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    tsutsuddd

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    tsutsuddd

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    ホットリミット2周年ということで妄想
    ニキ視点のモノローグ

    CP要素の意図なし
    HLイベストで描写されていない部分の捏造あり

    こんな夏なら 夏は嫌いだ。
     強い日差しは火傷しちゃうくらいにじりじりと熱いし、むっとした重たい湿気は食べ物を腐らせるから。
     それに生きてるだけでお腹が空いちゃう僕からどんどん体力を奪って、さらにお腹を空かすように強いてくる。だから嫌いだ。
     あの時もそうだったな。家にあった食料が全部だめになっちゃって、僕はひとりで街を歩いてたんだっけ。
     その時、薄暗い道端に燐音くんを見つけたんだ。


     もうすぐ九月も終わるのに、『残暑』なんて控えめな顔をして、暑い夏はまだここにどっかりと居座っている。
     午前中に始まった暑気払い企画『ホットリミット』ももう終盤。出場したコンテストを全て制覇した僕は、ステージの袖に戻ってエナジーゼリーを吸い込みながら、先にステージに出ている三人を眺めていた。
     いつもはとってもクールなHiMERUくん。
     最年少にしてユニットの良心のこはくちゃん。
     相変わらずテンションが高い燐音くん。
     みんな暑さで顔を火照らせて、これまでのライブよりずっと明るい顔で、すでに盛り上がってるお客さんたちをもっともっとと煽ってる。

    「あっ!ニキはんが来たで!」
    「コンテストに参加しているとはいえ遅いですよ、椎名」
    「ニキきゅん、大好きなお料理しすぎて疲れちまったかァ?」
     お客さんから見えないところでみんなを眺めてた僕に気づいて声をかけてくる。早く早くと手招きするみんなは、いつも通りの強気な顔で、でもいつもより子どもっぽいというか、年相応な顔をしている気がする。

    「チキンナゲットはチキンナゲットらしく、出来立てで美味しいのをお客はんに最後まで平らげてもらわんとあかんやろ?」
    「時間が経つと美味しくなくなりますからね、今食べてもらうのが最適でしょう」
     こはくちゃんとHiMERUくんが、燐音くんと僕がしていた例え話に乗っかって軽く笑いながら、僕を急かす。

     そっか。ふと、もう一度、思った。 
     朝の最初のステージでも燐音くんに言われたけど、

     僕はひとりぼっちじゃないんすね。
     燐音くんとふたりきりでもないんすね。
     信じて頼りにできるHiMERUくんも、こはくちゃんもいるんすね。

    「ニキ」
     燐音くんが僕の名前を呼ぶ。ん、いつもより声がちょっと優しい気がする。
    「何すか?燐音くん」
    「一日中歌って踊って料理して、お腹いっぱいになったかァ?」
     いつも通りのふざけた調子で、僕に言った。

     そうっすねぇ……、

    「お腹いっぱいっすけど、なはは~、まだまだ食べ足りないっすね!」
     僕がにーっと歯を見せて笑うと、燐音くんも同じように白い歯を見せて、目を細めて、
    「きゃはは♪それでこそニキっしょ!」
     と言って、早く来いよと言うようにちょいちょいと手招きをした。

     残り僅かだったエナジーゼリーをずずっと一気に飲み干してゴミ箱に放るように勢いよく入れて、僕はステージに走り出た。
     この熱々のチキンナゲットを、お客さんたちに美味しく食べ切ってもらうために、食べてもらうだけじゃ足りないから、僕も食べるために。
     そして、観客席に向かって呼びかけた。
    「みんな!今日は『ホットリミット』に来てくれてありがとうっす!暑い夏にさよならの挨拶っすよ!準備はいいっすか!?」
     わぁぁっ!と歓声が上がる。
     手をいっぱいに挙げる人。タオルを振る人。弾むようにジャンプする人。その顔は全部笑っている。暑いのなんかどうでもいい感じで。むしろ、この暑さをつくってるのは自分たちなんだぞ、みたいな感じで。

     先週までは、店長に声をかけられたコンテストに出るかどうか悩んでたのに。
     今は、そのコンテストどころかもっといっぱいのコンテストに出て、いっぱい料理を作って、他の出場者の料理もいっぱい食べて、ステージでいっぱい歌って踊って。
     さっきのコンテストで優勝したって言ったら、HiMERUくんもこはくちゃんも、「自分も食べたかったなあ」ってちょっと羨ましそうに言って。
     ステージでいつも通りのノリのアドリブをしたら、お客さんが喜んでくれて。
     全国の料理コンテストをライブと一緒にこの会場でやるって企てて、姐さんと一緒に準備してた燐音くんは、冗談なのか本気なのかよくわからない調子で明るく、「やっぱニキは天才っしょ」って。
     そんなことないんだけどね。厄介な体質に生まれちゃった時点で、神様から大したものなんて与えられてないんすよ。
     でも、料理を褒められるのも、ステージで歌って踊って笑ってもらえるのも、嬉しいっすね。
     気持ちばかりがどんどん高ぶって、脳の理解が追いつかなくなって、燐音くんにキスしてもいいか聞いちゃうぐらい、すごくすごく嬉しい。


     そろそろ、白く眩しく輝く太陽が、卵の黄身みたいなオレンジ色の夕日に変わろうとする時間だ。
     暑い夏があとちょっとで、終わろうとしてる。今年の夏はいつもより、めちゃくちゃ暑かったかも。
     バイトしたりライブに連れてかれて歌って踊ったり、あと麻雀やらされたりして。それと前よりサラダみたいな健康志向の料理とか和菓子とかいっぱい作ったから料理のレパートリーが増えたな。他にもいろいろあった。今までで一番蒸し暑い夏だった。

     夏は嫌いだ。食べ物が黴びないように気を遣わなきゃいけないし、暑い分いっぱいカロリーを取らないといけなくて、考えることがいっぱいで、こんな体質の僕が生きるにはすっごく大変な季節だから。

     でも、みんなとお腹いっぱいになれる夏なら、悪くないっすね。
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