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    Dr.あすぱら

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    Dr.あすぱら

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    ソードワールド2.5
    自PC外伝

    静寂を巡る1.ディエヴァス ビギング

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、キングスフォール

    「私は何のために生まれてきたの?」
     それが一生の彼女の課題だった。
    ……
    「ディエヴァス、早くご飯を食べなさい」
     レプラカーンの少女が目を擦りながらリビングにやってくる。
    「まだ眠いですわ、お母様」
     少女と良く似た顔のレプラカーンがこちらを向いて話す。隣にはまたよく似た顔をした男のレプラカーンも食事をしている。
    「今日は市場でお買い物するって言ったでしょう?急いで出掛ける支度をしなさいな」

     ディエヴァスは目の前にあるサンドウィッチを丁寧にほおばると、自分の部屋に戻り着替えを始める。
     部屋のクローゼットを開いて目の前にあるフリルの襟が付いたワンピースを手に取る。――彼女のお気に入りだ。
     ディエヴァスは身支度を続ける。気のせいかリビングが騒がしい気がするが、急いで支度をしろと言われた彼女にそんなことを気にしている余裕はなかった。
     早急に身支度を済ませた彼女はリビングのドアを開ける。
    「お母様、お父様、準備が出来ましたわ――っ!?」
     次の瞬間彼女が見たのは――血塗れの両親とそれを襲おうとしているフーグルであった。
     どうやら天井を突き破って侵入してきたらしく、リビングに雨が降り注いでいる。

     状況を理解したディエヴァスは咄嗟に机にあったナイフをフーグルめがけ投げつける。
    「……お母様とお父様に何をしていますの?」
     真っ直ぐ飛んだナイフはフーグルの脳天に直撃し、フーグルはその場に倒れ込む。

     急いで両親の元へ走るディエヴァス。
     しかし、父親はディエヴァスに向かって掠れた声で叫ぶ。
    「こっちに...来るな...」
     ディエヴァスの父親は魔法で風を起こし、ディエヴァスを突き放す。
     ディエヴァスが突き飛ばされたその瞬間に空いた天井から雷が落ちてくる。それから二度と両親の声は聞くことはなかった。
     
    ――ディエヴァスはこの日、全てを失った。
     キングスレイ鋼鉄共和国で起きた蛮族による大襲撃、その全く予想されなかった悲劇を人々は静かなる大虐殺サイレンス・ジェノサイドと呼ぶ――は一日にして街を半壊まで追いやることになった。

     ディエヴァスはこの街から1人で逃げ切る。
     涙と混じった雨の中、彼女は世界に問う。
    「私は何のために生まれてきたの?」
     理不尽な世界。ただ、普通に生きることが出来たら良かった、それだけなのに。
     

    2.ディエヴァス スタンドアップ

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、グランディン
     荒廃した街。そこに佇むボロ布のレプラカーンが1人。
     先日の静かなる大虐殺サイレンス・ジェノサイドで家族も財産も失ったディエヴァスはこの街で野宿する人々の物を盗むことで生活をやりくりしていた。
     そんな彼女の目の前に男が通りがかる。オレンジ色のファーコートを羽織った男は腰に大きな剣を携えていた。
     あの剣を盗って、生活費にしよう。しばらくそれで生活費には困らないだろう。

     彼女がそう考える前に体は動き出していた。素早い動きで男の背後に周り腰の剣を掴み取る。その勢いで彼女は逃げ出した。
    ――が、彼女の腕はすでに男に掴まれていた。

     男はディエヴァスを細い橙色の目で睨みつける。
     が、その数秒後にはディエヴァスの腕を離し、口を開いた。
    「お金が、無いのか?」

     男の予想のしない対応に驚くディエヴァス。慌てて何も喋れない彼女に対して男は自らの赤い髪を触りながら続ける。
    「俺の予想が間違っていなければだが小娘、お前は先月ほど前の大虐殺で独り身になったのか?」
     しばらくの沈黙が流れる。
     そしてディエヴァスは震える口を開く。
    「...貴方に話すことはありませんわ。」
     走っていこうとするディエヴァスは男は制止する。
    「なぁ、追い剥ぎなんて辞めてギルドに加入しないか。お前は良い冒険者になれる。……ほら、しばらくの生活費だ。」
     男はディエヴァスに自分の腰に携えてあった剣を渡す。
    「……っ」
     ディエヴァスは何も言わずにその場を走り出した。

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、キングスフォール
     復興の進んだ首都、キングスフォールでは二度と蛮族の襲来を許さぬ様にと、自警団やギルドの団長などが躍起になって新しいメンバーを探し走り回っていた。
    ――ギルド"黒海"
    「シューターが足りないと言っていたのはこのギルドですわね?」
     レースの襟付きのワンピースを着たレプラカーンの少女がギルドカウンターの目の前に立つ。
     身長の低さからか、フロントからは頭の角と髪の色しか見えていないようで、受付係のエルフは
    「いくら遠距離職が必要と言っても子供に頼ることはしないわよ?」
     と冷やかしてくる。
    「ふふ、これを見ても同じことが言えましてよ?」
     そして彼女は腰から2つのボウガンを両手に持ち、構える。
     受付係のエルフが瞬きをしているその瞬間にディエヴァスはボウガンを発射する。
     放たれた矢はギルドの奥にある地図に刺さる……指された場所はキングスレイ鋼鉄共和国であった。
    「……なんて命中力」
     エルフは口ずさむが、ディエヴァスは不満そうな顔をして話を続ける。
    「本当にすごいのはこれからですのに」
     エルフは目を見開いた。なんと、もう片方で放った矢がギルドのライトに反射しながら最初に放った矢を跳ね、全く同じ場所に刺さる。
     圧巻の技術にギルド内がざわつく。
    「ご、ごめんなさいね、ギルド加入希望よね?」
     気を取り直したエルフはディエヴァスに向かって微笑む。
    「大歓迎よ、貴方の実力ならね」
     
     その後の彼女の活躍劇はまた別のお話――


    3.ユアサ=イレ ビギング

     人々に"反逆者リベリオン"と呼ばれたグラスランナーは今日も旅をする。

    ――ブルライト地方、ファーベルト平原某所
     花の咲き乱れた平原を自分の家の庭かのように緑髪の少年は練り歩く。
     長年冒険を続けた少年――ユアサの家族は潤沢な財産を元手にここを自らの家とする事に決めた。
     それゆえ、ユアサはこの平原から出た事が無かった。
     今日も平原を遊び場にしていた少年は後ろから忍び寄る蛮族の足音に気づかなかった。

     ゴブリンのトリオはユアサを捕まえるとやかましい声で叫ぶ。
    「ククク、子供を捕まえたぜェ!」
    「兄貴、取り分はちゃんと分けてくだせぇよ!」
    「久しぶりの子供の肉だ〜!美味そうだぜェ!」

     ユアサは今まで見た事もない生物立ちに困惑しつつ必死に逃げようもがいた。
    「や、やめて!だ、誰か!助けて!」
     その声に呼応するかのように、草花がざわめき出す。
     次の瞬間、ゴブリンのトリオは空を舞っていた。
     ユアサの目の前には大きな盾を持った女性が1人立っていた。
    「大丈夫だったかい?」
     そう言って目にバンドを巻いた女性は優しく微笑む。

    ――ブルライト地方、ファーベルト平原ユアサ宅
     ユアサは自分のベッドの上で頭を抱える。
     突然であった謎の魔物たち、それを助けてくれた見ず知らずの女性、その笑み……
     気づいた時にはユアサは彼女に会いたいと考えるようになった。
     ユアサはベッドを飛び出し、密かに自分の集落を抜け出す。

     ユアサが女性を探そうとすれば、その人は数分も掛からずに分かるような場所で野宿をしていた。
     ユアサはその女性に近づき、昼のお礼を口にする。
    「お昼は、ありがとうございました」

     真夜中の意外な来訪者に驚いたのか、女性は目を点にした。が、そう時間のかからないうちに彼女は話し出す。
    「君は、私を怖がらないんだね?」
     少年にはその言葉の意味が理解できなかった。
    「いや、いいんだよ、ちょっと嬉しかっただけさ」
     女性はユアサを持て成した。手持ちのパンをユアサに渡して微笑む。
     少年は興味本位で聞く。
    「お姉さんは、何故ここに?」
     女性は笑いながら静かに答えた。
    「旅をしているんだ。冒険者ってやつかな。色んな場所を見て回っていてね。明日にはここを出るよ。少年も、いつかは冒険をしてみればいいんじゃないかな?」

     パンを食べ終わった少年に女性はまた微笑む。
    「さぁさ、もう夜も遅い、早く君はお家に帰りなよ?」
     しかし、ユアサはお願いをする。
    「僕は、貴方と一緒に旅がしたいです、僕も世界を旅したい。ずっとこの平原にいる生活には飽きたんです。」
     束の間の沈黙だった。やがて女性は
    「後悔すんなよ?少年」
     と言って、笑う。

     次の日の朝、村でユアサを見たものは居なかった。
     

    4.ユアサ=イレ ブレイクアウト

     ユアサと目にバンドをした女性――ジュウローはファーベルト平原を抜け様々な場所に旅をする。
     ユアサは旅の途中で楽器を演奏することを身につける。楽器を弾きながらジュウローの勇姿をみているうちに彼は次第にジュウローに惹かれていった。
     
     次第にユアサは気づく。彼女が度々街の住民から怪訝な目で見られていることを。その度に彼女は少し寂しそうな目をするのを少年は見過ごせなかった。

    ――ドーデン地方、フレジア森林国
     ユアサはサンドウィッチを食べながらジュウローと話をする。
    「なんでジュウローは、どこに行っても白い目で見られるの...?ジュウローは何もしていないよね?」
    「あぁ...それはね...」
     ジュウローは少し躊躇うと自らが蛮族であることを明かした。

     ジュウローは自分がバジリスクの女性であり、人間に善意を持って接する数少ない蛮族の1人であること、そして人族も蛮族も対立しているだけであって悪い人も良い人も同じだけ存在していると考えていることを語った。
    「でも、ジュウローはジュウローだからね〜」
     ユアサは2枚目のサンドウィッチを取り出しながら言う。
    「ユアサのそういう所が、私は……いや、なんでもない」
     ジュウローは話を変えた。
    「丁度いい、そのうち話そうと思ってたんだよ、しばらくこの近くにある私の生まれた集落に滞在するんだが、君はグラスランナーだからきっとあまりいい目では見られないだろう。3日後には戻ってくるからここに居てくれないか?」

     ユアサははにかむ。
    「3日かぁ、寂しくなるね」
    「絶対戻ってくるから、安心してくれよ」
     ジュウローはその日、ユアサを一人置いて街を出ていった。

    ――3日後
     宿場にいたユアサの元に手紙が一通届く。
     送り主はジュウローだった。内容はこの通りである。
    「やぁ、私だ。元気にしていてくれると嬉しいんだけど、少し急用が出来たんだ。私は今からキングスフォールの冒険団ギルドへと向かう。ユアサ、君もこちらに来てくれないか?合流はそこでしよう。」
     彼は急いで身支度をした。キングスフォールまでは半日かかるからだ。

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、キングスフォール
     彼がキングスフォールに近づくと、見えたのは燃える街並みであった。
    「只事じゃないぞ、これは...」
     ユアサはキングスフォールに居ると言っていたジュウローのことを真っ先に心配し急いでギルドへと向かう。
     街中は喧騒の中であった。すでに多くの人族と蛮族が争いあった形跡が建物の壁を染める。
     ギルドにたどり着いたユアサは、ジュウローと会うことが出来た……しかし、ジュウローはすでに深手を負っており、後何分持つか分からないような状態であった。
     ユアサはジュウローに駆け寄る。
    「ジュウロー!な、何があったんだ!!」
     声にならない声を出し、ジュウローは答える。
    「ごめんね、これからは一緒に旅、出来そうにないや。」
     ジュウローの死期を悟りユアサは涙を堪えながら叫ぶ。
    「なんでッ!誰がこんな事を!!ジュウローがやられるような蛮族なんて!!」
    「ユアサ、ひとつ約束してくれないかい?」
     宥めるようにユアサに語りかけるジュウロー。
    「世界にはね、蛮族や人族って種族は別れてるけどね、どっちも悪い奴はいるし、良い奴はいる。」
     ジュウローはユアサに対していつものように微笑む。
    「だからね、どうか蛮族だから、なんて思わないで欲しいんだ。蛮族は悪くない。戦う気のない蛮族とはどうか仲良くして欲しいんだ。人族にも優しい奴は居るって、どうか他の蛮族にも伝えて欲しい。」
     ジュウロー伝え終わると満足したのかジュウローは静かに息を引き取った。

     ユアサは声が枯れるまで泣き叫び続けた。


    5.ユアサ=イレ 出会い

    ――ブルライト地方、グランゼールへと向かう道のり
     ディエヴァスはフーグルの群れと出くわす。
     ギルドの仲間たちと戦っていると
    「大丈夫ですかーッ!?」
     ユアサが群れの隣から走ってやってくる。
    「じ、自己紹介は後にしてくださいまし!目の前にいるフーグルをなんとかして欲しいのですわ!」
    「ふむふむ、ボクから傷つけることは出来ませんが、楽器による援護は致しましょう!」
     フーグルが蛮族の言葉で叫ぶ。
    「「「たかがガキ一体加わったところで何になる!しかもクソ弱そうじゃね!?!?勝ったな!!」」」
     その一言がユアサの逆鱗に触れた。
    「あ、そーいうこと言うんだね、じゃあ、殺してもいいよね。」
    ユアサはそう蛮族共通語で言うと突風を発生させる。
     フーグルは瞬く間に吹き飛び木々に身を打ち転げ回る。
    「ふぅ...」
     ディエヴァスはその絵面を見て目を見開いた。
    「あなた、強くてよ?」
     ユアサは、へへ、と笑う
    「そうですかね...しばらく1人で冒険してきたのですが、1人だと魔物が怖くて...」
     ディエヴァスは顔をユアサにグッと近づけ話す。
    「そういうことでしたら!」

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、キングスフォール
     ディエヴァスはキングスフォールに着くと、すぐギルド"黒海"の受付のエルフの元へと走る。
    「久しぶりに来たなぁ...ココ」
     とユアサが喋っているのを無理やり引っ張り受付まで持って行ったディエヴァスは
    「この子もギルドに入れて宜しくてよ?」
     と言う。
    「ま、待って?ボク、ギルドに入るなんて言ってないけど!?」
     ディエヴァスは自慢げな顔でこちらを見る。
    「ふふふ、ユアサ、貴方には私の冒険団結成の勧誘を受けてもらいますわ!」
    「...はい?」
     ユアサは訝しんだ。
    「私は冒険団を作るつもりですわ、その名も――」
    「きらきら冒険団ですわ!」
    「...はい?」
     ユアサは訝しんだ。
    「分かってないわね、私は自らをリーダーとする……」
     ユアサのゲンコツがディエヴァスの脳天に直撃する。
    「――やかましい。いいかい、まずは目的を持ってだね」
    「目的なら、あるわ。」
     ディエヴァスは突然真面目な顔になって話し出す。
    静かなる大虐殺サイレンス・ジェノサイドで私は家族も何もかも失った……。それを救ってくれた男の人がいましてよ。私はその人にお礼も言わずに逃げ出してしまいましたの……。だから、この冒険団の目的は、その男を探し求めること。」
     ディエヴァスはユアサの方を向きかしこまった態度で言う。
    「どうか、私のわがままに協力してくれないかしら。私の冒険において、あなたが必要だと思ったの。」
     ユアサは微笑んで頷く。
    「どうせボクは暇さ!ちゃんと目的があるなら、手伝うよ!だけどね...」
    「冒険団の名前は考え直そうか...」
     
     名前は静寂の一団サイレンス・スクワッドになった。


    6.ギャマラ=フォーマラ ビギング

     「うちは何度でも立ち上がる。」
    ――強い意志を持った少女は右手を持ち上げる。それは足枷のように重たく、硬かった。

    ――ドーデン地方、スィーク海
     彼女は何があっても笑うのを辞めなかった。そうしないと仲間に殴られてしまうから。
    「おい、木偶の坊!お前はなんの力にもならねーんだから、人間の里にでも行ってきて餌のいく人か取ってこいや!ギャハハ!」
    「私には出来ませんよ〜なんて言ったってこのハサミがありますからね!人間にもすぐバレてしまいますわ!」
     仲間のハサミがギャマラの肋骨を砕く。
    「オレたちの自慢のハサミをバカにするな。」
     ギャマラは引きつった笑顔で蹲る。

    ――彼女が生まれた時、親は彼女を捨てた。右手にあるハサミ、しかし人族に近い見た目で生まれてきた彼女は生まれてすぐ仲間から差別を受ける。しかし彼女は彼らによって生かされていたので反抗する訳には行かなかった。
     次第にギャマラは自分の感情を表に出すのを辞めた。彼女はこれからもタンノズの仲間たちと生きていくために彼らの元につくことを決めたのだ。
     今までもずっと苦痛に耐えてきた彼女にとってこれはそう辛いことではなかった。
     しかし、そんな歪んだ平穏は突然崩れる。

    「北の山の方の蛮族共から今度キングスフォールを襲撃しないかと誘われたんだ……今回は多くの蛮族が集まって人族を恐怖に陥れるんだとよ!」
     タンノズの首領はギャマラを見て言う。
    「お前は、我々の盾だ。いいな?常に前線に出て戦え。我々は妖精魔法を使わなければならないのでな。」
     それはお願いと言うより、威圧であった。

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、キングスフォール
    静かなる大虐殺サイレンス・ジェノサイド当日。
     ギャマラの部隊はキングスフォールの南に位置するルアーナ大河の分流から向かう。
     東門から黒い煙が上がる……襲撃開始の合図だ。

     ギャマラは前線に駆り出される。逃げようと思っても周りは彼女を殺そうとする人族しか居なかった。
     蛮族の奇襲は成功し、兵士たちの防護が手薄になっていた所に多くの蛮族が流れ込み人族を滅ぼさんと果敢に攻める。
     戦況が蛮族優勢に立とうという時に事件は起きた。
    「この蛮族共がッ!皆殺しにしてくれるッッ!」
     細い橙色の目がギラっと輝く。
     その男は手に持った剣を薙ぎ払うと、後ろの仲間が一斉に吹き飛ぶ。ギャマラは絶句する。自分が守っていたはずの仲間が目の前で血を出して倒れたからだ。
     ギャマラは唯一の居場所を失った怒りで男を睨んだが、次の瞬間には死にたくないという気持ちが先行する。
    「神様……何故私をここまで苦しめたいのですか?」
     彼女は泣きながら街を後にする。
     幸い男には存在を気づかれていなかったようであり、無事に大河まで逃げ切れる。

     彼女もまた、静かなる大虐殺サイレンス・ジェノサイドで全てを失った。


    7.ギャマラ=フォーマラ スタンドアップ

    ――ドーデン地方、フィノア大草原
     彼女は疲弊していた。その見た目故、多くの街では悲観か軽蔑の目で見られ、何も言わずに孤独なギャマラを追い出した。
     大草原で倒れ込む彼女。それを覗き込む奇妙な顔が一つあった。
    「何を倒れ込んで居るんだね?蟹の少女よ」
     ギャマラはがばっ、と起き上がる
    「蟹ちゃうわ!な!」
    「そんな細かい事ボクにはどうでも良いことなのだよ」
     突然話しかけてきた少女は丸眼鏡をくいっと上げる。
    「キミ、ボクと同じ匂いがするよ、どうだい一緒に天地使いジオマンサーの高みに登り詰めないかい???」
    「おっとおっと、紹介が送れたね、ボクは崇高でこの世界で最も美しい女、ヒャクローって言うのさ、君は?」
     まくし立てるような少女の勢いにギャマラは圧倒される。
    「あ、あぁ、うちはギャマラって言うんや、ギャーちゃんでいいで?」
    「なるほどなるほど!そのハサミ!そしてその見た目!君はタンノズの出来損ないウィークリングだね!?」
    「……いやそうだどもさぁ」
    「良いね、ギャマラ君!ボクも出来損ないウィークリングなのさ!まぁそこらの順当に成長した種族とは違ってボクは本家より強い自信があるがね!?」
     ギャマラはあまりの会話のスピードに付いていけない。
    「ちょ、ちょっと待てや?それじゃあヒャクローって言ったっけ、君は何の出来損ないウィークリングで、何でここに居るんや?」
    「あぁ!ボクが?ここにいる理由?そりゃあ私がバジリスクの出来損ないウィークリングで、ここが私たちバジリスクの隠れ家だからさ!」
     ギャマラがよくみると、ヒャクローの眼鏡からオッドアイが顔を覗かせているのがわかった。
    「君は、家族が居て良いね……」
     ギャマラは項垂れる。
    「ふむふむ、先日の大虐殺で仲間を失った、それで行く宛てがなくてここいらを放浪してると見た。君は、全てを失ったのか?」
     ギャマラが口を開く間も無くヒャクローは話を続ける。
    「ボクも、先日の大虐殺で……家族を一人失ってしまってね、直前に喧嘩したんだ。その事を謝る前に死んじゃったんだ。」
    「みんな自分側サイドしか見ないんだ。自分の陣営に何人被害が出たか。本当は両方とも考えられないぐらい被害を被ってる。それに誰も気が付いてない。」
     ヒャクローはギャマラに向かって微笑むとこう言う。
    「今日ぐらいは、ゆっくりしていきなよ?」

     ヒャクローはギャマラを自らの家に通した。二人は話すうちに仲良くなっていき、ギャマラは初めて暖かさというものを知った。

    「もう行っちゃうのかい?」
     翌朝、ヒャクローは寂しそうな顔でこちらを見る。
    「あぁ、また会えるよ、君は今まで出会った人の中で1番、優しかったで。ほなまた!」

     彼女には信念が生まれた。人に優しくされるような、そんな人になるにはどうすればいいか。そんな思いを抱いて彼女は立ち上がる。


    8.ギャマラ=フォーマラ 出会い

    ――ドーデン地方、辺境の地ポポ村
    「それじゃ行ってくるで!村長!みんな!」
     ギャマラの故郷とも言える村、ポポ村。
     放浪を繰り返した挙句にたどり着いた村で、彼女の見た目に何も言わずに持て成してくれた、最初で最後の村である。
     彼女はポポ村での生活に満足しており、一生ここで生きていこうと考えていた……が、彼女は気づく。この村には戦士がいない事を。
     しばらくして彼女は、強さとは何か、そして世界とは何かを知るために、村を守れる立派な戦士になることを誓ってポポ村を去るのだった。
     村長は旅のお供に、と言って自らのロバ、ロシナンテを預ける。
    「どうか、ご無事で」
     そう告げた住民たちはみんなギャマラの旅立ちを見守っていた。

    ――キングスレイ鋼鉄共和国、キングスフォール
     ギャマラはギルドを探す。彼女の経験則では冒険団が最もウィークリングへの対応が寛容な場所である。

     彼女は、かつて自分が全てを失ったこの土地に立つ。ギャマラにはそれは耐え難いことであり、嫌な記憶がフラッシュバックする。
     体が震えるギャマラにロシナンテは気づき、なだめるように鼻を鳴らす。
     周りからは怪訝な目で見られている。手に大きな鋏を持つ彼女はそれだけでも不審に値した。

    「あの子、出来損ないウィークリングじゃないか??」
     そう言って近づいてきた緑髪の少年に驚くギャマラ。
    「な、なんねや!?うちはあんたらに構ってる余裕はないわ!」
     しかし、少年は続ける。
    「君、なんでここに来たの??」
    「そ、それは...冒険者ギルドに行って...冒険をしたいからやけど...」
     苦虫を噛み潰したような顔でギャマラは答える。
    「あの...ちょっとお願いがあるんだ」
    「その...僕たちが今組もうと思ってるパーティーに前衛がいなくて...きょ、協力してくれるかな?」
     ギャマラは少し驚く。この少年が他の人と全く同じように自分を扱ってくれているということに。
     彼女はそれに喜びを隠せなかった。
    「っ...ま、まぁ、別に?協力してやらんこともないけどな?」
     少し浮かれ気味になっているギャマラの所に現れるレプラカーンの少女。
    「ふふ、ようこそ!静寂の一団サイレンス・スクワッドへ!私はディエヴァスと申しますわ!」
    「ボクはユアサ、君の名前は?」
    「うちはギャマラ!ギャーちゃんでいいで!」
     
    強い志を持つ仲間が、また1人加わり、冒険団は進む。


    9.ヒャクロー ビギング

    「この僕にかかれば楽勝ッ!」
    ――バジリスクの出来損ないウィークリングはそう言い、自分の道を進む。

    ――ドーデン地方、フィノア大草原
     この草原では古くから、隠れ家として多くのバジリスク達が住んできた。
    「ヒャクロー、ご飯出来たわよ」
     なにやら小難しそうな本を閉じた少女は丸眼鏡をくいっと上げ言う。
    「今向かうよ」
     バジリスクたちは食卓を囲む。そこには石となった爬虫類が並べられていた。
     少女はふと口を開く。
    「ボク、そろそろこの草原が出たいんだ。」
     彼女の親と思わしき男が怪訝な顔をしながら訊ねる。
    「ヒャクロー、お前はここの生活が、満足してないのか?」
    「いや、そういう訳じゃないけどさ、僕も旅がしたいんだ。ジュウローお姉ちゃんみたいに...」
     その言葉を口にすると、男は態度が変わったように捲し立てる。
    「その裏切り者の名を二度と口にするな。」
     ヒャクローの家族では彼女の姉――ジュウローの話は禁句となっていた。
     ジュウローは3年前この草原を出ていった。彼女は一言、「私は人族が悪いやつとは思えない。」と言い残した。
     人族と対立するバジリスクの集落でそのような言動は許されるべき行為ではなかったのだ。

    ――ある日
     ヒャクローは両親から大きな計画について聞く。
    彼女の暮らしている集落の長は、ドーデン地方各地の蛮族の代表を集めこう話したという。
     明後日の昼、雨の降り始めを合図として、この地方で最も栄えた人族の街、キングスフォールを襲撃すると。
     ヒャクローの親は付け加える。
    「ヒャクロー、お前はそろそろ我々の戦い方を見て学ぶべきだ。だから見るだけでもいい。ついて来こい。」

    ――その日の夜、ヒャクローは自分の部屋で考える。
     明後日こそ、ボクの晴れ舞台だ。仲間に実力の差を見せつける。誰が出来損ないだって?僕は、この集落一の天地使いジオマンサーだ!!
     ふと、窓からコンコンと音がすることに気がつく。窓を開けると懐かしい顔がヒャクローの目に映る。
    ――その顔はヒャクローの憧れ、そして実の姉、ジュウローのものであった。
     ヒャクローが驚きに声をあげようとするのをなだめてジュウローは静かな声でささやく。
    「いま、1人かい?」
     ヒャクローは頷く。
    「ふふ、なら良かった、ギルドに帰ったののついでに久しぶりに顔を覗かせようと思ってね、どうだい、最近の調子は?」
    「絶好調さ、明後日、ボクの成果を見せる時が来るんだ、母さんや父さんはボクのことを認めてくれるはず。そしたら、ボクも連れて行ってくれないか?」
     
     二人は楽しそうに話を続ける。これが最後の会話になるとも知らずに。
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