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    青黒 12人の彼氏と黒子

    青黒警察官の場合 十六時

     昼前まで降ってた雨は小雨となり、次第に晴れ間が見えてくる。隣のテツは、そんな空を見ながら何かを思い出したかのように手を叩き、オレを見た。
    「青峰君。ボク行きたい場所があるんです」
    「おう、なんだ言ってみろ」
     テツの考えることは大体バスケか本屋かマジバだ。外のストバスコートは雨上がりだし無理として、となると選択肢は二つ。まぁ、実質一つだが。
    「コインランドリーに」
    「……は? コインランドリー? マジバじゃねぇの?」
     まさかの単語にオレは思わず聞き返してしまった。あのテツの口から、コインランドリー。正直理解できなくて、なんでだって顔をしていたら、ちょっとムッとした顔をした。
    「今はマジバはいいです。それより、コインランドリー行きましょう。シーツと他の洗濯物が大変なんです。誰かのせいで」
    「あー……」
     トゲトゲしい言葉に、オレは自分がしたことを思い出す。
     そう、昨日の夜は今日が非番だったせいでテツを散々泣かせたんだった。テツは相変わらず体力もねぇし、最後は意識も飛ばして全身酷い有様で(ほとんどオレのせいだけど)そのせいでシーツは二枚ダメにした。夏用のシーツはそれっきりで、今日シーツが乾かねぇと無いと眠ることすらままならねぇ。家の乾燥機もあるが、それ以外にも洗うものが多く、フル稼働中だった。ともなれば、コインランドリーに行かなきゃなんねぇのは、決定事項だ。
    「今から行けば夕方までには帰れます。力持ちのお巡りさんなら車も出してくれますよね? ボク、どういう訳か腰から痛くて」
     テツのでかい目が、オレを捉える。その目は一見、純粋に願い事をしてくる可愛らしい恋人にしか見えないが、中身は責任取れこの野郎! と凶暴で手が早い。まぁ、そこがテツのいい所でもあるし、そうしちまったのはオレの責任だから拒否権はない。
    「しゃーねぇな。連れていけばいいんだろ」
    「はい。よろしくお願いします」
     律儀に頭を下げるその様は至って真面目で好青年だ。なのに、ベッドの上では乱れて可愛くなるんだから、そのギャップがたまらなかった。
     オレはテツの頭をくしゃくしゃと撫で付けてやる。出会って十五年。大きな喧嘩もないが、穏やかに流れるこの時間が嫌いじゃなかった。

     車で十分ほど走らせると、くだんの場所はあった。道中、助手席のテツは機嫌良く外を眺めながら帰りにマジバに寄ってくださいと言っていた。オレは結局行くのかよと喉元まで出掛かっていたのを飲み込んで、二つ返事で了承する。
     駐車場に入ると、意外にも車はほとんど見当たらなくて、入り口近くに車を止めると、カゴを抱えて急いで中へと入る。店内は大きなドラム式洗濯機や乾燥機が並んでいて、そのいくつかはすでに先客がいた。
    「青峰君、ここにしましょう」
    「あったか?」
     テツは自分で持っていたカゴの中身を洗濯機の中へぶちまけて、オレの方も一緒に中へと入れた。洗濯機はそれで満タンなのか、蓋を閉めてお金を入れるとぐわんぐわんと回り出す。全てが終わるまで一時間。どこにも行く予定もなく、近くにあった椅子に並んで座る。店内に客はオレ達だけ。なんとなく手持ち無沙汰になり、同じくぼんやりと回る乾燥機を見つめるテツの指を絡めた。
    「青峰君」
    「なんだよ。手くらいいいだろ」
    「何も言ってません」
    「目で言ってるだろ」
    「じゃあ、ボクが考えてることくらいわかるでしょう」
     そう言ってオレをじっと見つめるテツは、どこか欲情しているように見えて、オレはそのまま唇に触れた。その瞬間、強めの力で握り返されて、これが間違いじゃない事を実感する。いつ、誰が来るか分からないコインランドリーの中で、軽く触れ合うだけのキスは次第に深くなっていく。
     柔らかくて、どこか甘ったるい香りをさせるテツの唇。昨日散々したというのに、まだ抱きたくなる。恋人になってからそれなりの年数が経つが、未だに飽きる事はない。むしろ、昔よりも今の方が良いまである。
    「……ヤリてぇ」
     名残惜しくも唇を離し、そのまま心の声が口から出てしまう。テツは驚きながらも少し呆れた顔で首を振る。
    「こんな所じゃダメですよ。それ以上はめっ、ですからね?」
    「ガキじゃあるまいし、んなの分かってんだよ。つーか、オレを誰だと思ってんだ」
    「えっと……ボクの初恋の人でしょうか?」
    「ば、バァカ! んなの聞いてねぇよ」
    「冗談です。青峰君、本当よく警察官になれましたよね」
    「……っせー。な、マジバ寄るの後でも良いか?」
     軽く腰を抱き寄せて、耳元で囁いてやる。ほんのりと色づく反応に、顔が思わず顔がにやける。
    「せっかくシーツ洗ったのに」
    「また乾かしにきてやる。それに、明日は天気もいいし、家でも乾くんじゃね?」
    「……本当に。キミはしょうがない人です」
     

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