ。俺は、多分何時間もアホかというほど体を擦っていた。指の先から冷えて行く感覚。ただ、擦りすぎた皮膚だけが摩擦で炎症を起こし燃えるように熱かった。ああそうだこの手で触った肉の温度。一線を超えたとはこういうことをいうのだろうか。どちらにせよ、初めて人を殴った瞬間から逸れた道をまっすぐにするすべなぞなかったように思うが。
1674