セックス後の浅い眠りから覚めたフィガロが、髪にまつわる昔語りをする話。 まどろみが続いていた。
寄せては返す波のようなそれは、思いのほか心地が良い。悪い夢は見なかった。むしろそれとは逆のずっと見ていたいような幸福な夢を見ていた気がする。だが、それ以上の幸せを知ってしまったから、重たい瞼を持ち上げるのもやぶさかではない。結局現実以上の幸せは夢の中には無いのだと教えてくれた存在が、今も自分に触れてくれているのだ。
頭皮には触れず、短い髪の表面を撫ぜるような遠慮がちな触り方に思わず口元を笑みの形に変える。すると鼻を摘ままれた。
「狸寝入りか」
「違うよ、夢から覚めたばかり。まだ夜明け前でしょう、寝られないの?」
「うん。眠気が来なくて、終わってすぐに眠ってしまったあなたを見てた」
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