身一つで草原に佇んでいた。
「本当に、見事な場所だな……」
眼前に広がる光景に、ヒナイチは何度めかの感嘆の声をもらした。
遮るものはなく遠くまでよく見渡せた。あちらこちらに気ままに咲いて揺れる色とりどりの花が美しい。
見たことがあるようなないような、知っているような知らないような場所。
管理された庭園のようでいて、手付かずの自然の逞しさが矛盾なく共にある。
暑さも寒さも、忘れたように穏やかだ。
せっかくなのでとあてもなく散策を始める。踏みしめる土や草の感触が楽しい。足取りは軽く、気の向くままにどんどん歩が進んでいく。
途中、大木が程よい木陰を作っていたので足を止め根本へ腰掛ける。風が草花を揺らし幾重にも軌跡を作って吹き抜けていくのを飽きずに眺めた。
ポンチな吸血鬼で毎夜騒がしいシンヨコ、そこで吸血鬼対策の任務に就く自身の仕事柄、こんなにゆっくりした時間は最近、いや近年なかったように思う。
うん、いいところだな。
こういうところでピクニックなんていいな、きっと日が落ちたら星がきれいに見えるから、お弁当を作ってもらってみんなと一緒にきたいな。おかずは何を入れてもらおうか。
「見つけた」
ふいに空の方から声がして、直後大きな影が落ちる。
遮ったものに目を向けると、黒々とした巨大な蝙蝠が青空を切り取るように浮かんでいた。