季節のかわり目アラームの音とともに決められた時間に規則正しく目を開ける。自室の中はいつもより一際肌にひやりと冷たく、季節の移り目を感じさせた。
───今日中にでもまとめて衣替えをしようか
あれこれ計画を立てながら慕情はベッドから起き上がり、二段ベッドの上段で気持ちよさそうに寝息を立てるルームメイトを起こさないように準備を整えた。
三十分程経つと自分と同じアラームのデフォルト音が部屋中に響き渡る。以前に爆音でうるさいとクレームを入れたが当の主は「この音量じゃないと起きられない」と全く聞き入れる様子もなくそれが原因で以前、寮内の学友に無理くり止められるまで取っ組み合いになったこともある。
布団の中でモゾモゾと揺れた芋虫は以前より幾分マシになったアラームを止め、梯子を降りながらこちらに向かう。
「おはよう」
寝起きの低くくぐもった声が耳元をくすぐる。腕をすり抜けて優しく背中を抱きしめられるのも風信の毎朝の習癖で、けれども慕情はその度に体を強ばらせては照れくささと恥ずかしさで全く慣れずにいた。
「……邪魔」
シャコシャコと歯を磨きながら鏡の男を睨みつけた。
鏡越しで目が合うとなぜだかいつもよりドキドキしてしまうので洗面台に視線を落とす。身体を離した男が自分の歯ブラシを手に取り始めたので手早く支度を済ませ、時計の針が七時になったきっかりに、先に行くぞと声をかけふたり部屋を後にしようとした。
「…慕情、」
「…ん、なんだ」
「セーター、出しといてくれてありがとう」
無心で準備していたので一瞬なんのことだと思ったが、そういえば今日は寒いので自分の分とまとめてコイツの分もハンガーラックに立てかけていたことを思い出す。
「別に、ついでだ」
慕情はぶっきらぼうに答えたが、風信は嬉しそうに表情をほころばせた。
「5分で支度するから一緒に行こう」