「高杉さんって話す時しっかり目を見ますよね」
さてどう答えるべきだろうか。
高杉は顎に手を当てて考えた。
勿論必要な時にはまっすぐに相手を見る。
真剣に話すべき時。騙す時。揶揄う時。
逆に急ぎの仕事をしている時やどうでもいい相手、話の時は見ないことだってある。
さて、この情報はマスター君にとって必要なものだろうか。
浮かんだ疑問に高杉はすぐさまNOを弾き出す。
「そりゃそうだ。目を見て話すって言うのは人間関係の基本だろう」
「まあ、そう言われればそうなんですけど……」
立香は肩を落としながら視線を逸らし気味に言う。
高杉の答えは望んでいたものではないらしい。
欲しい答えありきの問いかけなんて珍しいなと思いながら高杉は立香の様子を探る。
唇を尖らせて不満を隠しもしない。
珍しい態度だと思うのと同時に、そう言う態度を見せる程に内側に入り込めたのだと薄暗い喜びも湧いてくる。
立香がちらりと視線だけを高杉に向けた。
甘えの色を見せた視線に背筋が歓喜に震える。
入り込めたどころか居座っている。
立香は人当たり良く様々な相手を引き付けて距離を縮める癖に引いた線の内側に入れる相手は少ない。
高杉もこれまでその線を越えようと様々な手を打ってきた。
それがやっと、だ。
立香の内側に自分という存在が大きく場所を取り、数少ない甘えても良い相手にまでなった。
これはねだられている通りに甘やかしてやらないといけない。
「後、君相手だからな」
その答えで間違っていなかった。
立香の表情がぱっと明るくなる。
「そうそう目を離せるものか。持ってくる話が面白すぎる!なんでそんな奇々怪々なトラブルに巻き込まれるんだ、ずるいぞ!」
本音を混ぜながら伝えると、立香は自分が特別であると理解して満足気に笑う。
高杉にとって立香が特別であることは事実だ。
それがどういう意味であるか、立香は理解していないが。
「どこに行くにも必ず僕を連れて行けよ」
ふざけたように高杉は言ったが、それは間違いなく心の底からの本音だ。
立香は何も気づかず「はい!」と元気に答えた。