マスターにねだられ、為朝はマスターを片腕で抱き上げる。
「ありがとう、やっぱりすごいね!」
「このくらいの事は出来て当然。それよりも、これで何を」
為朝が訪ねる前に、マスターの手は為朝の頬部分に触れた。その手は形を確かめるように動く。
そんな感覚があるわけではないが、きっとこれは『くすぐったい』になるのだろう。変な気分だと思いながら為朝はマスターの好きにさせる。
「口は無いって言ってたよね。俺、ここの部分口だと思ってた」
そう言うと、人であるなら口があるだろう部分に指先を滑らせる。
そこは口では無い。
無いのだが、そう言いながら触られるのは複雑に絡まった感情が沸き上がってくる。
恥ずかしさもあり、照れ臭さもあり、悦びもあり、これを端的に表す言葉はいくら探しても為朝の中には見つからない。
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