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    piiichiu

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    piiichiu

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    ヨハナが花の手作り料理を食べるだけの話

    人に言うと意外に思われるが、花道は草花を育てるのがけっこう得意だ。
    草花が、それぞれに必要なものが違うことをちゃんと知っている。
    この花には太陽を直接当ててはいけないとか、当てなければいけないとか。水や栄養は、ただたっぷりやれば良いと言うものではないこととか。それぞれの草花に必要な分の必要な何かがある。時期も大事。人間に似てる。そう言うのがあることを知っている。

    花道の住むアパートは格安で、だからか人の移動があまりない。二つ隣のばあちゃんは、花道が生まれる前からそこに住んでいる。見知った人ばかりだから、安心だ。アパートの建物と道路前の塀の間に、ごく狭い共同庭スペースがあって、花道はそこでプランターでミニトマトを、地植えで葉ネギと大葉を育てている。ネギはいい。何に入れても、ちょっと旨くなる。体にも良いらしい。
    どれも、大した手間のかかる野菜ではないので、基本はほったらかしだ。食べごろになったら取るのと、必要な時に水と追肥をしてやるくらい。

    夏の午後、洋平が来たので籠を渡して食べごろのミニトマトを収穫させた。採れたてのミニトマトを洗って、玉ねぎと鶏肉と炒めた。炊き立ての米をボールにとって、大葉と白ゴマとおかかを混ぜて、醤油をかけてガシガシ混ぜた。冷奴にもおかかをかける。味噌汁の具も豆腐。豆腐屋のおっちゃんが良い人で、店が終わる頃貰いに行くといつでもくれる。花道の食卓には必ず一、二品豆腐料理がある。

    「出来たぞー」
    「おお、うまそう」

    丸いちゃぶ台の上に料理を並べていく。混ぜご飯は好きだが、全部に混ぜるだけの具がないので、半分以上は白飯だ。花道は混ぜご飯をおかずに白飯を食べれる。しょっぱいものはなんでもおかずにできる。
    花道の家にあるのは貰い物の古い業務用の炊飯器で、花道のアパートのあまり広くはないキッチンスペースの半分を占領している。古いが、調子はいい。いっぺんに一升炊けるから、花道は毎日一升炊いている。それを毎日食べきっている。なんなら足りずに、冷凍してある米も食べることがある。

    「いただきます」

    洋平が手を合わせる。花道もそれに倣った。かちゃかちゃと食器が触れ合う音が部屋に満ちる。
    花道の丼はでかい。
    小さな茶碗では、何度も何度もおかわりしなければならないから、実用的にこのサイズになった。洋平は、たぶんあの丼は米というよりはうどんとか蕎麦とかを食べる意図で作られたのではないかと疑っている。
    その丼の白米の上に冷奴を乗せて、たっぷり醤油をかけて、庭でとってきた葉ネギのみじん切りをたっぷりかけて、混ぜて食べる。
    あっという間に一杯食べきって、花道は丼に米を盛った。毎回立つのも面倒なので、炊飯器をそのまま畳の上に持ってきている。

    「このネギ、庭のネギ?」
    「そう」
    「うまい」
    「そうだろう。採れたてだからな」

    花道は冷奴だけで丼2杯を食べた。混ぜご飯を1杯食べ、半分の混ぜご飯に白飯をのせ、醤油をかけて食べた。それから、鶏肉とミニトマトの炒め物を米に乗せる。花道の食卓の内容は、ほとんどが貰い物だ。商店街の店仕舞いの頃に、その日に賞味期限が切れるものを貰いにいく。たくさん貰えた日は凍らせておく。今日は鶏肉がたくさん貰えたのでラッキーだった。花道は鶏肉が好きだ。豚肉も牛肉も好きだが。肉全般が好きだ。
    鶏肉と米は合う。最初はそのまま、次に醤油を足して米をまた2杯食べた。

    「ン。これもうまい」

    鶏肉とミニトマトの炒め物を食べて、洋平が言う。

    「オレ、トマトってそんな好きじゃねーんだけど、花道のトマトだけは好き」
    「トーゼン」
    「不思議だよなあ、なんでこんなうめーんだろ」

    首を傾げる洋平が、また一口米とトマトを食べる。
    洋平が普段食べてるトマトのことは知らないが、自分で採った野菜は不思議とうまい。採りたてはうまい。あと、洋平はあんま酸っぱいの好きじゃないから、火が通ったトマトの方が好きだと思う。大体そんなところだろうと思うが、花道は特に何も言わなかった。米で口の中がいっぱいだったのもある。花道は味噌汁にネギのみじん切りをかけた。味噌汁をおかずにさらに1杯食べる予定である。

    「花道はスゲーよな。こんなん、オレ育てらんねーもん」

    意外なことに、洋平は草花を育てるのが得意ではない。小学校の時もホウセンカを枯らしていた。とにかく、水をやりすぎる。あるいはやらなすぎる。こんなに小まめな男が、何故かそうなる。つまりは、興味が足りないのだろう。別にそれでいい。洋平は他の花なんか、育てる必要はない。

    「洋平がちゃんと世話できる花は、オレだけだな」

    花道がそう言うと、洋平は一瞬ぽかんと間抜けな顔をして、それからへにゃりと笑った。
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