コートのぬくもりは消えてゆく司書室にて
秋風が体に沁みる頃。気温が急激に低くなり、書類作成をしている司書のペンを動かすのも手が鈍くなっていた。
暖炉に火がついていても司書の体はなかなか温まらずにいた。
「少し休憩してもいいですか……」
「ああ、お茶を淹れてくる。待っていてくれ」
「ありがとうございます」
部屋を出ていくと中里のコートが椅子にかけられたままであった。中里は滝行をして寒さに耐性があるようでこの程度の気温ならコートもいらなかったようだ。
司書は中里のコートを羽織った。全く大きさはあっていなかったが中里の匂いに安心感があり、眠気を誘った。
「(ちょっとだけならいいよね……)」
☆ ☆ ☆
中里が温かいお茶が入った湯呑を持って司書室に戻ると、中里のコートを羽織ったまま眠ってしまった。
すると、中里は司書からコートを強引に剥がして、代わりに近くにあった毛布を掛けた。
「これを羽織りなさい」
そして、そのコートを中里は暖炉の中に放り投げてしまった。自分のコートが燃えていくさまを中里はじっと見つめていた。
「これでいい……。コートに君の匂いがついては気が散る」