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    jan114rm

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    jan114rm

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    ?年後ドラヒナ、お花見に行く話

     雪みたいに散る桜を見ている
     散る桜の中に君を見ている

    『きれいだな』

     そう言って振り返る君を思い出す

    「きれいだね」

     華やかだが終焉のそれを君みたいだとは言いたくなくて、美しさだけを誰にともなく呟いて、降り続く桜を見ている


     この時期の寒さは花冷えと言うらしい。いくら風情のある言葉にしたところで、時期外れの寒さは堪える。片付けかけた冬用のコートを引っ張り出して、訪れたシンヨコ某所の桜並木の川辺は満開の桜をたたえていた。
     いつか見た桜も、今日と同じで美しかった。
     その時も彼女が桜を愛でたのは最初の数分で、あとはお手製花見弁当をひたすらおいしい!とがっついていた。
     懐かしい。
     今も昔も花より団子のお手本みたいな人だ。
    「ドラルク!」
     呼ばれて振り返れば、ヒナイチくんが小走りで駆け寄ってくる。少し遅れると連絡を貰ったが、待ち合わせ時間との差異はあまりなかった。
    「すまない、待たせた」
    「全然、お疲れ様」
     非番だが吸対に寄ってから合流すると言っていたので、吸対の制服とまではいかないがややかっちりした仕事向けの格好だった。その服装に少し似つかわしくない、生活感のある保冷のバスケットを携えている。

     花見に行くと決まった時に、いつも作ってもらうからお返しに今日は私が何か作るとヒナイチくんから申し出があった。と言っても食べられるものが少ないので申し訳ないよと最初は答えたが、いや、その方が助かる、あまり凝ったものは作れないしと小さくなっていた。
     じゃあ折角だしと、いつものサンドイッチをリクエストしてお言葉に甘える事にした。自分以外の人の手料理もいいものだ、まして好きな相手ならば尚のことだ。

     丁度空いたベンチに座り、ヒナイチくんがいそいそと持ってきたものを取り出していく。
    「ブラッドジャムサンドと、バクダンおにぎり。具は鮭たらこツナマヨだ!」
    「いやでっか」
    「ひとつにまとめてみた」
     得意げで満面の笑みの彼女からお弁当の中身の説明を受ける。特に何合握り込んだのか分からないおにぎりは、旨い!を詰めて握ってきました!こういうのがいいんだよ!という潔さに好感が持てる。まぁつまり可愛いのだ彼女は。
     私もデザートは作ってきたよと、下げていたトートバッグから蓋付きの小さめの籠を取り出す。
     蓋をあけると、桜餅といちごの乗ったプリンと桜の塩漬けを載せて焼いたディアマンクッキーが、各多めの1人分ずつ行儀よく並んでいる。
     彼女はぱっと表情を明るくしたが、すぐ困った様に眉尻を下げた。
    「こんなにいっぱい作って、私が作るって言った意味がないじゃないか!」
    「あ、いらない?「いただく‼︎‼︎」」
     食い気味に返されて吹き出してしまった。

     一通り食べ終えて、マグボトルに入れてきた紅茶で一息ついた。作ってくれたサンドイッチは美味しかったし、おいしそうに食べる顔も見れたし桜はきれいだし、満たされた気持ちに口角が上がる。
     冷たい風が一陣吹いて、また花びらを散らした。
    「今年はちょっと寒いな」
    「ウエーンもうちょっと着てくればよかった死にそう……」
    「ここで死ぬなよ、花咲じいさんみたいになるぞ」
    「いや桜に攫われるとか言ってくれたまえよ」
     仕方ないな、とヒナイチくんは身に付けていたストールを外し、私にくるりと巻いてくれた。
    「いや、いいよ君だって寒いでしょ」
    「お前よりは平気だ、うっかり死んで塵が飛んでいかないようにする手間を考えればこれが最善だ」
     うーん確かに。じゃあこれもお言葉に甘えて。結構温もりにはなるが、ヒナイチくんの香りがするのでちょっとそわそわする。
    「でも早めに戻るか、一応お花見はしたしな」
    「ああ、うんそうだね」
     早めにしなくてもいいんだけど、とは言わないでおいた。

     忘れ物はないなと確認し、桜並木を後にする。
     夜も更けまた一段と肌寒さが増した帰り道に、ヒナイチ君、と一旦呼び止めた。
    「寒いし、お手をどうぞ」
     ストール借りたし、お返しにドラちゃんポッケへご招待だよ〜と冗談めかすと、いいおっさんが可愛こぶるのはよくないぞ戒められた。ウッ死にそう。
    「じゃ言い方を変えよう。手を繋ぎたいんだけどだめ?」
     途端に言葉に詰まってまたおまえはそんなとかモゴモゴ言ってる。照れ屋で初心なところは昔からあまり変わらない。つい先にワンクッションで戯けてしまうが、彼女には正攻法で攻めるしかないのだ。
    「お、おじゃまします……」
     おそるおそる重ねられた手を、ポケットの中へ招き入れる。
    「いやお前手つめたいんだが」
    「ヌア──ッ誤算‼︎ごめんね離す、」
    「いや」
     ポケットの中で、体温の低い手をゆるく握り返される。
    「このままで」
     たったこれだけで浮かれる自分も、大概垢抜けない。すっかり冷えた春の夜の中、歩幅を合わせながら家路を急ぐ。

     桜の花びらが際限のないように降り続いている。
     この景色と、繋いだ手ごと永遠だったらいいのにと益体もない事を思った。
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