安赤ワンドロワンライ 黒/十五夜/魔王/お泊まり あれは魔王のような男だ。
いつしか組織の中では、そのような噂が聞こえるようになった。無論、それまでにも、悪魔だのなんだのといわれる者に出くわしたことはある。だが、いずれも噂に過大な尾鰭がついており、虚仮威しにもならない者ばかりだった。
じきに、噂の男と仕事をする機会が訪れた。とはいえ、こちらは狙撃手として遠隔から、顔も知らない彼をサポートする役目だったのだが……予定された時刻、予定された場所に彼らしき男とターゲットは現れなかった。
「……ライ? 聞こえます?」
インカムを通じて聞こえる男の声。俺は「バーボン」と呼ばれる男を、件の噂と、この声でしか知らない。
「……ああ、今どこにいるんだ、バーボン」
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