溢れた、零した アルコール分は低めの、チューハイの缶を傾けた師匠が機嫌良さげにケタケタと笑った。張り切って作りすぎたせいで大きめのボール一杯分になってしまった生地を笑いながら冷蔵庫にあったウインナーやらを放り込んで一応焼き上げたたこ焼きのようなものは流石に二人じゃ食べきれない量になってしまってまだホカホカと湯気を上げながら皿の上に積み上がっている。
「これ、やっぱ作りすぎだろ」
酔っているせいか、いつもより数段笑いのツボが浅い師匠がへへ、と笑いながら言った。その顔が、あまりにも愛おしくて、僕は思わず口にしていた。
「師匠、好きです」
「は、え? なに、どういう、いや……え?」
「好きです」
「いや聞き返したわけじゃなくてだな」
「好きです」
「追撃をかけるな」
霊幻 は ひるんでいる‼︎ モブ の こくはく‼︎ きゅうしょに あたった‼︎ こうか は ばつぐんだ‼︎
……ってそうじゃなくて。
「いや、あのさぁ、モブくんよ」
「はい」
「なんだってこうも急に俺に告白してきたんだ?」
モブが幼馴染の女の子のことを好きだったのは五年かそこらは前のことで、最近はなかなか会うこともないらしいから、好きな人が変わっていてもまぁ不思議でもない。それから、俺のことを恋愛対象として見るのも、まぁ話が進まないからとりあえず納得しよう。俺とモブ、結構よく会ってるし。恋愛の指南書には確か接触を増やそうみたいなのもあったような気がするし、そこはまあひとまず一応良いのだが。
「アンタが可愛い顔するから、つい」
「……いややっぱ分からん」
言葉は俺の武器の一つであるので、とりあえず話し合いで歩み寄りをしてみようと思ったのだが、モブの言い分は全くもって理解できる気がしなかった。
「お前は可愛いな、と思ったら告白するのか」
「こんな突発的なのは初めてなので分からないですけど今そうだったってことはそうなんじゃないですか?」
「へぇ」
「あ、心配しないでください。僕、師匠が好きなので、そんな誰彼構わず可愛いからって告白するわけじゃないです」
「……そっか」
「はい」
なにもよくないけど。そっか。つまりモブは俺が可愛く見えたから、んで俺が好きだから告白したわけだ。缶半分でヘロヘロになってるだけの三十代が可愛く見えたってのは謎でしかないけど。