「隊長はいずれ転化するのか?」
吸血鬼対策課へ赴いた退治人ヒナイチは、まとめた報告書をドラルク隊長に渡しながら何の気なしに尋ねた。
今回の概要は、吸血鬼へ転化して日の浅い元ダンピールによる能力の暴走というものだった。
そういった事象の全ては期間に個人差はあるが一時的で、VRCから提供される抑制剤を投与の後、経過の観察で終わる。
そんな報告書の内容からの連想ゲーム的に至った質問だった。
「うーんどうかな、とりあえず現役でいる間はないけど、いずれはそうするのかな」
はっきりとはまだ決めていないけれど、転化しないっていうのも親族がうるさそうでねとドラルクは眉間に皺を寄せた。
ちなみに三徹目らしく、深くなったクマにしかめ面をするとますます具合が悪そうに見える。
いずれは吸血鬼に、か。
少し寂しい。
……
さびしいってなんだ?
ヒナイチは唐突に湧いた感情の出どころが分からず首を捻った。
ダンピールでも吸血鬼でも隊長は隊長だ。
そう思うのに、転化した後を想像すると遠くなってしまうような、対岸でさようならと手を振っているような、そんな寂しさが過るのだ。
今でさえそうなのに、またさらに手が届かなくなってしまいそうで。