【ホーリー】お前コーヒーは飲まないんだっけか、そうか、マイホーミー俺も実際そんなに好きじゃねえよ。でもこういうのはなカッコが大事なんだよ。わかるよな？意外と大事なことなんだ。こういう小さなことが重要なんだ。関口。わかるか。サングラスの奥の目があなたのいうことは全部正しいって言ってくる。お前は無表情でもいつもうるさいな。かわいいよ。冷えた手に缶コーヒーを握らせると「ありがとうございます」とすぐに蓋を開けた。大きな手に収まる缶コーヒーは実物よりずっと小さく見えて、かわいい。関口の喉仏がまるでそういう生き物みたいに上下して、コーヒーを飲み下していく様を見ていた。
「すみません、お気遣いありがとうございます、寒い中で飲むと案外うまいですね」
熱いコーヒーを飲んだ後の関口の息が白く、黒い夜に映える。なんか今の言葉聞き覚えがあるななんだっけな。ああそうか「寒い冬に外で吸うタバコがさ、世界一うまいんだよな」ってあんた言ってたっけドブさん。俺の前では吸わなかったけど、タバコの話はよく聞いた。ドブさんが世界一うまいという冬のタバコに想いを馳せたこともあったけど、火をつけようとするとうっとおしい記憶がチラついてうぜえからやめた。そういえば関口お前いつから禁煙したんだっけ？「いつからだったかなあ…もうよく覚えてないです」てかなんで禁煙しようと思ったわけ？「…なんででしょうね」っておいおいそれなんて冗談だ。ところで冬のタバコは世界一うまいってホント？聞こうとして、やめた。
「今日は収穫なさそうですね。引き上げますか？」まあ確かに三時間もここにいて、すっかり夜も更けてなんもなしなんてこりゃ今日は終いだな。飯でも食うか？それとも行くか？ラブホ？「体、冷えたでしょう。なんかあったかいもんでも食いますか？俺んちここから近いですけど…」ラブホ？の問いは聞こえなかったみたいに絞り出した関口の提案に思わずにやけてしまう。「あ、すみません嫌だったら全然いいんです、忘れてください」いやいや忘れませんよ。いいよお前んちで食おうよあったかいもん。「シチューとかどうでしょう、ご迷惑でなければ作りますよ」いいじゃんいいじゃん庶民的で。つかそか、あったかいもんてシチューだったんか。あったかいもんなんて言われても何も思いつかねえんスわこっちは。

んで3時間くらい結局やったかセックス。
寝るときつけたままだと喉痛めますよなんて言ってエアコンを切るもんだから絶対寒いぜって言ったのに、隣でひっついてるデカイ塊があつくて、部屋の冷気との温度差で風邪をひきそうだ。
シチューの具材買いに行くときさ、俺たちの目の前を親子連れが通ったろ。あのスーパーで。野菜やら肉のパックやらが母親の持つ青いエコバックの形を変えて、バケモノの大きな心臓のようにみえて。すぎて行く最中で一度バックを右の肩に持ち替えた。重いのだろう。今から彼女らの血となり肉となる食物たちは重いのだろう。子供の眉毛は母親の薄い眉毛そっくりだったな。不気味なほど似てくるぜ今から、絶対に。なあ関口、俺とお前がどんだけセックスしようが俺たちああはなれないよな。いつかお前は普通に結婚して子供を作るのか。俺はお前の兄貴として、それを心の底から祝福して、たんまりご祝儀をあげようか。祝辞を読もうか泣きながら。
そんなことがこの世であるなら今度こそ真っ先に俺を焼いておくれよマイホーミー。
「もう寝てください」起きてたんか関口。お前絶対俺より先には寝ねえのな。いつ喉元かっ切られるかわかんなくてこええから？「ふふ、違いますよ。見ていたいんですあなたが寝るとこ」お前旦那っつうかいい嫁になれるんじゃねえの？２メートルのウエディングドレス、似合うぜきっと。「からかわないでください」悪かったよ気ぃ悪くしたんなら謝るし、だけど知ってんだろなかなか寝ねえよ、俺。「朝まででも起きてますよ俺」お前ホント俺のこと好きだね。布団の中でからめた素足があつい。俺の皮膚は乾燥してボロボロだけど、関口の肌は吸い付くみたいに滑らかで気持ちがいいな。ねえ、冬のタバコは世界一うまいかもしれませんけど、舎弟との冬のセックスだって世界一うまいすよドブさん。