今日はなかなかハードな一日だったとヒナイチは振り返る。
とはいえ大量発生した下等吸血鬼の駆除など珍しい事ではない。土砂降りの雨の中、どろどろになりながらの作業もままある事だ。ただでさえ環境の悪い中、何もしないのに『早く済ませろ仕事だろう』などと口ばかり動くようなひとくせある人物にあたるのも、よくある事だ。
達成感に乏しく疲労だけが蓄積される一日。
取り立てて珍しい日ではない。
「あれ……?」
諸々を終え、ようやくたどり着いた寮の自室の扉の前で、ヒナイチは鞄の中をごそごそとまさぐる。鍵が見つからない。底か隙間かに上手く引っ掛かっているならいいが、署のロッカーにでも置き忘れてきたか最悪何処かで落としたか。焦って引っ掻き回して、鞄の中がすっかりぐしゃぐしゃになった頃にようやく探りあてた。ほっとはしたものの、それが表面張力の最後の一滴だった。つかれたな、とため息に乗せてこぼすと本格的に疲労を自覚してしまった。
あと一歩進めばとりあえずは休めるドアの前から踵を返し、夜の闇の中足早にそこへ向かった。