夏の日差しは厳しく、外はあまりの明るさに目がくらむようだ。
立香は片手で目元に影を作りながらポケットから持っていたサングラスを取り出してかけた。
試着以外で初めてかけるサングラスに少しワクワクしながら目を開ける。
さっきまでとは違って眩さはなく世界がはっきりと見える。
無くてもいいと思っていたけれどこれは便利だ。
何やら紫外線カットがどうとかも言っていた気がするし、きっとこれからも重宝するだろう。
似合うかどうかは試着の時に確認してもらってOKを貰っていたので気にすることなく立香は外に出て行こうとした。
「君、そんなの持ってた?」
「え?」
声のした方を見ると隣で黒いサマーパーカー姿のオベロンが渋い顔で立香を見ていた。
すっと伸びた手がサングラスの縁を叩いて『そんなの』が何かを理解する。
「ああ、これは……えっと……ほら!夏だし紫外線は目にも良くないらしいからって!」
立香はそう言ったがオベロンにははっきり見えている。
『高杉さんが』という言葉が見えた時点で想像は容易かった。
下手につついて惚気を聞くのも嫌だ。
「へー、そっかー」
オベロンの露骨な作り笑いに誤魔化しきれなかった事を悟り立香は赤くなる。
言葉は無くてもオベロンには見えるのだ。
洒落っ気のない立香に高杉が見繕ったものであることも、それが似合うと言われて嬉しかったことも、宝物のように大事にしていることも、今日やっと使うことが出来たことにはしゃいでいることも。
全部全部見えている。
そういうものが見たくなくてスルーしようとしたはずだったのにとオベロンは顔を顰めた。
「うう……」
墓穴を掘っていく自分に耐え切れず立香は顔を両手で覆って唸り声をあげる。
それがますますオベロンの気に障る。
「見たくもない惚気見せられて呻きたいのはこっちだよ」
「オベロン!」
予想と違わぬ真っ赤な顔をした立香をオベロンは「はいはい」と追い払うように手首を動かしながら先に外へ出て行く。
立香もその後を追いかけて出て行く。
オベロンは後ろを気にしながら、夏の日差しの眩しさに目を細めた。