彼の交友関係の広さには感心する、と思っていたのは召喚されてからのほんの短い間の事だった。
一緒に居ればすぐわかる。
あれはもはや異常だ。
サーヴァントなんて定義されていようが相手は英霊だ。
英雄もいれば反英雄もいるし、人間を越えて神も妖精もいる。
例え汎人類史を取り戻すという共通の目的があれど、その全てと問題を起こさずに付き合えるなんてのはそこらの一般人が出来ることじゃない。
これが異常でないなら、何が異常だと言うのか。
今も彼は外国の王の間に立って器用に話をまとめている。
聞いているだけでもわかる、少しでも言葉選びを間違えばすぐにでも此処は戦場になるだろう。
その綱渡りを天性の感と人柄で乗り切っている。
仕方ないとはいえそれをやりきれる度胸も才能も恐ろしいものだ。
「高杉さん?」
溜息ついでに視線を逸らした間に彼がこちらへやって来ていたらしい。
「お待たせしました!」
笑顔でそういう彼に頬が引き攣る。
胸の内に「あの時『忘れません』と言ったのは何だったんだ」と不満が湧き上がってどうしようもなかった。
そんなこちらの想いなど知らぬ顔で彼はそれ以上何の言い訳もなく「行きましょう」と当初の目的地へと歩き出す。
仕方ないとは思っているが、一度受け入れられたものを反故にされるのは苛立ちの理由の一つになる。
「ああ」
機嫌が悪いのを隠し切れない声が出て、彼は驚いた顔でこちらを見た。
何故、と思っているんだろう。
自分の悪い所が出ている。
彼が英霊と交友を深めるのは必要不可欠だと分かっている。
分かっているけれど、他を見ないでくれという思いが募って仕方がない。
いつもはするすると回る口がどうにも重く、動かない。
彼はしばらく僕を見ていたけれど、何を思ったのかすぐ目の前まで距離を詰めて僕の手を取った。
「高杉さんは分からないと思いますけど、こんなに毎日一緒にいるの高杉さんだけですからね」
「……は?」
急な発言に言葉に詰まっていると、
「高杉さんは、『オレの』高杉さんなんでしょ」
まるで悪戯が成功した子供のように笑って言った。
「な……おい、君!」
「さー、シミュレーターでアラハバキに乗せてくれるんですよね!楽しみにしてたんですよ」
ぐいぐいと繋いだ手を引っ張られてつんのめるように歩き出す。
「君、それはどういう」
「早く行きますよ、廊下の真ん中に居ちゃみんなの邪魔になりますから」
「おい!」
こちらの話など聞く気がないかのように言葉を遮ってくる。
そっちがその気ならいいだろう。
僕は彼を問い詰めるのを一度止めた。
君の望み通りの予定をこなしてやろう。
逃げ場のない二人きりの操縦席、そこでしっかり問い詰めさせてもらうぞ。
にやりといつもの調子で笑う。
精々覚悟してきたまえ。
その耳の赤さを君の言葉で全て語らせてやろうじゃないか。