火黒 AM6時消防士の場合 六時
オレの恋人は、保育士をやってる歴とした男だった。
名前は黒子テツヤ。
今日はそんな恋人と休日の過ごし方を紹介したいと思う。
朝、目覚ましよりも先に起きる。今日は非番でこんな早く起きる必要はないけれど、それでも染みついた生活習慣は崩せない。隣で眠る恋人の黒子は、まだ起きる気配は見せない。なんせ昨日は今日がお互い休みのせいか、大変盛り上がってしまったのだ。おかげでオレはスッキリして目覚めも良かったが、黒子は途中で意識を飛ばし、後始末はオレがしてやった。
保育士になってたくさんの子供たちと接するのが増えたせいか、体力は増えましたと黒子本人は言っていたけれど、少し信じがたい。なんせ、ハードに部活をしていた頃と比べても、体力は今と変わらない。むしろ、衰えた気がすると言ったら怒られそうだが、実際そうだ。
そんなこんなで、オレに抱き潰されて可哀想な恋人のために、家事を一通り済ませてやる。平日は黒子が、非番の日はオレがすることになっているから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
起こさないようにベッドから抜け出して、脱ぎ散らかした服を集めながら、洗濯機の中へ放り込んでいく。乾燥までしてくれる洗濯機だが、今日はいい天気らしいので外に干す事にしてスイッチを入れる。
赤と水色の並んだ歯ブラシの一つを取って、歯を磨きながらキッチンの冷蔵庫の中身を確認する。一日家に篭っていても、十分足りるくらい食材が入っているが、黒子の具合次第で家で食べるか決める事にして、とりあえず朝食の下拵えと、コーヒーメーカーに豆だけはセットしておく。
洗面所に戻り、口を濯いで顔を洗って、一通りさっぱりしたところで、キッチンへ戻る。当然黒子は起きているはずもない。休みの日はいつもそうだ。
この分だと最悪昼まで起きてこないかもしれないと予想しつつ、昼でも食べられるようにパンをスライスしていく。サンドウィッチなら、いつでも食べられるだろう。
火をつけたフライパンにベーコンを並べ、マヨネーズとマスタードを混ぜた物を塗ったパンには、洗ってあるレタスを千切り、トマトを並べた。
ちょうどいいカリカリ具合になったベーコンを乗せ、パンで蓋をして半分に切る。もう一つは黒子が作っていたゆで卵を潰し、マヨネーズと和える。うん、上出来だろ。ついでにきゅうりも挟み、パンで蓋をして同じように包丁で切る。こっちは、もう一度半分に切って、黒子の食べやすいようにしてやる。そういうところが甘やかしていると言われるが、実際そうだと思う。オレは黒子に甘い。
一通りサンドウィッチが出来たところで、水色のマグカップをコーヒーマシンにセットしてボタンを押せば、あっという間にアメリカーノが出来る。朝の一杯を存分に味わいながら、適当にテレビを付けると、ちょうど今日の天気予報がやっていた。晴れ時々曇りのち雨。一日で目まぐるしく変わる天気に、洗濯物が少し心配になった。やっぱり乾燥機にかけたほうが良いかもしれない。
そうこうしているうちに、洗濯機の止まる音がして、一瞬だけ迷った挙句、結局乾燥機のスイッチを押した。今日の予定は未定だし、いつ降るかわからない雨のせいで洗濯物を濡らす必要はない。
一通りモーニングルーティンをこなし、ふと時計を見ると、まだ八時にもなっていなかった。手持ち無沙汰になったオレは、少しだけ様子を見るために寝室に向かう。こんもりとした布団。そっと覗き込めば、黒子はまだ夢の中で、どこか幸せそうな顔をしている。どんな夢見てるんだよ、と突っ込みそうになりながら、起こさないように、さっきまで自分が寝ていた場所に滑り込む。オレのTシャツを羽織っただけの黒子は、当然下は何も付けていない。そんな状態のまま、黒子はオレの身体に擦り寄ってきて、男にしてはすべすべした足をオレに絡ませてくる。多分寝ぼけているのだろう。だが、恋人にそんな事をされたら、嫌な気にはならない。むしろ、嬉しい。普段の黒子は甘えてこないし、正気の時はベッドの中でさえ恥ずかしがって殴ってくる始末。オレはここぞとばかりに黒子の背中に腕を回すと、隙間がなくなるくらい抱きしめる。バスケを辞めてから落ちてしまった筋肉のせいで、やはり高校時代より身体は薄くなった気がするが、それでも抱き締めて首筋に顔を押し付けるのが堪らなく好きだ。肺いっぱいに黒子の匂いを吸い込んで、身体中黒子で満たす。それだけで幸せな気持ちになれるのだが、本当はもっとキスをして舌を絡ませて、奥までオレで満たしてやりたい。だが、昨日散々したせいか、これ以上手を出せば間違いなく口を聞いてもらえなくなるだろう。だから、我慢だ。だけど、ちょっとだけ。ちょっとだけだから、許してほしい。
薄く開いた唇に己を重ねながら、舌で歯列をなぞる。黒子の口は小さくて、舌を突っ込めばそれだけでいっぱいになる。昔、突っ込みすぎて息ができないと怒られた記憶はまだ残っていた。だから、微調整しながらそれでも口の中を蹂躙して一人黒子を堪能したオレは、満足して舌を引き抜くと、薄らと開いた黒子の目と合ってドキッとした。
「おまっ、起きてたのかよ……」
まずい、怒られる――そう思ったものの、黒子はオレの顔をじっと見つめたまま、人差し指で鼻を押し付けた。
「かがみくん……勝手にキスしたら、めっ、ですよ?」