黄黒パイロットの場合 二十時
「くーろこっち、お風呂入ろ? 今日はミルキークリームの入浴剤入れたんスよ!」
「はぁ……」
食後の休憩の後、黒子っちを脱衣所まで連れてくると服を脱がせて裸ん坊にした。今日の黒子っちはどうも大人しくて、体調が悪いのかと尋ねても首を振るばかり。
オレ特製の美味しくて愛情たっぷりのご飯は残さず食べてくれたけれど、それでも心ここに在らずって感じで、少しだけ不安になる。
「ほんと大丈夫? 具合悪いなら無理しないで」
「くどいです。大丈夫だって言ってるじゃないですか」
「ならいいんスけど……」
思わずぎゅうって抱き付いて、その体温を感じてみる。熱すぎず、冷たすぎず――まさに、適温なその身体は心地が良い。
「入りましょう」
「うん」
振り払われることなくそのままバスルームに入ると、黒子っちは淡々とシャワーコックをひねる。
オレはくっついたままなのに、黒子っちは気にも止めてないのか、スポンジにボディソープを含ませて洗い始めたので、仕方なく身体を離した。
いつもと違う黒子っちの態度に、オレの心は次第に心配よりももやもやが募っていく。
何かしてしまったなら教えて欲しい。むっとして、やめてください黄瀬君とか、鬱陶しいですとか、なんでもいい。もっとオレのことみて、オレに構ってほしいのが本音だ。
「ね、オレ何かしちゃった?」
つい気になって口から出た言葉は、ちゃんと黒子っちの耳には入ったらしい。全身泡だらけのまま振り返り、オレの顔をじっと見つめたあと、突然抱き付いてきた。
「な、にどうしたの?」
「きせくん……」
さっきとは打って変わって、あまりに唐突なデレに、感情が追いつかなかった。
泡だらけでしっとりした肌はミリも残さずくっついて、正直理性が持たない。昨日、帰ってから今日が休みだったからいっぱいイチャイチャしようと思ったのに、なぜかそのまま寝てしまい、気が付けば朝だった。珍しく黒子っちも乗り気だったのに、なんて事をしてしまったんだと後悔しまくったが、黒子っちは無表情でまたしましょうと言ったきり、そのままその話題は終わってしまった。
普段、淡白でそういうことに興味もないのかと思っていたからこそ、少しだけ残念で。ムラムラはしたけど、ガッついて嫌われたくなくて、結局昼間も何もできないまま、夜になってしまった。
「今日本当どうしたんスか。いつもの黒子っちじゃないみたい。ね、なにがあったか教えて? オレ、何かしちゃった?」
泡だらけの身体をシャワーで流しながら、黒子っちの顔にキスを贈る。黒子っちはそれを受け止めながら、少しだけもじもじした後に口を開く。
「……黄瀬君は、もうボクの身体に飽きてしまいましたか?」
「え、なんて? ちょっと、なんでそんな思考になってるんスか?!」
「昨日は、えっちしなかったので……だから、今日はするのかなって期待して……。でも、なにも、なかったので……」
黒子っちの口から出た言葉に、オレは鈍器で殴られたような感覚に陥った。
えっ、つまり黒子っちはオレとエッチがしたかったって事……?
「もしかして、エッチしなかったから、オレが飽きたと思ったの?」
「はい。キミはモテる人なので、ボクには飽きてもうしたくなくなったのかと」
「んなことある訳ねぇし! アンタ、何勝手にオレの気持ち想像してんスか! オレは、黒子っちがエッチできなくてもなんとも思ってないのかと思って、あんまり無茶させたくなくて……」
言葉に出した後、オレはある事に気がつき青ざめた。
もしかして、オレも勝手に黒子っちの気持ちを決め付けてたんじゃ?
「その言葉そっくりお返しします。ボクの気持ち勝手に解釈しないでください。……つまるところ、ボクたちはお互いを勝手にしたくないと決めつけたんですね。すみません」
案の定、黒子っちからのツッコミにオレは居た堪れなくなった。オレも勝手に解釈して、黒子っちはエッチしたくないって思ったのは大きな間違いだ。
「謝らないで。オレの方こそごめん。オレは黒子っちが大好きだから、飽きることとか絶対ないから。お風呂上がったら、ベッド連れて行ってめちゃくちゃにしていい?」
唇と、耳にキスをして、身体をより密着させた。
「ボクのこと、抱いてくれるなら良いです。キミの好きにして、たくさん愛してください」
「うん、する。いっぱい愛すよ」
そんな可愛いお願いされたら、拒絶なんかできっこない。するつもりもないけど、反則だよ。
「でもその前に、せっかくだからお風呂入ろ? それで、いっぱいキスしてあげる」
「……お手柔らかにお願いします」
「どうかな。出来るだけ頑張ってみるけど」
「頑張ってください。ボクも、頑張るので」
黒子っちを抱き抱えてバスタブに浸かり、もう一度キスをする。暑い夜は、まだまだこれから。