レイシフト先で購入した屋台飯。
よくあるハンバーガーで屋台のおじさんもおまけだよとパティとパンの間にベーコンを一枚、笑顔でおまけしてくれた善い人だった。
お腹も空いていたし少し離れたところにあった花壇の縁に腰かける。
「いただきます!」
早速大きな口を開けてハンバーガーを口に運ぶ。
口の中に入る直前だ。
バシッという音と同時に手からハンバーガーが離れて地面に落ちた。
包み紙から離れてパンもパティもレタスもおまけしてくれたベーコンもすべてべっとり土まみれになった。
ひりひりと手が痛むのを自覚したのはその後で、やっと何が起こったか理解する。
慌てて隣にいた高杉さんを見ると真剣な表情の赤い目がうっすら光を帯びていた。
「毒だ」
高杉アイで見えたんだろう。
オレを守るために慌てて食べるのを止めてくれた。
それは分かっているんだけれど屋台のおじさんの優しい笑顔が浮かんできて「ありがとう」がぎこちないものになる。
あの優しさは嘘じゃなかった。
「そうですか」
地面に落ちたハンバーガーをじっと見る。
なんだか好意を無駄にした気分になって心が重い。
毒は効かないんだし一口くらい。
「いいわけないだろ」
「え?」
「毒が効かないからって食べていいなんて誰が言った。効こうが効かまいが毒は食べるものじゃない」
黙っていたつもりだけど声に出ていたんだろう。
震えそうになるほど冷たい声で咎められ、刺すようにきつい視線で睨まれる。
言い訳なんか出来るはずもない。
一口くらいと思いはしたけど、高杉さんの言葉が正しいのは分かる。
情に流されるべきでないのも。
分かっている。
しっかり返事を返すべきだと思いつつ、視線から逃れるために目を地面に向ける。
「はい」
返事はきっちりしたが、この態度では伝わってないと思われても仕方ない。
もしかしたらさらに叱られるかもと思ったけれど次の言葉はなくて、代わりに頭の上に手のひらが置かれて感じた温かさに目が熱くなった。