光サンのような何か ああ、気分が好い。
「そりゃよござんした」
心に留めたつもりの声は、酒精をたっぷり含んだ吐息と、一緒に漏れていたらしい。サンクレッドの体を半ば抱えるように歩く男は、横顔をやや剣呑にして、真っ直ぐ前を見つめている。
「なんだ。楽しめなかったか?」
「めちゃくちゃ楽しんだよ、酒は。問題はそのあとなんだよな、というか、今なんだよな」
「いいだろ、たまには」
「酔っ払いの介抱を『たまにはいいな』と思う人間、あんまいないと思うぞ、俺は」
ご尤も。サンクレッド自身も、迷惑をかけて悪いなと思っていない訳ではない。飲み過ぎたのは確かな落ち度だし、反省すべき点でもある。ただ、転んでから杖を引っ張り出したって、どうしようもない。
飲み過ごしたのは、シンプルに、ただただ、楽しかったからだ。
判断力を鈍らせる薬、毒とも言える酒を、サンクレッドも、この男も、普段は意図的に避けている。交渉のテーブルに着くなどで必要ならばもちろん飲むが、その際は己を疑うようにし、自分は酔っている可能性があることを忘れないよう努める。そんな意気込みで口にする酒が旨い訳はなく、その席も楽しい訳はない。
しかし、今夜。ラストスタンドのテラスで冴えた星々を見ながら、心底くだらない冗談を交えて、こいつとただ飲んだ酒は、びっくりするほど旨かったし、びっくりするほど楽しかったのだ。それはもう、心の声と思っていたものが、ダダ漏れだったくらいに。
「おっと」
「フツーに足に来てるな!?」
「いや、すまん。大丈夫だ」
「大丈夫な奴は俺の肩を借りてないんだよ」
「確かに」
貶されている。のに、愉しい。なるほどこれは大丈夫ではない。のに、それもまた、愉しい。
「一人で飲むときは気を付けてくれよ。暁の守護者が泥酔して寝込みを襲われました、なんてことになったら、タタルとクルルのダブル説教二時間コース待ったなしだぞ」
「お前がいるときにしか飲まんよ」
「俺に襲われる可能性は」
「それは考えてなかったな」
もう寝床のあるバルデシオン分館は目の前まで来ている。あとは部屋の前までこのまま肩を貸し続けてもらい、お休みを言って別れれば、今日から明日へと切り替わる。
「嘘だな」
それなのに、この男は、妥協を許さなかった。
「考えたこと、あるだろ。……お前も」
超える力で見た訳ではない。帰路に就いてからはじめてこちらを向いた顔が、目が、声が。それぞれ僅かに紅潮し、乾き、強張ったものたちが。今の言葉は問いかけであり、未知の回答を待っていることを、はっきりと語っていた。
「……そうだな」
であれば、真摯に答える以外の、何ができようか。
「あるさ」
抱えるとか肩を貸すとか、そういう表現には少し強すぎる力が、腰を抱く腕に載る。凭れたとかふらついたとか、そういう表現には少し多すぎる体重を、彼に明け渡す。
二人で分館のドアを開けると、オジカは今日もシーツはさらさらにしてあると言って、笑ってくれた。それに若干の申し訳なさを感じるのは、はじめてのような気がした。