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    sakaki_novel

    @sakaki_novel

    安赤の短め小説とか。

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    Twitter(X)の方で画像投稿していますが、色合いが読みづらいかな……とも思ったので、念のためこちらにも。

    #安赤
    #安赤ワンドロワンライ
    anAkkaWandolowanRai

    安赤ワンドロワンライ 黒/十五夜/魔王/お泊まり あれは魔王のような男だ。
     いつしか組織の中では、そのような噂が聞こえるようになった。無論、それまでにも、悪魔だのなんだのといわれる者に出くわしたことはある。だが、いずれも噂に過大な尾鰭がついており、虚仮威しにもならない者ばかりだった。
     じきに、噂の男と仕事をする機会が訪れた。とはいえ、こちらは狙撃手として遠隔から、顔も知らない彼をサポートする役目だったのだが……予定された時刻、予定された場所に彼らしき男とターゲットは現れなかった。
    「……ライ? 聞こえます?」
     インカムを通じて聞こえる男の声。俺は「バーボン」と呼ばれる男を、件の噂と、この声でしか知らない。
    「……ああ、今どこにいるんだ、バーボン」
    「あなたよりも、少しだけ月に近い場所に」
    「ふざけるな」
    「酷いな、本当のことなのに。でも……このまま暇を持て余してると、ターゲットは僕が片付けちゃうかも」
    「生かして捕らえろと言われていたはずだが」
    「不可抗力って、何事にもつきものだと思うんですよね」
    「いいから待て。すぐにそちらに行く」
    「ええ、特別に待っててあげます。……あと少しだけならね」
     くす、と喉の奥で笑みをもらし、彼はすぐに通信を切ってしまった。
     何を勝手な真似を……これ以上の面倒事に巻き込まれるのは御免だ。通信範囲と彼の言葉とから判断すると、十中八九はこちらの待機地点から南側に見えるビルの屋上だろう。俺はライフルを仕舞ったバッグを背負い、その場所を目指した。
     目的地は朽ちかかった廃ビルのようだった。屋上までをざっと外から見上げるが、電気系統は動いていない様子だ。ならば下手に中に入るよりはと思い、外階段を一気に駆け上がる。だが、屋上に到達する少し前に、一発の乾いた銃声が耳を打った。
     屋上では、男が仰向けに倒れていた。事前に聞いていた容貌と照合するまでもなく、それがターゲットに違いない。男は肩のあたりから出血しているらしく、低い呻き声をあげながら自身の手で押さえてはいるが、流れ出した血の染みが床に少しずつ広がっていこうとしていた。
    「残念。もう着いちゃったんだ」
     もう一人の男……バーボンは銃を提げたまま、漆黒のコートの裾を翻し、靴音を響かせてターゲットへと歩み寄る。ざり、と靴底が砂を噛む音とともに彼は片脚を軽く持ち上げ、倒れた男の喉元を踏み躙った。彼の構えた銃が、男の心臓に狙いを定める。
    「それ以上はよせ!」
     制止する俺の言葉と同時に、彼は表情を変えることなく引き金を引いた。……しかし、そこから発されたのは再度の銃声ではなく、カチリという軽い音だけだった。先程の一発が最後だったらしいことに、深く安堵の息をつく。そのうちにも彼はつま先を男から離し、銃をコートの内側に仕舞った。
    「よかったですねぇ。命拾いしたようですよ……ここでは、ね」
     青白く冴える月明かりに照らされた彼の横顔も、風にさらりと靡いた黄金の髪も、これまでに目にした何ものよりもはるかに美しく、それを確実に言い表すだけの言葉を俺は持っていなかった。彼は静かに、頬に飛んでいたらしい返り血を袖で拭い、乾いた唇を自身の舌先で軽く湿して、こちらへと柔らかな笑みを向ける。その仕草のすべてが凄絶なまでに鋭く俺に襲いかかっていた。
    「初めてお目にかかりますね、ライ。僕がバーボンです」
     快晴の空の色をした瞳が、俺をまっすぐに射抜いた。圧倒的な美と、妖艶でさえある官能との化身であるかのように、彼はただその場に佇んでいるだけだ。それだけなのに、俺は彼から目を背けるどころか、固唾をのむことすらもできないでいる。俺だけではなく、その姿を見た誰もが同じように思うだろう。
     ああ……彼は確かに、魔王と呼ばれるにふさわしい男だ、と。


     ……あれから数年が過ぎた。
     紆余曲折の末、俺と彼とは互いをコードネームではなく、本来の名で呼び合うようになっていた。それだけではない。今では互いの家を訪ねたり、時には夜を共にしたり……という、あの頃には想像すらしなかった関係にまで至っている。
    「あ、ススキはテーブルの右に。それから、お団子は後できな粉にしましょうか」
     ちょうど十五夜ということもあり、晩酌のついでに、と彼は月見を楽しむ準備をしていたらしい。窓際にテーブルを寄せて、酒やつまみだけでなく、簡単なお供えも用意して……という間、降谷くんは終始笑顔だった。時折混じる鼻歌もアップテンポの流行曲であり、随分とご機嫌なことは疑いようもない。
    「なに? じろじろ見たりして。やーらしいんだ」
    「いや、楽しそうで可愛いな、と思っただけだよ」
    「えー、そうかなぁ。絶対、僕より赤井の方が何倍も可愛いのに」
     彼はそんなことを言いながら日本酒を注いだグラスを差し出した。俺がそれを受け取ると、その手ごと、彼の掌にそっと包み込まれる。
    「ね、明日休みだし、泊まっていくでしょ?」
    「そうだな……どうしようか」
    「ちょっと、そこは即答でイエスじゃないの? あなたがどんなに可愛いのか、今夜じっくり教えてあげたいんだけどな」
    「……仰せのままに」
    「やった!」
     うふふ、と小さく笑いながら自分のグラスに手を伸ばしている彼の横顔は、あの日と同じ月明かりを受けていても、やはり可愛らしく思われる。本来の「降谷零」としての彼を知る者はそう多くはないはずだ。その彼の一番近くに居られることは、俺にとって何よりの幸福だった。
     ただ……時折だが、身を震わせるほどの畏怖の念を抱かされた、あの姿を懐かしく思うこともある。しかし、今でも彼からその片鱗が完全に失われたわけではない。……今日のように月の美しい夜の、ベッドの上でだけは。
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    sakaki_novel

    DONE【SECRET TRIGGER 7】書き下ろし。
    pixivで更新中のシリーズNo.18『君が纏う雰囲気が好き』の赤井さんバージョン。
    気持ちが読めなくて溜息をつく降谷さんの傍らで、赤井さんがどう思っていたのかのお話です。タイトルはあの有名なビーグル犬の絵本より。

    シクトリありがとうございました!
    パスワード外しましたので、どうぞご覧くださいませー。
    Happiness is a warm puppy「あなたのことが好きなんです……」
     あの日。おそるおそる、といったふうに彼……降谷くんはそう切り出した。
     突然何を言い出すのかとか、正気なのかとか……思うべきことは多くあったはずだ。だが、その時の俺は、彼のことをいたずらを咎められた子犬のようで愛らしいとしか思えなかった。
     あの組織で初めて彼に会った時から、彼に対してはずっと似たような印象を抱いていた。幼子や他の小動物ではなく、間違いなく「子犬」としか言い表せない何かを彼は持っている。普段は自信家で、明るく人懐っこい雰囲気でありながら、時々寂しそうに物思いにふけっている姿が、あの有名なビーグル犬のキャラクターを思わせるからだろうか。いや……そう難しい話ではなく、ただ単に、俺が動物の中では特に犬を好ましく思っているからにすぎないのかもしれない。
    7201

    sakaki_novel

    PAST第103回 安赤ワンドロワンライで投稿していたお話です。お題は【チョコレート】をお借りしました。
    pixivの方に赤井さんの差し入れコーヒーで始まるお話を載せましたので、再放送をば。
    安赤ワンドロワンライ【チョコレート】「あなたに毒を盛りました」
     自身のデスクで書類と睨み合う赤井の目の前に、降谷はトラベラーリッドが被せられた紙コップを一つ置いた。そして、もう片方の手に持っていた紙コップも、その隣に並べるようにして。二つのカップは大きさも模様も、巻かれたカップスリーブも全く同じで、どこかに目印がついている様子はない。無論、プラスチック製の蓋に覆われているからには、色や匂いも外からはわからない。
    「物騒なことを、随分と楽しそうに言うものだな」
    「ええ、僕の念願ですので」
     赤井の隣に立つ降谷は、くす、と笑みをこぼしながら、二つの紙コップの間で指先をゆるりと往復させた。
    「中身は近くで買ってきたコーヒーで、片方にだけ毒が入っています。あなたは必ずどちらかを選び、飲まなくてはならない。残った方は、僕が飲む。片方には死、片方には生が……ほら、あなたの好きな、あの名探偵が活躍する長編小説にも、そんなくだりがありましたよね? あれに倣った、賭けのようなものです」
    1922

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