無題 死にかけの獣が呻くような声が、伏せたまつ毛の先を震わせる。重たい瞼を持ち上げてみれば思った通り。普段なら呑気に寝息をこぼしているはずの唇が苦しげに歪んで、薄ら白い歯列を覗かせているのが見えた。また良くない夢でも見ているのだろう。オレは自分の体とルークの胸板との間で押しつぶされていた右腕をそろりと引き抜いて、怯えるように縮こまった背中をあやしてやる。
「今でも時々さ、昔の記憶を夢に見ることがあるんだ。血とか火薬とか砂埃とか……、そういう匂いに塗れた生々しいヤツ」
悪夢の余韻が残る掠れた声でそう打ち明けられたのは、ルークとベッドを共にするようになって少し経ったある夜のことだった。そう暑くもない時期だというのに揺すり起こした体はじっとりと寝汗をかいて、そのくせ、顔色は凍えたように蒼白だった。
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