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    sidumi_san

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    sidumi_san

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    #創作BL
    Original Bl

    王道学園BL進捗 学生にとって転校生とは一大イベントである。どんな人が来るのかという話題でクラスは持ちきりになるが、俺は別に楽しみではなかった。何故ならここはボンボンのお坊ちゃん共が通う男子校だからである。可愛い女の子が来る可能性が一ミリでも無ければ、俺の敵になりかねない存在が増えるだけなのだ。

    「じゃあ転校生を紹介します」

     担任の合図と共に教室に入ってきたのは、すらっとした長身に爽やかな笑顔のイケメンであった。周りは皆一瞬で彼に釘付けになった。

    石蕗つわぶき白翔はくとです!これからよろしくお願いしまーす!」

     彼の元気な挨拶に盛り上がるクラスメイトとは反対に、俺はぽかんと目を丸くした。

    「は、白翔……?」

     転校生はなんと十年来の幼馴染だったのだ。


     
     ここは桜庭星稜学園という私立の男子校である。大半の生徒は裕福な家庭の出身で、政治家や大企業の社長の息子なんかもゴロゴロ居るとんでもない学校だ。そしてそいつらは基本的に中等部からエスカレーター式で入学するが、その他の少人数は外部受験により入学する。俺のような一般家庭出身の人間は外部受験で入るしかない。外部受験の倍率は毎年二十倍を超えるので、中等部から上がるよりも難易度が高い。つまり俺は入学した生徒の中でもエリートだと誇ることができるだろう。ただ、その更に狭き門を突破する人間が存在した。

    「ねえ、転校生ってことは編入試験に合格したんだよね!」
    「凄く優秀じゃないか!君のご両親もさぞ立派な人なんだろう?」
    「えー?そんなこと無いよ」

     転校生……もとい幼馴染の白翔の元には興味津々の野次馬達が一瞬で集まった。家庭の事情に突っ込むデリカシーの無い質問にも気さくに答えており、相変わらず大らかな男だと感心した。この学校に転校してくるということは、入学試験以上に難易度の高い編入試験に合格した訳だ。つまり、白翔はこの場の誰よりもエリートだと言っても過言ではない。まさかあいつがそんなに優秀だったなんて知らなかった。前はいつも俺が勉強を教えていたくらいだったのに……。

    「……ん?」

     そんなことを考えていると、遠くから鋭い視線を感じた。まあ気のせいだろう、次の授業の準備を……いや気のせいでは済まないレベルの圧を感じる。恐る恐る振り返ると、目の前にはみんなと話していたはずの白翔が立っていた。

    「結月っ!」
    「うわっ!?」

     目が合った瞬間に白翔は勢いよく抱きついてきた。俺より一回りは大きい男の抱擁はパワーが強くて思わずぐえっと声が出てしまう。

    「嬉しいっ!また会えて良かった!」
    「は、白翔……久しぶり」

     このテンションの高さも相変わらずだな。俺が声を掛けると白翔の目が輝きを帯びた。

    「も〜びっくりしたよ、東高を受けるって言ってたのに入学したら結月居ないんだもん」
    「え……?」

     あっけらかんと話す白翔だが、話す内容はどうにも変だった。白翔が入った東高はこの辺りでも一番の進学校で、俺も受験したところだ。別に東高でも十分進学には有利なのに……どうしてここに転校してきたんだろう?

    「それで、結月は何でここに入ったの?」

     それは俺が聞きたいことなんだけど……。聞き返そうとすると、白翔は無言の圧で笑顔を近付けてきた。これは、こっちが答えるまで許してくれないやつだ。こいつは昔からたまに頑固な時あるんだよな。

    「えっと……実は結構ギリギリで進路を変えたんだよ。ごめん、言ってなかったっけ」
    「そうだったの!?聞いてない!」
    「俺の野望を叶える為には一番近道だと思って」

     俺の野望、それは将来社長になってバカにしてきた奴らを見返すことだ。俺をバカにしてきた奴らというのは大体、この学校の生徒のような金持ちの子供だった。偶々近所に住んでいて同じ学校に通っていたせいか何故か標的にされていた。そんな日々を一緒に乗り越えてきたのがこの白翔である。

    「そういえば結月、社長になりたいってずっと言ってたよね」
    「よく覚えてたな。ここじゃ将来社長になることが約束された人間がゴロゴロ居るだろ?そんな環境に身を置けるのはきっと役に立つから」

     何でも経験は早い内にしておくべきだというのが俺の考えだ。価値観の全く違う人間と今の内から接しておけば、将来上手く掌で転がす為の対策が出来るのではないかと思っている。

    「でも結月らしい理由で安心したよ。俺と一緒に居るのが嫌になったからだったらどうしようかと……」
    「もう、そんな訳無いだろ」
    「えへへ、今日からはずっと一緒だね!」
    「うん……それにしても、白翔は何でわざわざ編入してきたんだ?」

     今度は俺の知りたいことを教えて貰う番だ。目が合っただけで白翔は嬉しそうな顔をするので何だか調子が狂うな。ちょっと犬っぽい。

    「そりゃあ結月が居るからだよ?」
    「えっ」
    「何をするにも結月が居なきゃ意味が無いもん」
    「うーん……?」

     白翔の答えはあまりにもあっさりだった。俺が居るから?うーん、俺を理由に進路を決めてしまって良いのだろうか……?いや、別に理由があってはぐらかしてるだけの可能性もある。

    「白翔自身はやりたいこととか無いの?」
    「やりたいことっていうか、結月と居ることが一番大事だから……」

     つまり、特にやりたいことは決まってないってことか?まあ高校生ではっきりとした目標を持っている奴なんてそれほど多くはないだろうし仕方ないか。

    「じゃあ俺が社長になった時は雇ってあげるよ」
    「ほんと!?約束だよ!」

     冗談のつもりで言ったのに白翔は心底嬉しそうな顔をしたのでなんちゃって〜とも言えなくなってしまった。ずっと一緒に居た幼馴染だし、急に離れることになって寂しかったのかもしれない。
     その後は白翔を連れて校内を案内した。行く先々で白翔は注目を集め、色んな人達に話しかけられていた。きっと白翔なら持ち前の明るさでどこへ行っても上手く馴染めるだろう。この学校には奇妙な伝統があるので、それに巻き込まれてしまいそうな心配はあるけど。

    「じゃあ今日はこれでおしまいだな。俺は寮に戻るから」
    「俺も今日から寮だよ!結月は同室の人居ないでしょ?一緒の部屋が良いなー!」
    「え?まあ良いけど……」

     ここの生徒は気難しい人も多く人間関係が拗れやすいので、規則では同意を得れば部屋の交換は許可されている。そして俺と同室だった男は先週に突然部屋を出て行ったところだった。理由は分からないが何ともタイミングの良い……あれ、何で白翔は同室の奴が居ないと知っているんだろう?

    「丁度空いたとこだったし、部屋決まってないなら来たら?」
    「やったー!」

     俺も誰かに頼まれたらOKするつもりだったし、白翔なら気心知れてるから丁度良いかと二つ返事で受け入れた。白翔と同室になった奴がとんでもない金持ちだとしたら生活水準が違いすぎて問題も起こりそうだもんな。

    「良かった、結月が他の奴と二人部屋なんて絶対嫌だし……」
    「何か言った?」
    「ううん、何も!」

     寮の部屋は基本的に二人部屋で、二人分の机に二段ベッドと兄弟の子供部屋みたいなレイアウトだがその全ての家具が高級品だ。だから簡素な部屋でも環境にはあまり不満はなかった。そもそも一々驚いていたのは俺だけだったから他の生徒にとっては普通の環境なのだろう。寮に帰って部屋に戻ると、白翔は早速部屋中を見回していた。まるで入学初日の俺を見ているみたいだ。

    「ここのベッドは凄くフカフカなんだ。だからぐっすり眠れるよ」
    「へーめちゃくちゃ良いじゃん!」

     はしゃいでベッドにダイブする白翔に安心感すら覚える。やっぱりこんなベッドで寝れるなら普通はテンション上がるよな。白翔ならもっと喜びも大きいだろう。

    「ふふ、楽しみだなあ〜!」

     これから白翔が学校生活で困らないように色々教えてやらないと。俺にはその責務がある……そう、次期生徒会長として!
     

     それからは忙しい日々が続き、気付けば白翔が転校してきてからあっという間に一週間が経った。白翔の存在感は日に日に増していき、別クラスの人にも知れ渡っていた。やっぱり人を惹きつける力があるな……リーダーには必要な力だが俺には無いものだ。正直羨ましい。

    「ねえねえ結月、さっきの授業のここ教えて!」
    「えー?しょうがないな……」

     とはいえ、結局は俺とばっかり話している気がする。授業が終わる度に俺の席までやって来ては勉強教えてとニコニコしている。編入試験を通った白翔なら授業の内容くらい余裕だと思うが、頼られるのは悪い気分もしないのでいつも教えてあげている。

    「さっすが結月分かりやすい!」
    「へへ……まあそれほどでもないけど?」
    小田巻おだまきくん、良かったら僕にも教えてくれないかな?」

     白翔に教えていると、隣の席の生徒に話しかけられた。そういえば彼の苦手科目だったか……まあ人数が増えたところで俺に支障は無いし別に良いか。

    「……はあ?」
    「ひっ!」

     ふと時計を見ると次の授業まであと三分という時間だった。まずい、先生に課題を集めるよう頼まれていたんだった。

    「ごめん、もうすぐ次の授業だから後ででも……」
    「や、やっぱり自分で復習するよ!邪魔して!」

     俺が話し切る前に彼は急に慌てたように席を離れて行ってしまった。目を離している間に何か白翔と話してたような気がするけど……気のせいか?
     
    「あれ……良かったのかな」
    「別に結月に聞かなくても大丈夫だったんでしょ。それより、課題集めるんだっけ?俺も手伝うよ」
    「あ、ありがとう」

     スマートに俺を手伝ってくれる白翔に感謝しつつも、さっきまでと比べて機嫌がちょっと悪くなっているように見えた。もしかして俺の教え方が悪かったのだろうか……後でまたちゃんと教えてあげよう。
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