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    smallsankaku

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    smallsankaku

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    2巻にあった風信が腕を折るエピソードから。
    慕情がツンデレながらにお世話する話(付き合ってない)

    未タイトル利き手の反対を手を掴み本来曲がる方とは逆の方に思い切り曲げる、呻き叫びたくなるような強烈な痛みと共に城内中に聞くに耐えない骨の折れる音が響いた
    殿下がこちらに血相を変えてやってくる、これでいい。こうすれば丸く治ると思いながら風信はぷらぷらと宙に浮く左手を見ないように顔を引き締めた。

    「風信、ありがとう……」
    何ともいえぬ顔で王妃が風信に礼をいう
    風信は王妃に一礼しこの場を後にしようと踵を返したが腕の痛みからよろけて足取りがおぼつかなくなってしまう。
    その瞬間、利き手の方の腕に肩を回り体重がその方向へ行く。目を見開いた風信の瞳に映ったのはあろう事か紛れもない慕情だったのだ。
    「では国王、王妃、私たちはこれで失礼いたします」彼は何食わぬ顔で一礼しその場を離れ救護室へと向かう。


    救護室のドアを開け腰掛けに風信を座らせると、チラリとこちらを見て「おい」と唸った。不機嫌そうに彼はいう

    「お前、私が支えずとも一人で歩けただろう。そういうことは早くいえ」
    「わ、悪、い。何というか意外で……そのことも忘れてた」

    慕情は一層に眉間に皺を寄せながら、意外?と聞く。
    お前が介抱してくれるなど天と地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたから。そう思った言葉をここでいうにはあまりに無粋だろうと風信は思い、口をモニョモニョとしながら瞳は左右を行ったり来たりしてしまう。

    「ふうん」とわかってるのか分かってないのかわからない言葉を慕情は漏らし、風信の手を処置し始めたのだ。

    慕情をジッと見つめていた。武漢なので戦で負傷する事もまあするし救護室に入ったことは何回かある。だが何処に何があるかなど全く分からない自分からすると、ここが持ち場ともいうようにテキパキと動く彼がとても手慣れてみえたのだ。添え木で固定した腕を大きな風呂敷で首にかける、その時に慕情と顔が近くなり艶のあるサラリとした長髪が鼻を擽りそこからは香だろうか、檜木のような匂いがした。


    キュッと結ぶ音ともに「まあこれでとりあえずいいだろう」という声で沈黙が破られた。
    あっという間に風信を処置した彼は、彼を覗きながら「お前は目を開けながら寝てるのか?」といつものように嫌みをはき風信を見つめている。

    「いや、助かった…。感謝する…」

    普段歪みあって時には殴り合うほど仲の悪い相手に恩を受けると、なんとも決まりが悪いものだなと苦虫を噛み潰したような顔になりながら、だがここで恩義を伝えないのは自分の信念に反すると思い、深々と慕情に頭を下げたので、慕情は「そんな顔でいわれても嬉しくない」と踵を返し、ドアに向かった。

    出ていくのかと思うと、彼は取手を手に取りながらピタリと止まる。

    「まあ同じく太子殿下に仕える者としてよくやったなとは思ったが。」
    小さな声で、だが風信にははっきりと聞き取れる声音だった。初めて、慕情に認められたのだと思うと胸が焼けるように熱く感情が高ぶっていくのをジワジワと感じる。
    別に奴に認められたいなどこれっぽっちも思っていなかった筈だが、何故だか太子殿下や国王王妃に誉められた時よりも嬉しく思ってしまうのはやはり普段そんな事を言わなそうな人間からでる言葉由縁なのだろうか。

    風信はこの時もっと、彼のことを知りたいともう何年も共にしている間柄にも関わらず思わずにはいられないあのであった。

    ***
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