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    saisabanna

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    saisabanna

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    裏でちまちま書き続けてた🌳✨小説が完結したのでアップ

    リビングデッドに花束を黒く淀み、ひっきりなしに雨粒を落とす空の下
    海に嫌われ雨を嫌う俺達は何故かは土砂降りの中立ち尽くしている
    湿った地面の匂い、肌に張り付くコートに嫌悪感を感じながらアラマキは空を見上げ押し黙ったままの男に声をかける
    男のサングラスを雨粒が滑り地面に落ちていく、それが涙の様に見えてアラマキは無意識に手を伸ばした
    「拭わなくても、こりァ雨粒だよォ」
    男は雨など気にせず、いつも通り間延びした話し方をする
    「雨に頼らないといけないくらいなんだろ?」
    「いいやァ、もう枯れたさ…とっくの昔に」
    「じゃあなんでこんな雨の中に居るんだよ」
    「泣く代わりだよ、頬をつたうもんがねぇもんでェ……海に嫌われても空とはなかなか気が合うよ」
    「……誰があんたの涙を枯らしたんだ?」
    アラマキは1歩また1歩進み、男との距離をさらに詰めた、見誤れば彼は瞬く間に光となって消えてしまう
    「さぁねェ…忘れちまったよォ…」
    笑った、いや正確には上辺だけだ、サングラスの奥の深い黒の瞳が遠くを見つめたまま生気だけを失っている
    雨で体が冷える度思い出すのは弱まっていく鼓動と反対に後悔と不安、悲しみで強くなっていく自分の鼓動、少しづつ冷えていく相手の体
    この人も知っているのだろうか
    あの寂しさや孤独を
    「ボルサリーノ」
    「ん〜?」
    「おれもあんたを泣かせると思う?」
    「……」
    言葉を探しているのか、口は微かに開かれたまま沈黙が続く
    「泣かせない自信があるのかい?」
    「いや、泣かせちまうかも」
    「事前に言うとは、大したもんだねェ」
    「まぁおれァは泣かしても、嬉し泣きの方だけどな」
    「そうかい」
    期待も喜びもない、抑揚のない返答だった
    アラマキはボルサリーノを抱きしめる、ボルサリーノは抵抗しなかった
    動かす気もなくなった冷えきった体をどうでもいいようにアラマキに預けていた
    「おれは本気だぜ」
    「そうかい、好きにしな」
    この人にわかって欲しい、嬉しくても涙が出る事、人と抱き合えば温かい事、それと俺がどれだけあんたを愛しているか
    雨はいつの間にか、あがっていた

    1番幸せだった頃はいつだっただろうか、その人の周りだけ色がつき世界が一層鮮やかに彩られていた頃
    今やありとあらゆる色が逃げるように消え失せ、目に映る景色は陰鬱としている

    今日も雨だ
    窓から見える、ため息が出るほどの憂鬱そうな空を見つめた
    アラマキは一息吐いてからドアをノックする、少し間が空いたあと中から「どうぞォ」っと間延びした声、アラマキは意を決してドアを開け中へと入る
    「よぉボルサリーノ」
    「また君かァ」
    忙しくインクを走らせていた手を止め、ため息を吐くとボルサリーノは腕を組み椅子にもたれかかってアラマキを見る
    「なんの用だい?」
    「あー…今日仕事終わり飲みに行かねぇかって誘いなんだけどさ」
    そこまで言い終わってアラマキは今更襲ってきた緊張で言葉が出なくなる、らしくないが断られるのも拒否られるのも正直怖い、飲み屋のオススメメニューも人気の酒も頭に入っていたが口からは一つも言葉がでなくなった
    目の前のボルサリーノはと言うと腕を組みアラマキを暫く見つめた後に口を開いた
    「いい店なのかい?」
    驚いた、この話題に乗ってくるとは思わなかったからだ、冷たく断られて終わりだと思っていた、嬉しくなって次から次へと酒の話やメニューの話をした
    ボルサリーノはただアラマキの話を静かに聞き、時折うんうんと頷いていた
    「じゃあまた仕事終わりに、ここに来るから」
    アラマキが話し終えて執務室を出ようすると、ボルサリーノが呼び止める
    「君、人を誘う時は緊張なんかするもんじゃねぇよ」
    「え」
    筒抜けである、緊張も恐怖もボルサリーノはわかっていた
    だからわざわざ話に乗ってアラマキが言いたかった事を引き出していた
    「らはは!かなわねぇな!あんたの前じゃ見栄張っても意味がねぇか」
    「案外君はわかりやすいんだよォ」
    「……じゃあ…あの時言った本気っていうのは、おれの心からの言葉だってわかってくれてたんだよな」
    「……」
    ボルサリーノは答えない、また返答を探している様だった、室内照明にサングラスが反射して表情は見えない
    「おれァはマジだぜ、あんたに惚れてんだ」
    花瓶に花を挿すように、言葉をここに残す様に形のない愛をバカ正直に相手に送る
    「そうかい」
    また抑揚のない返答だった、やっと見えたサングラスの奥の瞳は憂いを帯びていた

    25ベリー、あの人の手に握らせた
    現在の値段に合わせると25ベリーらしい
    生憎自分の為の25ベリーは持ち合わせていなかった

    朝降っていた雨は止んだが少し冷える、街灯がチカチカと点滅を繰り返す、何気ない会話をしながら二人で夜道を歩く
    「あんたは普段何飲むんだ?」
    「なんでも飲むよ、でも今日は君のおすすめを飲むよォ…せっかくだしねェ」
    「うまくなかったら遠慮なく言ってくれよな、おれ飲むから」
    「疑っちゃいないよォ」
    「もしもの保険だって」
    そうこう話しているうちに店に着いて、2人がけのテーブルに通された
    店の雰囲気は落ち着いていて、明かりがぼんやりと灯り年季の入ったバーカウンターやテーブルを照らしている
    2人がけのテーブルに通され向かいあわせで座った、下調べのかいあってか料理も酒も期待以上に美味かった
    お互いに酒が進むが、上機嫌のアラマキに対してボルサリーノはさほど酔っていないようで、またアラマキの話をうんうんと聞いていた
    「あ、悪ぃ!おればっか話してた!」
    「構わないよォ、話を聞くのは嫌いじゃないしねェ」
    「いや、でもよ…あー…いや…あんたって本当に良い人だな」
    「そんな事ないけどねェ」
    「おれの事どう思ってんの?」
    酒の勢いだった、しかし酒の力を借りなくともじきに聞いていたとも思うが
    バクバクと心臓な音がうるさくなった、酒のせいか緊張か
    「……どうってェ…」
    「聞きてぇんだよ、あんたの気持ち…嫌いだったら、こうやって付き合ってくれないだろ?」
    ボルサリーノはまた答えを探していた、ぼんやりと酒眺め、やがてアラマキの方に視線を戻す
    「………嫌いでは無いねェ」
    「好きでもないか……」
    「どっちつかずだねェ」
    「これから好きになってくれるかもって言う」
    「前向きなのは君の長所だよォ」
    「らはは、よく言われる」
    「君は?」
    「え?」
    「君はわっしの事」
    「好きだぜ、惚れてる!」
    アラマキの答えには反応せずボルサリーノは言葉を続けた
    「誰と重ねてるんだい?」

    店の外はまた雨が降り始めていた

    鼓動が止まっても耳を寄せていると、鼓動が聞こえた、それは自分のものだったけれど

    「え……」
    「いやァ……君あんまり不安そうだから」
    「不安?おれが?」
    「うん」
    「……」
    「わっしは死なねぇよォ、生きる事も死ぬ事も諦めたけど、全て放棄して消えるなんて柄でもねェ……」
    「……」
    「アラマキ」
    「……何?」
    「惚れるのも好きになるのも構わねぇが……生半可じゃお互い傷つくだけなんだよォ」
    「……」
    「そんなにヤワじゃねェよ……君が思うような人間じゃないんだよォ……まぁ…心配してくれて…ありがとねェ」
    ボルサリーノは代金を置くと席を立った、去っていく背中を何も言えないまま見送る
    お互いにお互いの事情を詳しくは知らない、俺の刺青の意味だって、ボルサリーノに言った事は無い
    過去は確かに俺の心の隅に居るくらいは悲しいものだ、おれは無意識に重ねていたのか?いや……でも……
    らしくない、おれらしくない!バーの片隅のでしみったれた考えをするのは
    アラマキは勢い良く立ち上がり代金を投げるように置くと店から飛び出した
    雨が体を濡らしていくのも気にせず、当たりを見回し、ウロウロと辺りを歩く
    (ボルサリーノは…!飛んで言っちまったか!?)
    雨の中空を見上げる、当たり前だが星は一つも見えない
    「何してんだァ?」
    「オワァ!???」
    すっ転びそうになるのを何とか堪える
    ボルサリーノは折りたたみだろうか、傘をさして立っていた
    「危ないよォ…そんなに急いで、まだ何か用があったのかい〜?」
    「……あるぜ!大ありだ!」
    「ン〜?」
    「確かにおれの心の100%のうち1%は、あんた以外の事かもしれねぇ……でも99%はあんただ!そして99%もいずれ100になる!」
    「オ〜…」
    「ボルサリーノ…あんたを愛してる、誓うよ…今この時からこの先ずっとだ!」
    「……」
    また返事を考えている、アラマキはボルサリーノに近づいて、力いっぱい抱きしめた
    ボルサリーノの頭がアラマキの胸あたりに来る
    「アラ……」
    「聞こえるか」
    「……何がァ」
    「あんた抱きしめて破裂しそうになってるおれの心臓の音」
    耳を寄せれば聞こえてきた、落ち着きのない心臓の鼓動が、脈打っている、動いている、生きている、まるで自分の鼓動と連動しているかのように血流が早まるのを感じた
    「………」
    生きている、雨で冷えきった肌などお構い無しに、耳を寄せたまま鼓動を聞く
    「ボルサリーノ…あんたが…は…はっ…へっくし!!!!」
    耳を寄せていた、ボルサリーノは体を離した
    「肝心なところで…くしゃみが……あー…くそ…」
    「君の鼓動は聞き心地が良いねェ」
    「え」
    「雨に濡れてまで必死になって…君は馬鹿だねェ…すっかり冷えちまって…………わっしの家の近いから、温まっていきなよォ」

    相変わらず抑揚もない言葉、しかしボルサリーノはアラマキの手を取った

    手を繋げば離したくなくなった、こんな事は久しぶりだった

    「ボ…ボルサリーノ!?ちょっおれ…びしょ濡れなのに」
    「だから温まって行きなって言ってんだよォ」
    ボルサリーノはアラマキの手を引いて、どんどん歩いていく
    「家が汚れるって」
    「それがなんだって言うんだよォ、海軍大将が雨に濡れて風邪引くなんざ、笑い者になりてぇのかい?」
    「お、おれが家に来るの嫌じゃねぇの?」
    「嫌がる事するつもりなのかい?」
    「いや!そんな事しねぇけど!」
    「だったら良いんじゃないのォ?」
    良いのか?おれさっきあんたの事好きとか何とか言ったばっかりなのにさ、そんな男家にあげていいのかよ!いや…そんな別に何もしないけどさ…なんか危なっかしいんだよな…この人
    アラマキはグルグルと頭の中で悩みながらも、手をひかれるがまま、ボルサリーノについて行った
    「着いたよ」
    ボルサリーノの家は普通の一軒家だった、シンプルな外装に、ちょっとした庭がある
    長く海軍大将をやってるもんだから、もっと豪華でデカイのかと思ったら、そうでも無く周りの建物に溶け込んでいる、海軍大将が住んでるとは誰も思わないだろう
    「想像と違ったかい?」
    「いや、のんびりできそうな感じで助かる、あんまり豪華だと身構えちまう」
    「そりゃよかったァ」
    玄関から中に入り靴を脱ぐ前に「タオル取ってくるからァ」と言われて玄関でぼんやりと待つ、家の中もかなりシンプルだ、物が少ない
    ふと靴箱の上に写真立てがあるのを見つけた、伏せられていて写真は見えないが
    これこそがボルサリーノの悲しみの理由なのだろうか、伏せられた写真立てを、起こしてまで、見ようなんて気にはならなかった
    見た所でおれは何も変わらない、ボルサリーノを心の底から愛すという事に揺らぎはない、この先のおれには関係がないと思って見なかった
    しばらくしてタオルを持ってボルサリーノが帰ってきた
    受け取ろうとしたが、ボルサリーノに避けられて大きなタオルでわしゃわしゃとおれの頭を拭く
    「ちょ…自分で拭けるって」
    「そうかい?」
    ボルサリーノはパッと手を離した、言わなきゃ良かったと一瞬後悔したが、そんな考えは直ぐに頭の隅へ追いやり体をせっせと拭く
    「寒いと思って風呂の用意もしといたよォ……今夜は雨が止みそうにないし、泊まっていくといいよォ」
    「えっ!?」
    「ん?」
    「お、おれ泊まらせて良いのかよ!?」
    「せっかく温まったのに雨の中また帰らせるほど冷たくもないんでねェ」
    「い…いや…でもそれってさ…お…おれの事…ちょっとは…」
    「ん?」
    「い、いや……」
    何なんだぁ!?この人は……!!!なんなんだよぉー!!

    押しつぶすような孤独に身を預けていた
    心地良い気がした、それが間違いだと気づくのは部屋に色が増えたからなのか

    「いい湯だったかい?」
    「おかげさまで……おれに合う服があるとは驚いたぜ」
    風呂に入った後リビングに通される、ものが少なく白を基調としたインテリア
    家に帰ってないなんて事は無いと思うが、あまりにも綺麗で生活感がない
    落ち着かないなと思いながらも2人がけのテーブルの椅子に座る
    「丈が足りてないけどねェ、浴衣は便利だよォ」
    「あんたが浴衣持ってる事にも驚いたけどな」
    「貰い物だよォ、サカズキが誕生日にねェ」
    「へぇ…サカズキさんからの……そうか…」
    「君が思うような関係では無いけどねェ」
    心を見透かされギョッとするアラマキを、よそにボルサリーノは慣れた手つきで紅茶を入れる
    「味覚が鈍くなっちまってねェ、薄かったりしたらごめんねェ」
    「いや、あんたがいれてくれた紅茶にそんな……あ?…味覚が鈍く?」
    ボルサリーノは肩を竦め、アラマキの向かいにゆっくりと腰かけた
    「医者が言うには精神的なものだってェ、まったく面倒だよねェ〜」
    明るいトーンで話し、ボルサリーノは紅茶に口をつける
    「…あんた真面目に長期休暇とか貰った方がいいと思うぜ……仕事してる方が気が紛れるとかあるかもしれねぇけどさ」
    「……いくら休んでも治りゃしないよ」
    「なんで」
    「休んで塞がるようなものでもなくてね」
    自分でわかるとボルサリーノは言った
    「……」
    無駄なものが何も無い部屋、音楽もかけてなけりゃテレビもない、本が数冊机に出してあったが読んだ痕跡は少ししかない
    この部屋には何も無い
    「ボルサリーノ」
    「ン〜?」
    「これ、ほら…えー…風呂借りたお礼と言うか…とりあえず…その」
    色鮮やかな花は白を基調とした部屋に色彩を取り戻させるようだった、何か一つ色があるだけで違うものなのだ
    「花とは…ロマンチストだねェ」
    「いや…!今とりあえずこれ!後でちゃんとお礼するから」
    「気にしなくていいのにねェ……花瓶取ってくるよォ」
    「おれは気にするんだって」
    しばらくして花瓶を持ってボルサリーノが帰ってきた
    「この花の名前は?」
    「…あー、たしかダリアだったかな……」
    「へぇ……綺麗だねェ…」
    「あんたには負けるよ」
    「…わっしはこんなに儚くて美しい物には勝てないよォ……」
    「……あんたも儚くて綺麗だよ、ほっといたら消えちまいそうなんだ、さっきあんたはそんな事ないって言ったけどさ……あ…いや!あんたの言葉を信じてない訳じゃねぇんだけど……」
    「……心配症だねェ…」
    花瓶にいけたダリアをボルサリーノはそっと撫でた
    「ダリアは日持ちしないんだよ」
    「そうなのかい〜?こんなに綺麗なのにィ…」
    「だからさ、その…ダリアが枯れたら……代わりの花をとかいる?いや一旦生けてたら…無くなった時…あのほら落ち着かないかねぇかなって…あ、迷惑だったらいいんだけどよ!」
    ボルサリーノは机に肘をついて、片手で口元を隠すような仕草をする、まつ毛の長い瞳がダリアを見つめている
    「ここに来る口実が欲しいんだねェ」
    ボルサリーノは深い黒の瞳のまま微笑む、不思議とその笑顔はこれまでの上辺だけのものでは無い気がした
    「もしかしてピカピカの実って相手の考えてる事とかわかる?」
    「いいやァ、君が可愛らしいだけだよ」
    「可愛らしいおれからの花の配達は?」
    「好きにしなよォ」
    相変わらず抑揚がないが、アラマキはボルサリーノとの距離が少しだけ近づいた気がしていた

    ぽっかりと空いた片方が埋まる、君のせいで

    「んー……んが………はっ!!!」
    気づけば朝だった
    ベッドに沈み込んでいた、アラマキは飛び起きようと体を動かした……が違和感に気づく
    ボルサリーノが自分の胸に頭を預けて寝ていた、静かな寝息のせいで気づかなかった
    てかくっついて寝てる、なんで!?
    アラマキがアワアワと手を動かすとボルサリーノが少し身じろぐ
    うっすら入った朝日に照らされた寝顔、閉じられた事で際立つ睫毛の長さ、少し疲れた目元、薄い色素の唇、疲れのせいか顔色が悪いせいで肌の白さが際立っていた
    「………」
    丸い頭を怖々撫でる、ふわふわとした癖毛は撫でる度にシャンプーの香りがする
    何度か撫でているとボルサリーノがうっすらと瞼を上げた
    「ボルサリーノ」
    「ん…もう…おきてたんだねェ…」
    「な、なんでおれの上で寝てんの…?」
    「君に抱きしめられた時、鼓動の音が心地よかったから、もう1回聞こうと思って耳をつけたら、そのまま寝ちまったァ」
    「そのまま寝ちまったって……」
    「鼓動が早くなったねェ」
    「当たり前だろ、おれはあんたに惚れてんのに」
    「じゃあ良い目覚めだったァ?」
    眠って起きて目の前に好きな人が居るのは
    「…い……良い目覚めだった……当たり前だろ」
    「わっしも久しぶりにぐっすり寝たよォ、君は体温が高いねェ」
    「ならもっと温まるように抱きしめてやれるぜ」
    「欲張りは良くないよォ」
    よいしょと身を起こすボルサリーノ、調子に乗るなと釘を刺されたようでアラマキは少し凹んだ
    ボルサリーノは立ち上がり、背伸びをする
    「何がいい〜?」
    「へ?」
    「朝ごはん」
    2人がけのテーブルに向かい合わせで座る
    朝食は目玉焼きにベーコン、サラダとパン
    どれもいい焼き加減で食欲をそそる、いただきますと手を合わせてアラマキがもぐもぐと食べ始めると、ボルサリーノはぼんやりとそれを眺めている
    「穴が飽きそうだぜ」
    おどけたように言うアラマキに対して、ボルサリーノはぼんやりしたまま
    「美味しそうに食べるねェ」
    「らはは!美味しいからな!」
    「君は面倒がって口から食事しないって聞くから、昨日普通に料理食べてたり朝食食べたりしてるの驚いたよ」
    「……それは…」
    ボルサリーノはぼんやりとしたままアラマキを見つめる
    「惚れてる人と食事すんのに…いっつもみたいに食えねぇよ……あんたと同じもの頼んで同じように食べて、同じ気持ちになりてぇだろ」
    小っ恥ずかしい理由だが本当なので仕方ない
    ボルサリーノは理由を聞いても、特に表情一つ変えずに自分の朝食に手を付け始めた
    「え、ちょ…せめて、なんか言ってくれよ恥ずかしいだろ!?」
    「………君は」
    ボルサリーノは食事を飲み込み話す
    「君は今こんな気持ちなんだねェ」

    ただの朝食がまた特別になってしまった

    ボルサリーノの家で朝食を食べて
    そのあと何事も無かったように、それぞれ仕事へと向かう
    アラマキは次は何の花を届けるか考えていた、仕事もそこそこに終わらせて執務室で椅子に深く腰かけて考え込む
    ……あの花がいいか…色は…いや……うーん…
    花言葉というものがあるが、アラマキはそう言うのは一切知らない、自分の気分でポンと咲いた花をブチッと抜いて集めて花束にしている
    ダリアの話は部下の受け売りだ、偶然にも咲いた時そんな話をしていた気がする
    待てよ…だったら………
    「花言葉ですか?」
    「あぁちょっと入り用でな、花に詳しいだろ?」
    「え…えと私自身あの…あの話はおつるさんの受け売りでして……」
    「なんだよ、お前もおれと同じか」
    「面目ないです……」
    「らはは!良いって事よ、おつるさんに聞きゃぁいいってわかったからな」
    アラマキは手をヒラヒラを振って部下と別れた
    「根無し草が何の用だい?」
    「らはは!今はちゃんと地に根はってるぜ!」
    「ろくでもないことを聞こうとしるなら、洗ってやるから座りな」
    中庭で休憩中のつるを見つけたが、浮き足立って聞いた途端これである、まぁ業務に関係ない事だから、この際洗われるのも甘んじて受け入れるしかない……
    アラマキは正直に話した、相手がボルサリーノである事を濁したつもりだったが、何故か見抜かれ
    「アンタ苦労するよ、アラマキ」
    中庭に心地のいい風が吹く、つるの目は真剣にアラマキを捉えていた
    「覚悟の上だぜ、それくらい……おれァはあの人の笑顔が見てぇんだ」
    「……まぁアンタくらいの男がそばに居た方が…ボルサリーノの為になるのかもしれないね、これ持っていきな」
    つるが懐から出したのは、コンパクトな花の図鑑
    「花も花言葉も載ってるよ」
    「おお!恩に着るぜ!おつるさん」
    「さっさと仕事に戻りな」
    執務室へと帰る途中パラパラと図鑑をめくる
    ……がーべら……いや……ん?……これは
    あれから何日かたちダリアの花が枯れる頃
    ボルサリーノの家のチャイムが鳴る
    「どちらさんでェ?」
    扉を開けると視界いっぱいに白い胡蝶蘭が飛び込んできた
    「おっとォ……」
    「らはは!驚いたろ?花の配達に来たぜ」
    「覚えていたんだねェ…立派な胡蝶蘭だァ」
    「そりゃ忘れねぇよ、こうやってあんたと会うチャンスなのによ」
    「バレてるからって隠さなくなったねェ」
    「隠したところで、あんたすぐ気づくだろ」
    「まぁ、そうだねェ……花束ありがとう、紅茶でも飲んでいくかい?」
    「えっ!」
    「いらないなら……」
    「いるいるいる!!飲みてぇ!花束でかいし持ってはいるよ!」
    ウキウキとした足取りで部屋に入っていく、アラマキの背中を見つめながら
    ボルサリーノはほんの少しだけ顔を綻ばせた

    自分よりうんと年下なのに、死んだように生きている自分を好いてくれている、生きる希望など与えないで欲しかった、この色彩を失ったような世界をまた愛してしまう

    「綺麗だねェ」
    何気ない会話をしばらく話した後に、花瓶に生けた胡蝶蘭をまじまじと見つめてボルサリーノが呟く
    「あんたにそっくりだ」
    紅茶に合わせて出されたクッキーをつまみながら、アラマキがボルサリーノを見つめて言うと、ボルサリーノは目を細めて少しだけ口角を上げる
    「君は会う度口が上手くなるねェ」
    「そりゃおれも振り向いて欲しいから努力くらいはするぜ!…あー…努力するけどよ……おれの言葉は…あんたにとっちゃ、やっぱまだまだ幼稚か?」
    そう言って様子を伺うアラマキの瞳は怒られる前の子供の様で、戦場で見せる鋭い瞳とは似ても似つかない
    「愛らしい感じだねェ」
    ボルサリーノは紅茶を1口飲む、ボルサリーノの優しい瞳がアラマキを映している
    「あんたにとっちゃ…おれァは、まだまだひよっ子って事か……まぁだとしても諦める気はさらさらねぇけど…」
    「本当に惚れてるんだねェ…」
    「らはは!本人から言われると照れるぜ!」
    「仕事にもそれくらい本気で向き合ってくれると助かるんだけどねェ」
    「う、いや今回報告書が遅れたのは…捕縛した海賊の人数が合わなくて…………あっ!!!!!」
    アラマキが勢いよく立ち上がる
    「?」
    「明日提出の報告書、机に入れっぱにして忘れてきちまった!まだハンコ押してねぇんだ!サカズキさんに叱られる!」
    「君ねぇ…」
    呆れ顔のボルサリーノをよそに大慌てのアラマキ
    「悪ぃ!ボルサリーノ!!!せっかく紅茶とか……いや飲む!!勿体ねぇ!!」
    クッキーを詰め込み詰まりかけ、ボルサリーノに背中を叩かれ渡された紅茶で飲み下す
    「まったく…味わうもクソもあったもんじゃねぇなァ……口から食うの慣れてねぇんだから気をつけなよォ」
    「わ…悪い……また紅茶飲みに来させてくれ!……今度は!今度はこんなヘマしねぇ…!」
    「わかったから早く行きなァ…」
    その時ポッとアラマキに突然花が咲いた
    「あ?なんだ?急に花が咲いた」
    無意識下で花が咲いた事など初めてだった、気分で咲く事はあっても意識せず咲くとは…あ、いや前に部下が大喜びした時に咲いたっけ?誰かの感情でも俺には花が咲くのか?……今まで気にしてなかった事を、急いでいる時にグルグル考えても答えは出ない
    くそ、しかも咲いたのが背中側だから見れねぇ
    「ボルサリーノ、おれの背中に何か咲いてねぇか?」
    「咲いてるよォ」
    「ちょっと取ってくれよ、あぁいや…蔦伸ばしてとるわ」
    「いやァもう摘んだよォ」
    アラマキが振り返るとボルサリーノは摘んだ花を見つめていた
    「悪ぃ、何かいきなり咲いちまってよ……こんな事初めてだぜ……何だこの花…紫の…」
    「早く行かないと、間に合わないよォ」
    ボルサリーノが花を後ろ手に隠した
    「あっ、そうだった!バタバタして悪い!本当にまた来るから!」
    「はいはい」
    ボルサリーノは慌ただしく出ていくアラマキを見送る
    アラマキ去った後手に握った花を再び見つめる
    「パンジー……ねェ……」
    1人の部屋に大きなため息と自分の言葉だけが落ちていく、何度も自問自答する度この部屋は陰鬱な言葉が降り積もり、息をするのも苦しいほどだった
    随分前からこの家が嫌いになっていた
    思い出も面影も何もかも捨てても、どこかに必ずそれは残っていて自分を苦しめた
    アラマキがくれたダリアを飾った時、そこだけ霧が晴れていく様な感じだった
    今日家に訪れるまでも、時間を見つければ彼は自分に会いに来て他愛も無い会話をし、自分が味気ない食事をしていると知れば昼食にも誘ってくれた
    怖い、とてつもなく怖い…もう二度とあんな思いはするものかと、何もかも諦めて拒んできたのに、なのに……どれだけ素っ気なくしても踏み込んでくる、からかっても微笑んでくる
    愛と言う、とてつもなく大きく脆く温かな心地のいい馬鹿馬鹿しい理由で
    認めるしかないのか、向き合うしかないのか目を逸らすには限界があった、自分はアラマキの事を

    花々は満たしていく心も部屋も孤独も

    海軍本部の庭、人気のないベンチに座り、ぼんやりとしながら、いつもながら味気ない昼食を取り出した
    食事は栄養とカロリーが取れればそれでいい
    「またそれかよ、ちゃんとした物食ってくれよ」
    どこから嗅ぎ付けたのかひょっこりと現れたアラマキが隣に座る
    「それを君が言うとはねェ、光合成にも限界があるんじゃないかい?」
    「ココ最近は口からちゃんと食べてるぜ、あんたと食事しする時」
    「週に二、三回だねェ」
    「3年のブランクがあったけどよ、ここ二ヶ月ちょっと食事をしてたおかげか、喉に詰めるなんて事は、もうねぇな!」
    「良い事だねェ」
    「だからさ、あんたもホラ!これ」
    アラマキは食堂から貰ってきたのかサンドイッチをボルサリーノに渡す
    「……君ねェ…」
    「美味いぜ!腕によりをかけてくれたってよ」
    「はァ……わかったよォ」
    サンドイッチを口に運ぶボルサリーノを見て、アラマキは満足そうに笑顔になる
    心地よい風が吹き、庭の草花を踊らせている
    「陽の光浴びながら昼飯食うの最高だろ?」
    「気持ちは良いねェ…」
    「光合成日和だ、らはは」
    ポンッとおどけて、頭に花を咲かせながらアラマキが言う
    ボルサリーノはぼんやりとその花を見つめる
    「君と居ると退屈しないねェ」
    「そいつは良かった」
    ボルサリーノは半分ほど食べたサンドイッチを置いて、ベンチから立ち上がり真新しく吹いてくる風を吸い込み深呼吸した
    「最近食べ物の味がよくわかるようになったよォ」
    「え!?味覚治ったって事か!?」
    「医者が言うには、かなり良くなってるってェ」
    「らはは!!祝いしねぇとな!あんたの家でさ!おれ良い酒持っていくぜ!」
    「君の持ってくる酒は濃いんだよねェ……ご馳走でも用意しないとォ…………なァ…アラマキ」
    「ん?」
    「……君のおかげだよォ、わっしの味覚が戻ったのは」
    「……いいよ、そんなのはさ!迷惑じゃなかったみたいで良かった!俺は好きな人に会いに行ってただけの事だぜ」
    「君にとってはそれだけかもしれない、だけどわっしは…」
    ボルサリーノは口を噤んだ、言おうとした言葉が口の中で溶けていく、突然恐ろしくなってしまった
    あの部屋を思い出していた何も無く痛いほどの静寂に包まれたあの部屋を
    「ボルサリーノ?」
    「なんでもねぇよォ、感謝してるっていう言おうとしただけだよォ」
    「ふーん…」
    アラマキは立ち上がり二、三歩歩き背を向けたままボルサリーノの前に出る、アラマキが歩く度辺り一面緑の庭に色が足されていく
    「おれァさ、ボルサリーノ」
    「ん?」
    「あんたと会うまで花言葉どころか、花の名前もロクに知らなかったんだぜ」
    「そうなのかい?」
    「あぁ、だけどあんたと出会ってあんたを見て、あんたに惚れて…あんたの瞳を見て、おれァ花を送りたくなった…」
    「………」
    「あんたを1人にさせたくなかった、あの家で」
    「…………」
    「あんたとおれは何もかも違う、生まれた場所も生きた長さも経験も性格も…だけどよ、それでも…おれはあんたが好きだ、何もかも違っても、おれはあんたに惚れたんだ…これから先もっと好きになる……本当はもっとあんたと過ごしたい、四六時中一緒に居たい、でもそりゃあ無理な話だ、だからせめて」
    「だからせめて自分の代わりに花を?」
    「あんたが1人にならないように」
    「余計なお世話だよォ、わっしは孤独だなんて…」
    「パンジー」
    「……!」
    「俺が急に帰らなきゃならねぇ時咲いたあの紫色の花、パンジーだろ」
    「………」
    「パンジーの花言葉……」
    「…………ひとりにしないで…かァ………小っ恥ずかしいったらねェよ、いい歳したジジイがァ…」
    「おれは嬉しかったよ」
    アラマキは振り替えてって笑顔を見せる
    ボルサリーノは何も答えず少し黙った後口を開いた
    「…………この仕事はさァ…いつ命が無くなってもおかしくねぇだろォ……」
    「おれァあんたを置いて死ぬつもりなんてねぇよ」
    「死ぬ気の正義掲げといてかァ?」
    「全力って意味だぜ」
    「…………アラマキ、わっしはねェ」
    ボルサリーノの眉間に困ったように皺が寄る
    サングラスの向こうの瞳は見えない
    「わっしは君をおいていくのが怖いんだよォ」
    死の香りと孤独を知ってるからこそ、晴れ渡った空のようなこの男に、そんな思いはして欲しくなかった
    「どう頑張っても寿命がある、どう頑張っても運命がある、泣いても怒っても君とわっしの差が縮まるなんて事は無い……わっしの方が先に死ぬ」
    なのにどうして、君は知ってるはずだ、喪失の恐怖を二度も味わいたいのかい?進んで君は
    「…だからあんたはきっと眠る直前までおれを愛してくれるんだろ?…」
    孤独を喪失を知っているからこそ、思い出と共に生きれることも知っている
    「……」
    「らはは!上等だね…!おれァハナからそんなもん怖がっちゃいねぇよ!ボルサリーノ!おれァあんたが居なくなっても、あんたと共に生きれるぜ!」
    アラマキが笑う、曇りに曇った心を晴らす様な声で笑う
    あぁ自分もこういう風に生きたら良かったのだろうか、あの家を思い出の檻の様にしていたのは自分だったんだろうか、思い出を忘れられないのを怖がったんじゃない、思い出の様にやがて薄れ、忘れられるのを怖がったのは自分だ
    「わっしが居なくなっても……」
    「おれァ死ぬまで覚えてるさ、あんたを」
    「わっしが…君を縛ってしまわないかい?」
    「縛りなんかねぇよ、俺が望んで覚えていたいんだよ」
    「ずっと……」
    「あぁほら、あんた…」
    そんなに綺麗な瞳で泣けるんだからさ、惚れ直しちまうんだ
    アラマキがボルサリーノを力いっぱい抱きしめる、ボルサリーノもアラマキを抱き締め返した
    「泣かしちまった」
    「本当に泣かされちまったよォ」
    「なぁボルサリーノ、俺の事……」
    「今更聞くかい?……」
    ボルサリーノはアラマキに口づける
    アラマキはみるみる目を見開き驚きの表情になる
    「森人間が紅葉しちまったねェ」
    微笑むボルサリーノを見てアラマキは頭をかく
    「あんたには……かなわねぇな……」

    そよぐ草原の中、青い可愛らしい花が2人の足元に小さくも美しく咲いていた
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