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    takasaaaaki

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    takasaaaaki

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    ※宮侑が腐男子(影山推しの宮侑)
    ※未完成

    宮侑の運命についてようやく出会えたと思った。
    運命だとさえ思った。

    彼と出会ったのは高校2年の冬。ユース候補合宿だった。高校1年の時には呼ばれたユース合宿では井闥山学院の飯綱と一緒だったが、今年はいったいどんな奴がくるのだろうかと侑はわくわくしながら新幹線に飛び乗った。楽しみすぎて絶対眠れん。そう言った自分を兄弟は「いや、お前は新幹線動き出したらすぐ寝るやろ」とあきれていたが、驚いたことにその言葉の通りだった。荷物をかかえて新幹線を降りた後、目が回るような人や路線の数に負けないように地図アプリを駆使してようやくたどり着いたのが味の素ナショナルトレーニングセンター。さあ、この合宿を目いっぱいたのしんでやろうと意気揚々と乗り込んだ先で、前述のとおり、侑は運命とであった。

    1つ年下の東北で生まれ育ったという同じポジションの彼。まだ数十時間しか関わってないというのに、口下手で、勝気で、すきな話題になるときらきらと輝く夜色のうつくしいひとみ。恐ろしいぐらい精密なトスを上げる繊細な指先。力強くラインぎりぎりに打ち攻めることのできるスパイク。少し茶化して見せると困ったように拗ねたようにつんと尖る唇。「でも、俺はセッターです」とポジションに執着をみせる年下の男がどうにもきれいで、見とれた。
    試合形式のときにみせた采配。こぼれた勝気な笑み。挑発するかのような視線。それなのに、スパイカーにへりくだるように上げられるトスが彼に似合わなくて思わず「おりこうさん」と口から出たとき、彼はきょとんとして少し幼い表情を見せた。ブロッコリーみたいな頭をした彼の同輩に世話を焼かれている姿がかわいらしくてちょっかいを出しに行った。愛嬌があるとは言えない、どちらかと言えば、静かな、冷たい美貌をもつ少年がコート内で汗をかいて目を輝かせる姿が本当に。
    心の底から美しいと思った。




    夜な夜な兄弟と電話をした。
    「そうか」「せやな」「へーそうなん」
    興味のなさそうに(実際興味はなかったのだろう)、なにかお菓子を食べているところを隠そうともしない距離の離れた場所にいる兄弟はそれでも相槌を打ってくれた。そもそも兄弟と毎日電話することなんて去年の合宿でもなくて、「てかなんなん、俺がそんなに恋しいん」とか茶化された。侑は思わず運命について漏らしてしま
    った。
    「俺、見つけてしもうたわ」
    「は?なにを?」
    「長かった…長すぎたわ…でもまあ生まれてこの年齢で出会えたんやから良いとしようか?」
    「いやだから何が?」
    「いやな、セッターの子ぉがおるんやけど、あ、飛雄くん言うんやけどな、なんかもうすごいんよ。黒髪でさらつやで頭まんまるでな、顔立ちはつめたあい感じなんやけどおばかで、バレーしとるときは目ぇきらっきらさせて、で、その目がな、ほんまきれいなんよ。紺色?というか夜空みたいな色しとって、あ、拗ねたときは唇つんってさせるんや。生意気やけど年上には従順で、コートにおるときはどきっとする鋭いこと言ってくるんやけどそれ以外は案外とんちんかんでな、周り困らせるし、あれは天然やな。ばかわいいってやつ。でな、あの子ほんまに天才なんよ。トスがきれいなんよ。芸術品やわ。でもトスだけじゃなくてサーブもレシーブもスパイクも全部一級品や。指先も丁寧に手入れされとって、同級生に世話焼かれとって」
    「侑」
    「でな、ほんまになんかかわええんよな。でもなあ、スパイカーにおびえたように差し出されるトスは少しいけすかんな。あの子はそういうの似合わんねん。もっと堂々とスパイカーに打たせてやってるぐらいでええのに、たぶんわかってないんよな。ってかな、あの子の相棒ってな、ちっちゃくてよく飛んで、にこにこしとるんやって。ひなたっちゅうんらしいんやけど、もうその子の話しとる飛雄くんがかわいくてかわいくて。大事な相棒なんやなって言うたら唇むずむずさせるんよ、あああああああああかわええんやもんたまらんなあ!あの感情表に出すのが苦手そうな飛雄くんがぽやぽや話すところ治にも見せたいわあ、ほんまにかわいすぎてたまらんから。きらきら太陽みたいなちっこい相棒×天才クール天然美人系男子ってほんま…ほんまに…」
    「侑、出とる出とる」
    なにを隠そう、いや、隠せていないが兵庫県の稲荷崎高校が誇る高校ナンバーワンセッターと評される宮侑は残念なことに腐男子だった。有名人や漫画の登場人物だけで想像するのでは飽き足らず、身近な人物でも妄想してしまうぐらいには残念だった。いけすかない笑みを浮かべてネット越しの相手を挑発している裏ではあれやこれやで妄想しているのだから、治にとってこの双子の片割れは残念過ぎる存在だった。菓子をぼりぼり食べながらベッドでゆっくりとしていた治は侑のわずかにトーンの上がった声に頭が痛くなる。そんな片割れのことなど気にすることもなく数百キロ離れた場所にいる侑はひたすら自分の興奮を口に出す。
    「うっ…つら…ってかな、あの子、中学の時の2つ上の先輩が一番怖いんやって。サーブも教えてもらえんかったから見て覚えたらしいんやけど、ほんま天才すぎん?いや、それでもう恐ろしいんやけどな。その先輩っていうのが話聞いてるだけでやばいんよ!くせっ毛でやわらかい色の茶髪で女にきゃーきゃーいわれるくらいのイケメンで飛雄くんよりも身長高くて偏差値高い私立高校に通ってて、強豪校で正セッター張っててしかも主将!!!で飛雄くんのこと飛雄ちゃんって呼んでて、でしかもそこの制服が白を基調にしたブレザーでいつも幼馴染に暴言はかれながらも阿吽とか呼ばれてて、たれ目で試合前とか『信じてるよ、おまえら』っていうんやけどそのおまえらのなかに入れなかったのが少し寂しいって言っちゃうし、ぶっつぶしたいくそかわいい後輩って言われるんやって。なあこれやばない?俺まじで聞いてる途中で意識飛びそうになったんやけど、治、お前どう思う?これでなんもなかったら俺の常識が崩れていくんやけど」
    「ああ、うん、なんもないやろうな、お前の常識は常識やあらへんしな。つかお前数日しか飛雄くんと一緒におらんのに情報収集能力やばすぎんか?」
    「かあああああああああ、たまらんな……及川さんっていうんやけどな、ほらいま治検索してみて。宮城 及川 バレー って。ごっついイケメン出てくるから。俺もその画像検索して目を疑ったわ。まじで。ごっついで。たれ目でやさしそうなイケメンの及川徹。そうなんよ、わかるか、治。そのやわらかめイケメンの名前が及川徹っていう厳つい名前ってのもたまらんな!飛雄くんはキレイ系だからそのたれ目でかわいい系の底意地の悪い先輩に翻弄されてんのがめっちゃ似合うわ。な、な、検索した?やばいやろ? あ、飛雄くんの写真も送ったる。ほら見て。見た?おい既読つけてはよ見ろや。きれいな目の色しとるやろ?やっぱねこちゃんはきれいな目の色しとるのポイント高いよな」
    「あーみたみた。飛雄くんもイケメンやけどこの及川さんってのもイケメンやなあ。侑のすきそうな感じやわ」
    「さすが治!わかってくれると思った!さすが俺の片割れや!」
    兵庫の自宅の2段ベッドにもぐりこんでいる治は菓子をむさぼりながら、侑の言うとおりに及川と影山の写真を眺めていた。侑がテンションがあがるのもわかる。アップロードされている短い動画を見る。『全力で当たって砕けてほしいですね!』いい笑顔でさらりと言う及川に治の口角が引きつった。こういうの侑好きそう。短い動画をダウンロードしてラインで送ってやる。
    「お?なんやこれ、…………なあ、なにこれ」
    侑の声のトーンが下がった。
    「好きやろ?」
    「すき。ちょう好き。好きすぎてまじで興奮冷めやらんわ。やばすぎ。これが高校3年?やばい……溶けてなくなりそう……現世ってこんなに萌えの宝庫だったんか……この世に産んでくれておかんありがとう……カーネーション渡そ」
    「急に花渡されたらおかんびっくりして晩御飯タマゴかけご飯になるで」
    「あーやばい。もうあかん。むり。しんどい。俺な、飛雄くんのチームメイトの話を聞いてたらそことくっついていいなって思っとったけど、もうあかん。及川さん×飛雄くん一択や。ぐうたまらん。女に困ってない口の達者なイケメンで飛雄くんだけには辛辣でも本当に困ったときには不器用にアドバイスしてくれる及川さん×言葉の拙い天才肌で天然入ってるけどたまに爆弾発言かましてしまう及川さんを心底憧れてる飛雄くん。薄い本が厚くなるしなんならなん十冊も書ける。ありがとう神様。ありがとう俺をユース合宿に推薦してくれた人。俺にセッターっていうポジションを授けてくれたバレーの神様ありがとう。治ありがとう」
    「俺に感謝すな。気持ち悪い。」
    「去年は飯綱さんと臣くんのコンビでやらせてもらったけど、今年からは及川さん×飛雄くん、長いから及影でええか、及影でいかせてもらうわ。ありがとう。感謝。」
    「やらせてもらったとか言うな。飯綱さんやら飛雄くんやらに謝れ。きも。マジでもう寝ろ」
    「いやまじでも治もこの2人のこと真面目に考えてみてくれん?ただの先輩後輩にしておくにはもったいないやろ?ろ?な?つーかな、」「宮さん?」「あ、飛雄くんどないしたん」
    先ほどまでトーンの高い声が無駄に作ったような声音に変わった。こいつ…自分を作ってやがる…。治は数百キロ離れた先にいる片割れのいやらしい笑顔を思い浮かべた。
    「電話っすか?邪魔しました?」「んー、そんなことあらへんで?俺の兄弟やし、気にすることないわ」「兄弟?」「あれ、飛雄くんしらん?俺双子なんよ、双子の片割れと電話中や」「双子!なんかかっけえすね!」「ふっふ、飛雄くんはかわええなあ」
    スマホ越しに聞こえる侑と影山のなんだか意味の分からない話に治は頭を抱えた。このばかそうな相手が兄弟の腐った妄想に巻き込まれてるなんて。なんだかすごく申し訳ない。及川さんとやらにも申し訳ない。
    「ほら、飛雄くんも治と話す?」「え?いいんすか?」「ええよ。ほら」
    ええことないわ。そう言い返す暇もなく聞きなれない少年の声が伝わる。
    「えっと、宮城の影山です。セッターしてます。宮さん?ですか?はじめまして。よろしくお願いします」
    「お、おう、よろしく。宮治や。受け入れたくないけどそこのばかの双子の兄弟や。よろしくな」
    「えっと、はい、宮さん、すげえ選手ですげえ勉強になります!俺ここにこれてうれしいっす!あざっす!」
    「おう…よかったな…合宿楽しめよ…」
    「はい!あざっす! あ、宮さん、電話返します。なんかもう消灯だから部屋戻れって監督言ってました」「お、そうかもうそんな時間なんやなあ。てことで戻るわ。じゃあな治」
    ツーツーと切れたスマホをじっと見つめた治は再び罪悪感に苛まれた。いや、飛雄くんめっちゃ純粋なバレー少年やん…え、そんな子と及川さんで妄想してくっそテンション上げてる侑まじやばない? ベッドのなかでごろごろ申し訳なさに打ちのめされているとラインの通知でスマホが振動した。
    『ばかっぽくてかわええやろ? そういうところがたぶんひねくれて難しく考える及川さんのツボにはまるんやろな…あかん…飛雄くん罪深いわ…明後日帰るから及影の情報お前にも教えたるわ。情報収集がんばるから応援しててくれ。』
    敬礼しているリスのスタンプが送られてきた。
    「もう好きにしてくれ…俺を巻き込むな…」
    項垂れた治が再び意識を戻したときにはすでに朝の6時で、なんだかんだ十分な睡眠時間を確保できていた治は自分のずぶとさにも関心するのだった。




    春高2回戦。宮侑の興奮は絶頂にあった。宮侑にとっての運命がネットを挟んで向こう側にいるから。
    ぎらぎらとした夜色の目が侑の動きを、言葉を、逃さまいと縋りついてくる。興奮しないなんて、ありえない。
    イタリアンカラーのもう手になじんでいるボールを一度床にたたきつけて、そして息を吐く。音を止めて、そして飛ぶ。地面を轟くような音が鳴って、コートに落ちた。
    夜色の目が輝いた。動いたせいで血色のよくなった形のいい唇が熱い息をこぼす。(「すげえ」「かっけえ」)ぺろり、湿らすように唇を舐めた赤い舌。全身で訴えかけてくる侑の運命の熱烈なメッセージが、たまらなかった。
    「あかんわ」
    相手チームのタイムアウトのためにベンチへ集まったチームメイトは不思議そうに侑を見る。「どないしたん、侑」「調子はすげえよさそうやけど?」と心配そうに言うが、治だけは白けた顔をしている。「なんともない!今日めっちゃ調子ええわ!」と笑って言った侑からみんな顔をそらして監督に向く。うずうずと子供のように体を揺らしている侑はコートの中に戻る前、兄弟の腕を引いて、そしてその耳元で囁いた。
    「今日の飛雄くんのビジュ爆発しとる!!!!やばすぎ!!!!」
    「うっさいねん黙れ」
    治は遠慮なく侑の汗をかいてじっとりと湿った金髪を力いっぱい叩いた。



    そもそも試合前にあんな絡み方するやつがおるか?と治はコートの中でため息を吐いた。『俺、へたくそと試合するのほんま嫌いやねん』よう言うわ。飛雄くんがめちゃくちゃうまいなんて知っとるくせに、そんないやらしい挑発するのやめろや、子供くさい、にやにやすんな、おいお前オレンジ色のちびやら金髪の眼鏡のっぽやら灰色の柔和な泣き黒子を見て舌なめずりすんな、きもい。「飛雄くんオレンジ似合わんな!かわええ!」いやいやもうなんなんお前ほんまやめろ、きもい。治はひたすら興奮している侑をにらみつけた。へらっと笑った侑には兄弟の睨みなど効くはずもない。侑のセットアップに飛ばされて、点を奪い取って、そしていつものようにハイタッチする。ちらっとネットの向こうを見れば、侑の言う運命が静かに見ている。深い青色のような、暗い紫のような、明るい紺色のような、不思議な色の目が凪いだように静かだった。ユース合宿で聞いたばかっぽい発言をしていた人間とは思えなかった。侑がひどくうれしそうに笑みをこぼした。
    「かわええくせにかっこええなんて、ほんま反則やわ」
    「あいつ、なんやねん、ほんまにお前がユース合宿で一緒だった飛雄くんか?」
    「かわええやろ?美人さんやわ。うーーーーたまらん、すっげえ興奮する……めちゃくちゃ叩き潰したい……ああ、たぶん及川さんも飛雄くんのあの目にやられてこう思うんやろうなあ……普段飛雄くんのこと翻弄してばっかの及川さんが、ばかっぽいってかばかなのにコートの中だけは賢くて王様で支配者で静かで、誰かの運命で、神様になる飛雄くんに心臓つかまれて翻弄される及川さん……たまらんなあ……ありがとう神様」
    「なあ現実に戻ってきてくれるか?」
    侑の運命がシュルシュルと手の中でボールを弄っている。静かな表情に、冷たい空気をまとっているくせに、頬は赤く染まって、顎には汗が流れているのだから、ひどく倒錯的だった。一瞬、運命が治をとらえた。動きを止めた治へ、うつくしいモーションで、恐ろしい威力を持ったサーブを打ち込んできた。満足気に勝気に笑う運命がまぶしそうに体育館のライトを見上げた時、隣の侑が「やばい」と呟く。
    「いやもうほんまあかん。あれもうバレーの神様が人間になったらああなるって感じせん?静かできれいで冷たくて目が離せん、あんな容姿した男の子ほかにはおらんやろ……飛雄くん生んでくれたおかあちゃんありがとう、今度菓子折り送ります。感謝カンゲキ雨嵐。及川さんも今見とるで、絶対見とる。たぶんジャージ着て、どっかの公園でスマホにイヤホン差して音声付きで絶対見とる。ちょっと悔しそうな顔しとるはずや。飛雄くん、きみの彼氏もきみの雄姿を見守っとるで。『俺の知らないところで烏野の人間の中でかわっていかないでよ』って思ってるはずや。そうに決まってる。」
    「ほんまにお前頭おかしいんとちゃうか??いっそ脳みそかっぴらいて検査してもらったほうがええで」
    「双子さっきからぼそぼそぼそぼそうっさいで!!!!!」
    宮兄弟の小声のやり取りにアランが声を上げた。カッと目を見開いているアランの隣で角名が「仲良し兄弟もいい加減にしてくださ~い」と茶化す。そんな2人をまあまあと止める銀島も、コートの外からじっと見ている北も、きっと治の心労などわからないだろう。わかってほしいがわかってほしくもない、兄弟がこんなに腐った思考をしてるなんて知れた日にはもうきっとコートの中に無邪気に紛れ込むことができない気もする。タイムアウトで再びベンチへ向かいながら治は侑を小突いた。
    「お前のせいやぞ」
    「なんでや!お前かて飛雄くんのビジュの良さにびっくりしたんやろ!あの子はコートの中で美しさを爆発させるんやからな!」
    ぼそぼそと言いあう双子とあきれたようなアランと、そしてため息を吐いている角名。向こうの天才セッターは金髪眼鏡のっぽのユニフォームの裾を小さく引っ張って何やら話をしている。
    「はう……及川さん本命のくせにそうやってすぐほかのチームメイトとじゃれあうからいっつもお仕置きされるんやで……及川さんだって女にもてて恋愛経験それなりにあるのに飛雄くんに振り回されて余裕もなくお仕置きしてしまうんやろ……『何人の男に尻尾振ってんだよクソガキ』って言われるんやろ……悪い子やなあ……」「もうほんまきもい。兄弟なんて認めたくない」「まって治、あの翔陽くんってまじで太陽やん、無邪気すぎてまじで飛雄くんの近寄りがたい神聖さが浮き立つわ、あかん、飛雄くんのトスは自分のもんだって当然のように思ってる相棒にたじたじになる飛雄くんまじかわいすぎてあかん…しんどい…むり……烏野まじで尊い……及川さんはよ登場せんかな……『飛雄ちゃん、あのちびちゃんと距離近すぎない?はじめての相棒だってうれしいのはわかるけどね、俺さすがに許せない距離感とかあるよ?』って嫉妬しちゃうんやろうなあ」「なんでもかんでも及川さん登場させようとすんな、及川さんはそんな都合のいい男やないんやぞ」「はわわわ、待って、あの灰色泣き黒子セッター先輩の笑顔やさしすぎっ。あの飛雄くんがすげえ懐いとる!だべってなんなん、あざとすぎるやろ、むり、天才セッターにレギュラーとられてんのになんであんなにやわらかく接することができるん??天使なの??及川さんきっと泣き黒子セッター先輩を見て『俺はあんなに飛雄に無条件にやさしくできないのに、』って思うやつやん……ええんよ及川さん、あんたの不器用な愛情は飛雄くんはちゃんと受け止めてくれるから……」「お前が及川さんの何を知ってるん???なあほんま一回黙ってくれへんかな、お願いやから、まじで黙れ」「あ、飛雄くんこっち見た」「は?」
    侑の言葉に治は振り返れば、影山がじっと2人を見ている。侑は好戦的な笑みを浮かべて、それでもひらひらと手を振る。影山はスクイズボトルを手にしたまま、不思議そうに首を傾げて、そして釣られたように手を振った。幼い子供が友達にするような動作に思わず侑も治も「ふは」と笑った。それと同時に烏野の主将が影山を呼び、惜しむこともなく影山の視線は烏野に戻る。
    「ああいうところ!コートから離れたらぽやぽやしてるああいうところがたまらん!くううう、宮城ほんま最終兵器をこの春高に送ってきやがった!いっつもはバキバキの体育会系なのにちょっと気が抜けたらああやってぽやぽやしてまう飛雄くんのことひねくれ拗らせ及川さんが離すわけないやん!『おばかなお前は俺の傍にいたらいいんだよ!』とか素直になれない及川さんイイ……」
    「ってか前から思っとったけど若干及川さんの声に似てるのなんなん?」
    「治が前送ってくれた『ぜんあた』動画見てめっちゃ練習した」
    「ぜんあた動画?」
    「『全力で当たって砕けてほしいですね!』動画、略してぜんあた動画」
    「あの短い動画で練習してそうなったん!?なんなんほんまきもい!もっと違うところに全力を尽くせや!」
    「ほめてくれてありがとう」
    「ほめてへん!もういやや、俺ほんまむり、兄弟の縁切りたい……」
    「侑、治」
    「「はいっ!!!」」
    振り返ると腕を組んでいる北がいた。治も侑も無意識に背筋が伸びる。北は冷たい目で言い放つ。
    「ずいぶん楽しそうやなあ、ええことやなあ、そんなに向こうさんの1年セッターが気になるんか?」
    「飛雄くん、ええセッターですよね!俺は負けへんけど!」
    汗で濡れた前髪をあげる動作をして、無駄にウインクを決めた侑をスルーして北はコートに戻るメンバーに応援の声を上げる。やばい、バレたかと思った、と焦るのは治だけで、当の本人の侑はいつだってバレたって別にいいというスタンスだった。それに加えてバレー馬鹿でもあるから先ほどの返した言葉も本心であるものだから、周りのバレー馬鹿も侑の腐った思考を読み取るところまでいかないのだ。治は空腹のときとは違う腹の気持ち悪さに、顔をしかめた。『全力で当たって砕けてほしいですね!』脳内に会ったことさえない及川の人のいい笑顔が浮かんだ。コートの中に戻っていく中に侑の運命がいる。先ほど手を振り返してきた幼い表情はもうすでに消えてしまっていて、鋭い冷たい、それでも興奮を隠しきれない熱を持った目が見えた。(砕け散るところ、見てみたいのはわかるわ)ふと思い浮かんだ思考を振り落とすように治は頭を振った。侑は唇を舐めて、そしてひどく高ぶっている声で言う。
    「あのきれいでつよくてうまくてかっこよくてかわいい飛雄くんが、宮さんのバレーかっけえ!って思ってるくせにあの自分が勝つことを信じてならんってきらきらした目が、俺らのバレーで砕け散るところ、見てみたいわ」
    「侑」
    「え、なに?いま及川さん登場してへんけど」
    「ちょっとわかってしまうのがつらい」
    え、まじで?と驚いた侑に頷き返す。「叩き潰したろ」「せやな」拳を突き合わせてネットを挟んで飛んでくる一球に集中している一つ年下の天才を睨みつけた。その視線に気が付いたらしい運命は驚いて、そして、うれしそうに口角を釣り上げた。「うっわ飛雄くんえろ」侑の声を無視した。


    いやまあ、叩き潰されたのは自分たちのほうだったけれど。




    「飛雄くん!」
    悔しさを飲み込んで、侑は黒いカラスの集団に駆け寄った。もちろん脇に双子の片割れを連れて。カラスの集団は侑の運命を除いて全員が驚いたように「え?!」「稲荷崎!?」と声を上げたが、侑の運命は一度不思議そうにしただけで、すぐに立ち上がる。ぺこりと烏野のメンバーの中にいるままに礼儀正しく頭を下げる。その様子に敗戦でへこんでいた気分が少しだけ回復した。
    「飛雄くん、ちょっとこっち来て」
    ちょいちょいと手招きしてみると、迷わず侑と治のもとへ歩を進めてくる。オレンジ色の相棒がびびったように「か、かげやまっ」と呼び掛けるが、体育会系でずっと生きてきた1年セッターにとって同い年の相棒よりも1つ上の先輩の言葉に従うのは当然のことだった。双子の傍に寄る。ひとりはにやにやと、もうひとりは無表情に見つめている。
    「宮さん?」
    「さっきの試合、たのしかったわ。本当はぼっこぼこのめっためたにしてへこませたろう思ったのに、負けるとは思わんかったなあ」
    侑がそういえば遠巻きに見ていた烏野のメンバーの空気が少し悪くなる。侑の運命は言葉になんとも思わなかったのか、こくりと頷いて「たのしかったです」とまっすぐ侑を見返す。隣の治を見て、あ、と思い出したかのように「俺、あの、合宿の時電話した影山です」と言うので治はちょっとだけ笑みをこぼした。「知っとる」そう返したらまた視線を侑に返した。一度開口して、閉じて、そしてもう一度口を開いた。
    「俺、おりこうさんでしたか?」
    ちらりと赤い舌が覗いた。まだ引ききってない汗が一筋、首筋を伝っていくことを見た。「王様」治が声のほうを向けば、どことなく不機嫌そうな金髪のっぽがいる。王様とは、侑の運命のことだろうか。コートの中での運命のバレーを見ていれば、なるほど、とは思った。暴虐無人とは言えない、チームメイトを、空気を支配する王様、そういう意味か、なるほどな、と治は納得した。運命はチームメイトを振り返らない。まるで侑だけが見えているようだった。
    「おりこうさん?」
    「合宿の時、宮さんが言いました。俺ばかですけど、なんかばかにされてるってのわかってます」
    「ばかにはしてへんのやけどなあ、そう感じ取ったんなら、なんか、ごめんな?」
    侑はにやにやと金髪眼鏡と影山を見た。少し侑の目の色が変わったことを把握したのはもちろん治だけだった。烏野の痛い視線など気にならないように、侑は運命に手を伸ばした。ぬっと伸ばされる筋肉のキレイについた腕に運命は簡単に捕まる。
    「うおっ」
    「ほら飛雄くん、写真とろーや!その似合わんオレンジ色記念に撮らせて!」
    右腕の中に運命を捕まえた侑は上機嫌に笑って見せる。驚いて紺碧の目を少し見開いた運命は侑を見て、そして治に助けを求めるように視線を投げた。「治、撮って」ほらっともう契約して1年ほどになるスマホを片割れに投げた。治は危なげなくスマホを手にして、カメラを起動させる。運命の少し湿った黒髪を指先で遊んで、満足そうに頬を寄せる。
    「かわええなあ、飛雄くんほんまイケメン!美人さんやねえ!飛雄くんのサーブ打つモーション最高にきれいやったわあ、なあ、ああやって試合中にバレーの神様に祈るみたいに指先擦り合わせるのって癖なん?ほら、そんなむすっとせんと、美人さんが台無しやで?」「侑」「なんやねん治」「いろいろ出てしもうてるから遠慮して」「はあ?これやからむっつりは……思ってることはちゃんと伝えなあかんやろ、好意やったら特に」「好意ってお前のはそんな純粋なもんじゃないやろ気持ち悪い」「好意?っすか?あざっす」「飛雄くん、侑の相手なんかせんでええから」「飛雄くん!ほらほらもっと侑さんのほう寄っておいでえや!ほらカメラ見て!治、はやく!」「はいはい」
    ぱしゃり、ぱしゃり、黒のユニフォームを着た侑と、オレンジ色のユニフォームを着た影山がスマホの中に記録されていく。侑は運命を自身の腕の中に捕まえていて、とてつもなく機嫌がいい。運命を捕まえたまま、治から戻ってきたスマホで写真の写り具合を確認しているが、気に入ったようでへらへら笑っている。「ええね、また後で飛雄くんにも送ったるから!」髪を触っていた指先が、迷うことなく影山の白い頬をなでている。さりさり。汗が冷えたせいなのか、ひんやりと肌触りのいい肌。運命は特に抵抗などしなかった。
    「セクハラすんのやめえや」「ちょっと、そろそろ影山返してくれるかな?」
    治と灰色柔和泣き黒子セッター先輩の声が重なった。侑が振り返れば、やわらかい笑みを浮かべようとはしているものの、菅原の口角は引きつっている。へえ、と侑は心の中で呟くと、声をちいさくするでもなく、影山に言う。





    一方宮城では

    「いいいいいいい岩ちゃん!!!岩ちゃん聞いて!飛雄がまたとんでもない男引っかけてきた!」
    遠慮のかけらもなく自室へ飛び込んできた幼馴染――及川を岩泉はにらみつけた。頭が痛い。はげしく。とんでもなく。岩泉は進めていた課題を止めた。
    「……んだよ、うるせえ」
    「聞いてよ岩ちゃん一大事!飛雄ちゃん!一大事!」
    「せめて日本語話せよ」
    「これみて!!!!」
    顔にめり込みそうなほどスマホをかかげてきた及川に舌打ちをしながら、その画面を覗く。オレンジ色のユニフォームの中学の頃の後輩が金髪ツーブロックの黒のユニフォームを着た男に肩を組まれている。影山は少しだけうれしそうに、隣の男はたのしそうに無邪気にピースをしているほほえましい1枚の写真だった。
    「宮侑か? へえ、影山と面識あるんだな」
    「それがね、聞いてよ岩ちゃん。宮侑とユース合宿で一緒だったんだって」
    「ほう。そうか」
    しげしげと写真をながめていた岩泉はスマホががたがた揺れているのを把握して、そして及川の今の状況を一瞬でも忘れていたことに後悔した。そうだこいついつもの発作だった。
    「宮侑!!!!!そうこれ宮侑なんだって!!!やばくない!!金髪ツーブロックの性格悪そうな年上のセッターに肩組まれてうれしそうに口元むずむずさせてる飛雄!!!飛雄!!まじむり!!!やばい!!」
    はあ、と岩泉はため息を吐いた。始まった。そして終わった、とも思った。
    「春高も終わって俺もそろそろあっち行くじゃん?だから飛雄ちゃんに連絡したわけ。最近どうなのって。したらこれだよ!ユース合宿でセッターの先輩がいて、春高で戦って写真撮りました。どういうこと!?なにがそうなってこうなったの!?いや流れを端的に説明してくれてありがとう!?写真送れよ!って言ったら送ってくれた飛雄ちゃんすなおで良い子!でもう話聞いてたらね、この宮侑まじでやばいの。月バリで良い性格してんなって思ってたけど飛雄ちゃんから聞く限りまじでやばい。あの飛雄ちゃんに「スパイカーのほうがええんちゃうん?」とか……飛雄ちゃんはセッターだよ……コート上の支配者なの……いやそれはもうおいておくしかないから置いとくとして、問題発言教えてあげる。知りたいでしょ?教えてあげる。身構えてよ、たぶん岩ちゃん死んじゃうから」
    「死なねえし知りたくねえよ」
    「『おりこうさんやなあ』」
    「は?」
    「宮侑、『おりこうさんやなあ』って、飛雄に、初対面で、言ってくれたんだって、おりこうさんやなって」
    「おりこうさん」
    「やばくない?おりこうさん」
    「おりこうさんは」
    「おりこうさんだよ、岩ちゃん」
    「おりこうさんは、やばいな」
    でしょ!!!!!!???????と及川は叫んだ。岩泉は頭が痛くなりながらも及川の興奮も多少理解できるとは思った。及川の部屋にあふれかえっている薄い本やら商業のものやらに登場している男でもそんなセリフ言ってる奴なんていなかった。漫画でも登場しないのに、現実世界でひとつ年下の男におりこうさんという宮侑はどんな奴だ。きっと及川はそういう性格の悪い年上の男が好きだ。特に影山とカップリングにする相手には最高だろう。
    「飛雄ちゃんってばたしかに男ほいほいだよ。中学からの国見ちゃんとか金田一とか、烏野のちびちゃん筆頭に菅原くんとか月島くんとか、最高だね。あのウシワカも飛雄の名前覚えてたし。でもさ、でもでもこんな大物釣ってくるとは思わないじゃん!!?国見ちゃん相手とかすっげえ妄想したけど、この宮侑とかまじで妄想するまでもなく言葉責めしそう!ってかするね絶対。その時絶対おりこうさんやねっていうじゃん!飛雄くん、ほんまおりこうさんやねえっていやらしく言うじゃん!!!ありがとう!ありがとう!!!性的なことすげえ網羅してそうな金髪ツーブロックで関西弁で意地の悪そうな先輩の宮侑×鈍感天然で性的なことにうぶで黒髪でおばかな飛雄ちゃん。これもうむりでしょ。むり案件でしょ。しんどい。アルゼンチン行く前にすっげえ爆弾抱えて飛雄が俺の胸に抱き着いてきた……」
    へなへなとカーペットの上に座り込んだ及川のくせっ毛が心なしか力なく萎えているような気がする。岩泉は宮侑を検索した。ぎらぎらとした目、サーブを打つ前の無音を支配する動作、あ、これ動画だ、と岩泉は短い動画を再生した。音声が岩泉と及川の間に流れる。『俺、へたくそと試合するのほんま嫌いやねん』『俺はへたくそじゃないです』『知っとる知っとる』宮侑と影山の声だった。音声が切れた瞬間、及川は仰向けに胸元で十字を切りながら倒れた。
    「もっかい、再生して……」
    「お、おう」
    『俺、へたくそと試合するのほんま嫌いやねん』『俺はへたくそじゃないです』『知っとる知っとる』
    「もっかい……」
    「おう…」
    『俺、へたくそと試合するのほんま嫌いやねん』『俺はへたくそじゃないです』『知っとる知っとる』
    「むり」
    「及川ああああ死ぬなあああああああ!!!!」
    及川はいい笑顔を浮かべて、岩泉へサムズアップした。椅子から転げ落ちるように及川のもとに駆け寄った岩泉は「及川が腐男子だから……こんな未来はいつか来るって想像はしてたがはやすぎだろ……っ」と自分の目元に浮かんだ涙をぐいっと拭った。
    「俺、幸せだよ岩ちゃん……」
    「及川っ!!お前こんなところで死ぬんじゃねえ!お前言ってただろ、結婚式で影山が白のフロックコート着て幸せそうに新郎とキスするところみるまで死ねないって!!いま死んだらその夢叶えられねえぞ!しっかりしろ!!」
    「ありがとう岩ちゃん…俺がアルゼンチン行っても飛雄ちゃんと宮侑の恋愛模様たくさん送ってね…俺向こうでもがんばるからさ…おねがいだよ…」
    「及川……っ」
    笑みを浮かべて目を閉じた及川の頭を抱えて悔しそうに名前を呼ぶくらいには岩泉は及川の幼馴染を全うしていた。若干、及川の腐った思考に毒されているといっても過言ではない。海を渡る及川の目のかわりになってやろうと思うくらいには、岩泉は人のいいやつだった。
    数日後及川は単身でアルゼンチンへ渡った。当然のようにそのスマホには宮侑と影山の写真が保存されているのは及川と、あとは岩泉だけが知る真実だった。





    SP編~及影、侑影風味を乗せて~

    「あ、飛雄ちゃーん!お疲れお疲れ!」
    宮侑はこそこそしていた。でかい図体を物陰に必死に隠して、聞き耳を立てて、そっと覗く。自身と同じユニ
    フォームを着てへらへらと軽薄そうな笑みを浮かべている茶髪の、少し日に焼けたガタイのいいイケメン。その横に並ぶ見慣れたアスレティックトレーナー。あと侑に背を向けるようにして立っている侑の運命がいる。先ほど聞こえた通り、ぺらぺら話しているのは侑が直接会ってみたかった人物ナンバーワンの及川徹だった。妙におおげさな動作をしながら言葉を続けている。隣にいる岩泉はまたはじまったとでも言いそうな疲れた表情をしていた。
    「あ、そうだ!新しいカレーのCM?みたよー!もうちょっと棒読みどうにかしなよー、あれ?ていうかカレーだっけ?え?シチューだっけ?俺あんまりそういうの興味なくてみないからさあ」
    及川さん、あんた、飛雄くんのCM見たんか!
    侑はふるふる震えた。生で及影が見れるなんて生きててよかったと思っていると、岩泉の容赦ない言葉が侑を襲う。
    「おまえ、ぶつぶつ言いながら何回も見てたろ!カレーだぞ」
    え!!!!何回もみてたの!!!!!か゛さ゛!!!!!!
    「いわっさんっ……っ!親切に、っ教えてくださってっ、ありがとう…!」
    「おう。気にすんな」
    あかん、もう無理かもしれん。侑は命の危機を悟ったがこの場から逃げようとは一切思わなかった。高校の時から及影を追ってもう何年も経った。そりゃあ途中は違うカップリングに浮気をしたこともあるが、やはりこのカップリングにはかなわなかった。いつでも帰ってきてしまう、実家みたいなものだ。それを生で、それもこんな近くで摂取できるのだから逃げるなんてありえなかった。侑は思わず膝を床につけて蹲った。
    「及川さん」
    ああ、飛雄くんってこんな声で及川さんに話しかけるんか。
    「何回も見てくれたんですか? ありがとうございます!」
    あかん。もう何回も脳内を駆け巡った単語を繰り返す。及川さんの煽りだかなんだかを理解せずに律義に感謝を伝えるなんてほんとうにおりこうさんだ。かわいい。それでこそ飛雄くんや、と侑は涙が出そうになる。
    「ハイ!どういたしまして!」
    あかん。もう死んだ。及川さん、あんた、意地悪くてかっこよくて、ってだけやなくてかわいいんやな……天然な影山に振り回されてる妄想がぐるぐるめぐる。あながちただの妄想ではなかったのだろうか、と思うくらいには侑は脳が死んでいた。
    「あ、俺ちょっと黒尾に呼ばれてるから行ってくる」
    「えー、岩ちゃん行っちゃうのー?」
    「……影山のこといじめんなよ」
    「いじめませんー!人聞き悪いこと言わないでよ!」
    「影山、いじめられたら昼神さんに渡されてる防犯ブザー思い切り鳴らせよ」
    「うす」
    「うすじゃねーから!てか防犯ブザーって飛雄お前いくつだよ!」
    「25歳です。誕生日きたら26になります」
    「マジレスすんな!」
    「まじれす」
    「……いや俺は飛雄ちゃんの教育の一端は担わないからね。こんなおバカ相手なんてできないから」
    「ばかじゃねえです」
    「ばかだよばか!中学のころからぶれない程度にはばかだろ!」
    「ばかばか言うほうがばかです」
    言い合うセッター2人組に呆れたような岩泉はため息を吐きながら足早に去っていった。(うんうん、及川さんは飛雄くんの性教育に手いっぱいでほかのことは教える余裕ないんよな、知ってる。いやでもこのやり取りずっと中学からやってきとんか???岩泉さんまじでずっこいわ俺も仲間にいれてほしかった。唇むすってしてかわいすぎやろどうなってるん飛雄くんはかっこかわいいけど及川さんが傍におったらかわいい飛雄くんの過剰摂取になってまう……しんどい……心なしかいつもより飛雄くんテンションあがってる気がする……そっか、久しぶりの2人きりやもんなあ、手洗い場のまえやけど久しぶりの逢瀬やもんな、いいな、たまらんな…28歳と25歳の恋人同士がふたりっきりでおってなにもせんわけがない!!!!!な!!及川さん!!!!)侑は興奮でにじむ視界を必死にこじ開けて2人を睨みつけた。
    「……飛雄ちゃん、Bチームは白ユニなんだね」
    「?うす、及川さんは黒っすね」
    「そうそう、俺ってばイケメンだから何色でも着こなしちゃうんだよねえ」
    「よくわかんねえっすけど」
    「わかれよ!なんでこのイケメン具合がわかんねえんだよ!お前の目は節穴か!?」
    「でも及川さんは黒より水色とか、白とかのほうが似合う気がします。うぬん、青城とかサン・フアンのユニフォーム着てる及川さんばっかり見てたからっすかね?」
    ぐ、と及川が言葉を飲んだ。「そ、そうかな?」まんざらでもなさそうな及川が続ける。
    「ってか飛雄ちゃん、サン・フアンのユニの及川さんが見慣れるくらいには試合とか見ちゃってるのかな?」
    「うす、見てます、いつも」
    「うっ」
    「リーグ戦の2試合目の3セット目の及川さんの」
    「あーあーあーあーあーあーあーもういいやめて、もうやめて、なんかはずかしくなってきちゃったからもう俺の試合の話はしない!黙れ飛雄!」
    「うぐ、……はい」
    「よしよし、いい子」
    なんなんこれ。侑は唇を噛んで漏れ出そうになる呻きを押しとどめた。若干鉄の味がするのは気のせいだと思いたい。天然爆弾を食らって照れてるイケメンと、先輩の言葉に従順な美人。(しんどい)侑は目じりにたまった涙をぬぐった。顔を上げて覗いている先にいる及川がもう身長差などない影山の頭をぐしゃぐしゃにかき撫でている。
    「飛雄ちゃんは白ユニ、に、に、にあ、、、」
    「?なんすか?」
    「に、に」
    「すげえ、及川さんねこにでもなったんすか?」
    「…………にあってるよ」
    「え?ちょっと早口すぎて聞こえなかったです、もう1回言ってください」
    「~~~~似合ってるって言ってんの!!!」
    「そっすか? あざっす」
    これが公式???現実????認めたくない。
    侑はいつの間にか取り出していたスマホでちゃっかり動画を撮っている自分に恐怖しながらも、それ以上に目の前で繰り広げられる推しカプのやりとりに心臓が高鳴っている。画質のいいスマホにしててよかった。心からそう思う。
    「はーーー飛雄のせいで俺の寿命が縮みそう、ファンに恨まれるよ、おまえ」
    「さーせん」
    「理解してませんって顔して謝るなよ、腹立つから」
    「さー「言わせねーよ?お前ほんと学ぶってこと知りなよ」……うす」


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