君に捧げるのは 心裡はタッタッタッ、という足音と共に呼吸が上がっていた。
任務中に離してしまった仮死川の手を、その姿を探して。
「ほーんと!かっしーったらすぐ風船みたいにどっか行っちゃうんだから〜!!」
足音と声はコンクリート固めの壁に反響し、廊下中に広がる。
明かりもほとんど無い中、足音が止まる。
心裡の目の前にあったのはズシンと立ち塞がる鉄の壁だった。
「ん〜、行き止まり...さすがにこんな扉の中にかっしーか遊びに行くわけないしなぁ...」
心理がその扉に背中を向けて歩き出そうとした瞬間である。
……たすけて!
心理の耳には確かにそう聞こえた。
そう扉の向こう側から叫ぶ仮死川の声が。
気づいた時には体は動き出していた。
「今、助けるよッ!」
扉は押しても引いてもビクともしない。かくなる上は...
心理は何処からか持っていた巻物を慣れた手つきで広げ、唱え始める。すると、心理の後ろには魔法陣が展開されていく。
「非暴力の化身よ、万物を説きし知恵の神よ、我が声に耳を傾け、私に力を捧げたまえ――」
背後から魔法陣を囲み白い煙が巻き上がる。
赤い魔法陣は煙の外からでもはっきり認識できるほど光り始め、やがてそこから等身大の人間...いや、金色に光る像、釈迦そのものが現れる。
「何度も言うようだがな!私は説教を文字に書き起すなとあれほど……ん?どうした心裡、今日は笑ってないな?」
「……あぁ、今日は冗談抜きで手伝ってくれ。馬鹿やってる暇はないんでね。」
釈迦は全てを理解したように一回頷くとその鉄拳で扉を殴り倒す。
「大丈夫かいかっしー!?僕様が助けに来たぜ!!」
そう言った心裡の顔はみるみるうちに青ざめていく。
そこでは仮死川が首を締められ宙吊りになっていたからだ。
当人と思わしき男はこちらを向くと
「なんだぁ?お前はこの情けねぇメンヘラのパートナーってとこか!?どーでもいいがな!!雑魚は雑魚なんだよ!!」
と荒々しく叫ぶ。
心理はふぅ、と一息付くと
「かかってこいよ。てめぇの方が俺様よりよっぽど弱ぇぞ、雑魚。情けねぇ姿見せてかっしーに謝罪しろよ。」
その笑みには禁書の影響で怒りが消えているにも関わらず、何か強い炎のようなものを感じる。
怒りを忘れた近所使い。ニタリと笑うその姿はまるで獲物を屠るサメのようであった。