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    smallsankaku

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    smallsankaku

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    ごはんっていいよな……って思って書いてみた、しかしうまくいかない。むむむ。風情未満。

    #風情
    wind
    #风情
    flavor

    半分こその日、風信は皇極観の食堂に訪れていた。
    空は随分前に日が暮れて、食堂が空いているギリギリの時間である。その為ほとんど道士は夕飯をすませ食堂内はガランとしていた。食堂に入ってすぐにある厨房に顔を覗かせ、慣れたように風信は声をかけた。

    「阿姨(おばさん)、夕餉、まだ残っていますか?」

    風信に阿姨と声をかけられた中年の女性が振り返る。
    「少し待ちな」

    皇極観に勤めて長い、恰幅の良い目の前の女性がこの食堂を長だ。風信はもうこの人とは何年もの付き合いで、食堂に来る時間が遅い時でも彼女の心遣いで風信の分を余分に作って残しておいてくれている。今日に関してもそうだ。
    そこに関しては、若干の特別扱いを感じているような気もするが、修練や殿下に付き添うような用事で定刻に夕餉を済ますことができない日もしばしばある風信としては彼女の好意は有難い限りである。

    風信が厨房すぐ側の長机に座って夕餉を待っていると、近くに寄ってきた阿姨がなんでもないように銀色のトレーを差し出した。

    「给!(はいどうぞ)」
    そういって差し出された今日の献立は炒飯と酸辣湯だ。今日は少し豪華なようで、叶儿杷(餡を包んだお餅)まである。ふんわりと胡麻油の芳ばしい香りが食欲を刺激する。遅い時間に来たにも関わらず、出来立てのように煌びやかで湯気立った目の前の料理たちにゴクリと生唾を飲む。

    「ありがとう、今日もとても美味しそうです」

    親しみと尊敬に満ちた声で阿姨に礼を言う。風信という男は、勤め中は毅然としていて、何かに苛立ってるようにもみえる強面の少年だ。しかし、ほとんどの人達にとって、食事というのは毎日与えられる人生の楽しみでもある。もちろん、風信もその中の一人だ。目の前の旨そうな食事に頬を緩め、彼女に視線をもう一度合わせ微笑んだ。
    すると柔かに彼女も微笑み、さっさと厨房に戻っていく。
    風信は喜んだ、今日は特に自分の好きなメニューであるからだ。阿姨が気を使って風信の好きな品を選んでくれたのかもしれない。心の中でもう一度礼をいい、大きめの匙を持った、その時だった。

    「すいません、まだ夕餉は残ってますか?」

    背後から声がして微かに風信は表情を変える。

    「ああ、ごめんね。ちょうど注文時間は終わって。出せるものがないんだ、悪いけど街まで降りて何か買って来るしかないね」

    阿姨の返答と共に風信は振り向いた。
    そこに立っていたのはやはり、慕情だった。
    慕情は風信をチラリと横目に見る。
    風信の卓にある、幾分色鮮やかな夕餉をみて目を細めるとすぐに目を逸らす。すると慕情は、食堂に来たにも関わらず食事なんて米粒程も惜しくないという顔で「そうですか」と言った。
    阿姨はここ最近入ってきた慕情の事は知っているようだが、やはり感情に色のない話し方をする彼の事はまだ警戒しているようだ。幾分、他の道士達への対応より愛嬌が少なく見える。慕情は唇をキュッと引き結び、阿姨に向かって一礼すると、踵を返し食堂から出て行った。

    「……」
    それは、一瞬の事だった。
    風信はしばし二人の会話を聞き入っていたが、慕情が去ったと分かるや否や、もう一度、卓の上にある煌びやかで彩りの良い食事に向き直る。
    慕情だって子供じゃないのだ、腹が減ってるなら山を降りて街に出ればいいし、減ってないならそのまま寝ればいいだろう。まあでも慕情は街には出ないだろうな、風信は密かにそう思った。



    (ふんっ、アイツのことなど俺には関係ない)

    瞬間的に感じた、心の中の靄(もや)を一蹴し、匙で汁物を掬い口に含む。
    風信はその時、なんとなく違和感を感じた。
    それでももう一口、二口……匙を掬い、温かな汁を喉に通す。香ばしく、酸味のある酸辣湯は間違いなく旨い。腕に自信のある阿姨が作っているのだから、当たり前だ。

    (……)
    しかし、味自体は美味しいにも関わらず風信は手を止めた。


    なぜだろう。
    先程の唇を引き結んだ慕情が、表情を変えずとも瞳の奥に残念そうな本心を宿してるように見えたのだ。
    だからなのか、夕餉を平らげる事に、少なからず罪悪感を感じていた。

    風信は何かに迷った時、殿下ならどうするだろう、そう考える癖がある。無論、そこに関しては答えは見えていた。殿下は目の前に腹が減っている者がいれば必ず分け与えるし、その者が遠慮しても「じゃあ半分こしよう」と半分にした大きい方を恵んでくれる人だ。




    「………阿姨」
    風信は卓から立ち上がっていて、いつのまにか阿姨の前にいた。その両手には、ほとんど手付かずな阿姨自慢の食事が盆に乗せられている。
    「ん?どうしたんだい」
    「ごめんなさい。どうやら俺は、腹が減っていないようです。持ち帰り用の皿に移してもらう事は出来ませんか?…………できれば、それを半分に分けて二人分下さい」

    風信の声がまだ考えが定まっていないかのように、尻窄みになる。
    阿姨は彼の二回目の注文に不思議そうな顔をして、しばし固まっていたが意図が分かったというようにニヤリと笑う。
    「はいよ」
    風信のお盆を受け取った阿姨が手際良く、簡易的な器に移し替え二人分の夕食が入った包みを風信に手渡した。

    「ありがとうございます」
    「お安い御用さ、私の賄いだったけど……麻球(ごま団子)も入れといた。あんた、甘いもん好きだろ?あの兄ちゃんにはもう無いと言ってしまったから、そこんとこは多めに見てやってくれ」

    阿姨が少女のように可愛らしく笑う。
    「そんな……貰えません」
    「いいんだよ、家に帰ったらまた作るんだから」

    風信はしばし悩むと、阿姨に拱手し背中を向けた。
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