立香の周囲にはたくさんの人がいた。どの声も必死に助けてくれと祈っている。
何の傷も汚れもない姿で、希望に濁った目は立香だけを見ている。
あれは駄目だ。
そう思った瞬間、シャルルマーニュは前へ出ていた。
「リツカ」
立香を視線からかばう様に引き寄せて腰を抱くと、二人で集団から離れていく。
追ってくることはないが、非難の声と視線は刺さるほど向けられる。
この程度を気にするようなら始めから行動していない。
けれど立香は違う。
ちらちらと自分に助けを求める人々とシャルルマーニュに交互に視線を向けていて、シャルルマーニュが強引に体を引いていかなければその場を動かなかっただろう。
「リツカ、まずはリツカの手当てが先だ。被害があると言ってもまだ街までは遠い、今夜すぐにでも襲ってくる可能性はまずないんだ」
「でも」
「ここで無理して悪化したらどうする。いざというときに戦えなくなる」
「……そうだね」
一つ一つ立香の不安を潰し納得させれば、止まろうとしていた立香の足も動き出した。
ほっと小さく息を吐いた時、ダダダッと荒々しい足音が耳に届く。
その音の方を向けば肩を怒らせた男がこちらを憎々しく睨んで駆け寄ろうとしていた。
ずいぶんと裕福なようで仕立てのいい服は汚れも皺もなく、装飾品も過剰なほど身に着け輝いている。
街に入ったとたん、いの一番に立香の手を掴み、いずれやってくる魔物から自分を助けてくれと懇願した男だった。
怒りも過ぎれば冷静になるんだなと、すっと冷えた頭で考えながら男の目を見返せば、男は情けなく小さな悲鳴を上げて止まる。
「シャルル?」
「ん、なんだ?宿はあっちみたいだぞ」
振り向こうとした立香の動きを制して宿を目指させる。
今までどれだけの目が立香に犠牲を強いたのだろう。
先へ進めば進むほど、自分の理想が分からなくなるようだった。
それでも。
「リツカ」
「何?」
自分を見て微笑む立香を何とか救いたかった。