新しい家族ってどう思う?と言われてもどういう事なのかまだ幼いオレには理解できなかった。
ただ母さんが嬉しそうだからきっといいことなのだろうと思って、「嬉しい?」と聞かれて「うん」と笑顔で答えた。
「立香?」
初めて会った父さんは困った顔をしていた。
母さんの後ろに隠れてなかなか出てこないオレに根気よく何度も話しかけてくれたけれど、いつも会う人となんだか違うものを感じてうまく出て行けなかった。
「人見知りする子じゃないんだけど……」
母さんが困っているからはやくいつもみたいにしないといけないと思うけど、うつむいたまま母さんのスカートを握った手はうまく開かない。
俯いた顔を上げて何とか父さんを見ようとする。
丁度父さんはオレじゃなく母さんに話しかけていて、目の前には誰もいなかった。
でもその向こう。
父さんの後ろに立っている人がいた。
俺よりは年上だけどまだ大人じゃない人。
つまらなさそうにぼんやりと遠くを見ている父さんによく似た人。
なんだか気になると思ったらスカートを握っていた手はあっさりと離れて、足も勝手に動いた。
近づいても背の低いオレの姿は目に入らないようで、手の届くところへ来てもこっちを見ない。そっと手を伸ばしてズボンを引っ張ってみる。
「……」
こっちを見てくれたけど、向けられた目から何を考えているのかは全然分からない。
何を言ったらいいのか分からなくなって、どうしてこんなことをしたんだろうと少し後悔していると、母さんが「おにいちゃん」と言ったのが聞こえた。
それがこの人の事だとなんとなく思った。
「おにいちゃん?」
呼ぶと急にこの人がオレのおにいちゃんなんだという気持ちが湧いてきて、だんだん嬉しくなってくる。
少しだけ憧れていたお兄ちゃんという存在。
弟は出来たとしても兄は出来ないということを理解して諦めていたけれど、オレにもおにいちゃんが出来るんだ。
頬が緩むのを我慢できずに笑顔になってもう一度呼ぶ。
「おにいちゃん!」
すると、おにいちゃんはしゃがんでオレの頭をおそるおそると撫でてくれた。
ぎこちない手付きだったけどおにいちゃんに撫でられたいうのが嬉しくてへらへらと笑うのをやめられない。
気持ちが溢れすぎて飛び込むようにして抱き着くと、ぴたっと動きを止めた後ぎゅっと抱き締めてくれた。
幸せで幸せで、離すものかとぎゅうぎゅう腕に力を込めて引っ付いた。
それからオレたちが本当に家族になったのはその半年後だった。