Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    sbjk_d1sk

    @sbjk_d1sk

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 23

    sbjk_d1sk

    ☆quiet follow

    龍という種族に対して公式にはない捏造と幻覚と理想と妄想しか詰まっていないので検索避けしています。

    パイロキネシス・1 ドクターの龍という種族への第一印象は「圧がすごい」であり、非力であるが故に「恐ろしい」ことこの上なかった。ドクターの中の代表的な龍種といえばチェンであり、今でこそ難なく会話ができているがやはり第一印象には「圧」があった。ドクターの同族がいるかどうかは不明だが、少なくともチェンから感じた龍の気配はドクターにとっては「圧倒的な上位種」のものだった。近寄りがたく、声をかけることは躊躇われ、目を合わせることは不敬であるのではないかとさえ思ってしまう。龍は、暴力的なまでの威圧感に満ち溢れていた。
     炎国の貴族階級、あるいはそれに連なるものたちには龍が多い。というのはやはり龍が他種族とは一線を画する存在だからだろうか。今現在テラに存在する彼らの血がどれほど龍の純血なのかは把握できないが、高貴であればあるほど、龍の家系は太古よりその血の純度を保とうとし、異種族を受け入れず閉鎖的になっていく。そのせいか龍は驚くほど人口が大きく変動しない。フィクションを目にしているようで、ドクターは統計を調べた際に「そんなバカな」とまで口にした。
     と、ここまで見ると龍は閉鎖的で恐ろしい存在のように感じられるが、そうではない。
     俗的な言い方になってしまうが、恐ろしくモテるのだ。彼らは。
     その珍しさはもちろんだが、やはりカリスマ性というものだろう。ドクターが感じた圧倒的なまでの気配は、言い換えれば上に立つ者に必要となる支配力に直結する。この人に着いていくことで必ず得られるものがあると、本能が直感するわけで。龍の性別に関わらず、彼らの支配力は多くの種族、年齢、性別に作用する。その支配力を脳が誤認し、恋だの愛だのに変換して、あとはお察しの通り。龍はとにかくモテる。たとえ一時、一夜の関係だったとしても彼らの許しを得て隣に並ぶ権利を与えられた者は、一生分の幸福を使い切ったと断言できるほどに。彼らの寵愛の価値は測り切れない。
     しかしこちらも大変俗的な言い方になってしまうが、相手に事欠かない龍は、つがいの探し出すのに惜しみない労力を費やす。花に群がる蝶たちには平等に蜜を与えるか、花弁を閉じて拒むか、なんにせよ一定以上の関係性に踏み込ませない。その代わりのように生涯を捧げられるつがいを得るためには何もかもを投じてまで真剣になる。選ぶのではなく、探す。彼らの意志も多少は反映されているだろうが、遺伝子レベルに運命という目に見えないものが染み込んでいると言っても過言ではないほどに、彼らは探して求めるらしい。運命の人を、己の全てを捧げられる人を、天災ですら裂けない縁を。一目見ればわかるという、燃え上がる情熱を。狂おしい熱をも探し求める。
     そうして龍は宝を死ぬまで抱えて、害する何者をも排除しようとし、たった一度だけの家庭を愛するのだそうな。



    「運命って、どんな感じかな」
     珍しく創作物を呼んでいたドクターが、リーにそう尋ねた。どうやら恋愛小説であった本に、リーは珍しいこともあるもんだとやや目を見開いた。
    「なんだってまた、そんなもん読んでるんです?」
    「感情とか、情緒とか、そういうのを学ぶのに小説を読むのもいいんじゃないかって勧められたんだ」
     よりにもよって恋愛小説でなくともよかっただろうとも思ったが、ドクターの事だ。適当にひっつかんだ本を読んでいるだけなのだろう。
     淹れたばかりの茶を少々口に含み、一息ついてから、リーは「さぁ?」と肩をすくめて見せた。ようやくドクターの視線が手元の本からリーへと向けられる。
    「君にもわからないことが?龍だろう、君」
    「適齢期はとっくに過ぎてますからねぇ。もう運命なんてもんを感じることは無いでしょうよ」
     そうか、と意図せず呟いたようなドクターの声は、心の底から残念そうな色をしていた。
    「君ほど誠実で、かっこいい人はいないだろうに」
     ドクターの言葉に、落ち着きなさげにリーの尾が姿勢を変えた。だってそうだろう、そんな風に評価してもらえていただなんて、嬉しいやら恥ずかしいやらで落ち着きもなくすというものだ。
    「世界が輝いて見えるのだろうか?見慣れた景色が全く新しく映るのだろうか?毎日が幸福に満ちているのだろうか?」
     夢見がちに語るドクターの瞳は、子どものように純粋無垢で、瞳そのものがきらきらと光をはらんでいるようだった。初恋にときめく少女の使い古された陳腐な台詞が、恋の欠片も知らないドクターが口にするだけで、まるでそこだけ俗世から切り離された舞台のように輝いている。居心地悪そうに揺れる尾を誤魔化すように立ち上がり、ドクターの傍らまで歩み寄ると、見上げてくるその頭をフード越しにリーが撫でまわした。
    「今時そんな台詞が聞けるとは、あなたはかわいいですねぇ」
    「やめろやめろやめろ静電気、静電気が!」
     うわぁと短い悲鳴はもうすっかり聞き慣れたもので、叩けば響くこの小さな生きものをリーは気に入っている。ごちゃごちゃと散らかった感情、ちりちりといじらしく保護欲を掻き立てる感情、名状し難いそれらを一括りに愛情と呼ぶことにしたそれは、目の前の小さな頭を撫でることで気分良く掌から溶け出していった。
    「おれが聞いた限りでは」
     早く手を退けろと暴れていたドクターをようやく解放してやると、ドクターはフードを取り払ってぱちぱちと音が鳴る髪を指で梳き始めた。癖の少ない艶めく髪とつむじを眺めながら、リーは過去という箱の中に仕舞い込んでいたはずの知識をひっくり返してみた。
    「燃え盛る炎が体中を焼いて、運命を知らせる。一瞬で心にまで熱が回って、思考を奪われ、運命の相手の隣を手に入れることしか考えられなくなる」
     満足いくまで髪を梳き終えたらしいドクターが、おぉと興味深そうに声を上げる。つぶらな瞳がリーに無言で続きを促す。寝物語を催促する子どもを見ているようだ。
    「自分が炎なら、相手は薪でしょうか。そこは人によって様々ですね。薪だとしたら、生まれたその炎を絶えず燃やすために、相手を求める……醜いと思いませんか?」
     ゆっくりと瞬きをしたドクターが「なぜ?」と問いを返す。
    「まともに思考できやしない、理性が奪われ相手と自分のことだけに執着を持つ。その狂った熱を必死に求めるなんて、獣みたいじゃありませんか」
     いつの間にか持ち直したのだろうか、ドクターの手の中で音と立てて本が閉じられる。閉鎖的で静けさに包まれた部屋の中に嫌に大きく響いたようにも聞こえる音に反して、ドクターが茶を飲む喉の音が控えめに耳を震わせた。 
    「醜くなんかないよ」
     背もたれが鈍い音を立てて、ドクターの背を支える。慈しみの色に溢れた瞳がリーのきんいろの瞳を覗きこんで、微笑んだ。
    「それこそが情熱だ。そして人々は、燃え上がる炎と共に進化を重ねて今に至る。私はその進化、今日の人々を、うつくしいと思うよ」
     人の心を読むことには自信がある。そんな自分の眼差しを鏡越しに見たようだ。ドクターの視線は同じようにリーの心を覆うベールを静かに、かき分けることもせず通り抜けて、深奥へとたどり着く。するりと入り込んだその人は、そうして嫌悪する龍の本能を丸ごと腕に包んで愛してしまうのだ。好奇心は子どものようなのに、時折こうしてドクターは母のように何もかもを包み込んでしまうせいで、正しい年齢は誰も知らないままだった。
    「さっき君は適齢期と言ったけれど。リー、人を愛することは自由だ。きっと恋をすることも自由だと思うよ」
     流石に首が疲れたのか、ドクターは一度視線を手元に戻した。本のタイトルを指でなぞり、取り払ったフードを頭に戻す。
    「素敵な恋が見つかるといいね」
     心の底からであろう幸福を願う言葉に、意味もわからずリーの胸が痛んだ。
    「でも君が望むのなら、君の言う獣になった時は私が一撃きついのをお見舞いして正気に戻してあげるよ」
     張り切って握った拳を見せつけるドクターを微笑ましく見つめながら、頼みますよと軽口を叩いた。それは杞憂に終わるだろうから。



     バケツをひっくり返したような豪雨が過ぎ去る頃には、火も煙も血さえも戦場から洗い流されていた。ロドスが停泊した都市に感染生物の群れが押し寄せたのは、不幸中の幸いだった。事務所を訪れるだけのつもりだったが、感染生物とそれを操っていたであろう術師を探し出し、叩くだけの火力はその事務所に常駐していない。雨天の中での作戦ではあったが、都市から離れた位置で対処できたのは僥倖だった。
     最後の増援の索敵を終了した後、撤退するための準備で辺りが賑わう中、リーは後方で指揮をしていたドクターへと視線を向ける。リーはアーツの性質から少人数で編成された別動隊と共に行動することが多い。そして今回は本陣に限りなく近い場所で指揮官であるドクターを護衛するような形で防衛線を任されていた。なので雨を吸って重くなったハットを持ち上げれば、彼の位置からドクターを観察することができた。
     雨水をたっぷりと吸った服が鬱陶しいのか、裾を軽く絞っていたが無駄なことだと思ったのかすぐにそれもやめてしまった。フードを払い、フェイスシールドも取り外し、素顔が露わになる。肌にまとわりつく湿気にうんざりしているのか、やや不機嫌そうな表情をしている。心なしか、髪も普段よりぺたりと一層大人しい。
     しばらく戦場を警戒するように眺めていたドクターは、髪を小さな耳に駆けながら手元の端末と触り、控えていた護衛に一言二言短く何かを伝えている。満足したらしく、端末を仕舞った。そうしてドクターの瞳がこちらも向いた。流れた雲の隙間から、スポットライトのように太陽の光が射す。俗世からその人を切り離す。
     視線がぶつかり合う音を幻聴する。ドクターがリーの姿をみとめ、その周りが誰も自分を見ていないことを確認するとふわりとその顔をほころばせ、軽く手を振った。
     その顔を見てしまった瞬間、ぐわりと己の中の名状し難かった感情が質量を増した。
     あんなにも保護欲を掻き立てていた、ちりちりと静かに心を擽るものが、魂の奥底で消えることなく燻っていた炎だったと思い知る。無意識に喉が鳴る。
     クマバチは飛べないことを知らないから飛べるのだと言ったのは誰だったか。今までの自分はまさにそうだったとリーは思い知る。この炎を知らないから平気な顔でドクターをかわいがっていた。この炎を前にしては、二度とあの人に子どもを慈しむような感情など向けられやしない。興奮に瞳孔が開いた。
     鱗が逆立つようだ。刻まれた傷が疼く。尾が震え、鰭の先まで熱が浸食する。
     世界が輝いて見えるか?見慣れた景色が全く新しく映るか?毎日が幸福に満ちているか?リーはなんとか繋ぎとめている理性でドクターがいつか夢見心地に呟いた言葉を思い返し、そのすべてを否定した。世界を眺める余裕など無く、あの人だけしか見えない。あの人がいなければ景色など見る価値も無い。あの人がいない日々に生きる意味など存在しない。今までずっと燻って炎の中に、何も知らず薪をくべ続けたドクターごと燃え上がってしまいたい。あの人を自分の腕の中に閉じ込めて、誰も邪魔しない場所に閉じ込めてしまって、何者にも穢されることのない世界で自分の寵愛だけで息をしてほしい!
     全く動かないリーの様子を訝しんだのか、ドクターが控えていた護衛を先に撤収作業へと合流するよう指示し、その足でリーのもとに早足で駆け寄った。途中でドクターのことを目で追うように首は動いていたので、一応呆けているわけではなさそうだとあたりをつける。ようやくあと数歩でリーに手が届くといった距離まで近づいたところで、リーの手がドクターの腕を掴んだ。力加減などこれっぽっちもされていない、いつもの優しさと穏やかさがどこかへいってしまったような乱暴さで。
    「リー?」
     呼びかけても返事はない。代わりに勢いよく引き寄せられる。あまりの力に肩に鈍い痛みが走ったが、それを言及する暇も与えず腰に彼の尾が巻き付いた。痛みを伴うのも、ドクターに前置きもなく尾を巻き付けるのも、まるで自由を奪うように捕まえるのも、今までに一度だってなかった。
    「リー、どうし、」
     どうしたんだ、という言葉は最後まで紡がれなかった。ハットと前髪からようやく覗くことの叶ったリーの瞳が、違う。あのやわらかな光が見えない、あたたかな色が見えない。彼のものではないとまで錯覚するほど、鋭利な氷で刺してくるような、かと思えば見たものを燃え上がさせるような、知らない瞳をしている。
     熱い。そして久しく忘れていた威圧感に、本能的な恐怖を覚える。恐ろしい。この感覚をドクターは知っている。彼らという種族を初めて知った日に覚えたものだ。思わず後退ろうと身を引くが、尾に巻き付かれた体はびくともしない。しかし逃げようとした体の筋の収縮を感じ取ったのか、リーの瞳が細められた。
    「ドクター」
     ぎちりと腕を掴む力が一層強まる。リーの指が食い込むほどに握り込まれる。掴まれた場所に熱が集まる。堪らず、痛い!と叫んでみても、彼は微動だにしない。不動の姿勢のまま、流れた雲の隙間から射し込んだ光が逆光となって、リーの表情を暗く隠す。
    「ドクター、おれの目を見てください。……そう、いい子ですね」
     蛇に見込まれた蛙の気分だった。身体が竦み、抵抗虚しく退路を断たれた蛙は、どうやって蛇から逃げればいいのか。ドクターの背に冷たい汗が伝う。もとより彼の考えなど読み切れはしないが、目を合わせても、瞳をいくら覗きこんでも、今まで以上に彼の思考が読めない。否、彼の思考が見つけられない。
    「あなたは素敵な恋を見つけろなんて言いましたが、やっぱりこの炎はろくでもねぇもんでしたよ」
    「なんの話をしているんだ」
    「わかっているでしょう。あなたなら、わかるはずです」
     まともに思考できず、理性が奪われ、相手と自分のことだけに執着を持つ。狂った熱に侵されて、獣に成り下がる。かつてリーが語った龍の本能と、運命の話が驚くほどすんなりと記憶の海から引き揚げられる。ドクターは自由の効くもう片方の手を、上着の内側に突っ込む。ゆっくりと、冷静さを取り戻したドクターの瞳が瞬きをするのを見届けて、リーは口を開いた。
    「あなたの何もかもを奪って、あなたを閉じ込めて。あなたの瞳に映るのも、あなたが想うものも、おれだけにしてしまいたい。頷いてくださいよ、ドクター。あなたが許してくれないと、おれはあなたを攫っちまうしかないんです」
     いよいよ掴まれた方の腕の手が痺れ、これ以上は骨に罅が入るかもしれないと感じたドクターは申し訳なさを感じながらも上着の内に突っ込んでいた片腕を振り上げた。かつてそうなった時は止めてあげようと提案し、その手段を託されることで約束を交わした。今がその時だ。
     その手には作戦行動中の護身用にと所持を許可されている、警棒が握られていた。
    「すまない、リー」
     ぶっつけ本番。ああどうか、打ち所が悪くて彼が怪我をしませんように!
     鈍い音が、雨で何もかもが流された戦場の跡によく響いた。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🐉🌋❤👍👍👍💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖😭🙏🙏❤❤❤❤❤💯💯❤👏👏💗💗💗💗💗💗💗💗💗💗🙏💖💘👍🙏🌋😍💘💘💘💘💘💘💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    sbjk_d1sk

    DONE記憶を失って転生したリー先生と、連続する魂を持つドクターの鯉博。一部過去作から抜粋。
    オーニソガラムの亡骸 星の予言、星の花。星の光を探して、星屑と閃きを眺めて。



    「いらっしゃい、リー家の子」
     他人のテリトリーに足を踏み入れるのはいつだって、適度な緊張感と警戒心を必要とする。リーは詰めていた息を白色にしてそっと吐き、吐いた分の吸い込んだ空気が纏う花の香りにまたため息をついた。両親と比べ未発達な細く頼りない尾が揺れ、薄く柔らかな鰭が風にあそばれる。
     かつては龍しかいなかったという閉鎖的な集落はすっかり姿を変容させ、龍の数こそ多いものの昔に比べれば様々な種族が住み着くようになった。それにより貿易は一層栄え、利便性は改善し、知見や見解が広がったことで価値観も開放的な方向へと進んでいった。少年が足を踏み入れた家は、しかしそうなる以前――もう百年以上も前だ――に建てられた、異種族にまだ偏見や差別の考えがあった頃にその嫌う異種族に説き伏せられて建てられた家らしい。家屋自体は然程大きくはないが手入れが行き届いた庭は非常に美しく、季節の花や草木が目に鮮やかで、門扉を潜った直後だというのに足を止めて眺めてしまうほどだ。そのせいだろう。前を歩く冬空のようなその人が振り返り首を傾げた。
    14697

    recommended works