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    らのじ

    ついったで書いた落書を倉庫代わりにつっこんでるだけ

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    らのじ

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    いちさに風味。

    #刀剣乱夢
    swordAbuseDream
    #いちさに
    oneAmount

    感情のなまえ 姿勢が綺麗、体幹がしっかりしている。所作が丁寧で美しい。
     いくつかは、他の男士にも共通していること。刀を扱うにあたって必要な素養とも言えるものは、この世によんだ時点で身についている。
     たいへんうらやましい、というのはさておき。
     私の想いびとたる刀--一期一振について考えるなら、そこになにを足せばいいのだろう。よく分からないままに落下した恋心に、これと気持ちを添えるのは難しい。
     面立ちに関して言えば正直、誰が整っていると並べつらうのも目が痛い。柔和、温厚……ちょっと正しい。でも彼の刀の場合、それを意識して浮かべているような感じもする。
     短くない付き合いで言えることといえば、実直だが四角四面ではなく、責任感が強い……だろうか。粟田口吉光、生涯の傑作と銘打たれた彼は、その顔役のような存在なのだ。たぶん。
     気もそぞろに書類にペンを走らせる。名前――審神者としての通称を書いて、日付は後回し。ちらりと書類の仕分けとチェックを行う近侍をみやると、まだ残っていますよとばかりに苦笑された。
    「飽きたわけじゃないよ」
    「今日中にと言っておられたようですが」
    「うん……。明日はおやすみする」
     当本丸で、近侍は交代制だ。審神者の補佐という都合、書類整理を極端に厭わない刀という条件はつくけれど、兼ね全員で回している。政府からの依頼を受けるときを別として、だいたい一週間から二週間くらい。
     刀の数も増えてきて、一週間という区切りを設けても、同じ刀を任じるまでの期間は長くなる。審神者として、刀たちのことを知っておきたいからの当番制。覆すつもりはないけれど、自覚した恋心は小さな不満を感じてしまう。もう少しだけ一緒に過ごしたいなどというのは、ちんけな我が儘だ。
     明日まで、だ。一期一振が、私の下になんの瑕疵なく侍ってくれるのは。呼びつければ、この真面目な刀は来てくれるとは思うけど。
     私は彼らの主。命ずれば彼らは逆らえない。……嫌がっても顔に出しそうにないこの刀に、主命などという必殺技は行使したくない。……やんわりと、嫌ならいやと諭してくれそうだけど。
     ……嫌、と言われるのも怖い、と。思う自分が意外だった。ふてぶてしい自覚はあったので。
     流れ作業のような書付を終えてから、ひとつのびをする。溜め込まないようにしてもらっていると言っても、どうしても書類の増えるタイミングは存在する。今がそう。
     仕事の少ない日なら、好きにしてもいいと任せることもあるけれど。審神者にしか処理できない書類もあるからだ。近侍に手伝って貰うのは、戦況報告といった戦場に関わる全般と、細かい決済処理の確認。それ以外となると政府から審神者へ通達される連絡事項や稟議書の返事で、ひたすら読むだけの時間彼らは暇を持て余してしまう。
     そうなると、素直に道場へ向かったり、内番の手伝いに向かう子が半々、私にお茶を用意したり世話を焼く子が何振りか。別の仕事を片付けてくれる子も居れば、堂々と昼寝を宣言する明石国行も居る。あの刀、忙しい時期を絶妙にずらして近侍を引き受けてくれるんだよね……。
     眉を寄せた私に、苦笑が聞こえた。顔をあげると、大変整った顔の近侍さまが、私の頭をぽすと撫でる。
    「あまり根を詰めても終わりますまい。して、なにか用事でも?」
    「とくにないけど、たぶん……」
     よく気の付く刀だ、と思う。余所の彼がどうかは知らないけど、少なくとも、私の刀は。審神者の予定の管理補助もしてくれているらしい彼は、私の言う”明日まで”が気になったらしい。
     特に予定はない。……明日まで彼が近侍だから、今日をこなせば仕事からは少なくとも解放してあげることができる。兄を名乗る通り弟と過ごすことも好きな彼を、何日も執務室に缶詰は、ちょっとだけ心が痛む。
     来てはいけないとは言っていないけど、粟田口を筆頭とした聞き分けのいい短刀たちは、仕事の間に立ち寄ってくることは少ない。
     とはいえないものはなく、無いといった後で予定をでっちあげるわけにもいかず。
     一緒に居たいのも本音だったけれど、忙しすぎて参っていたのかもしれない。……書きものは苦手ではないけど、向き不向きはありまして。
     近侍で居ることに縛り付けっぱなしで居るのは申し訳ないという殊勝な感情は、どうにも言葉にしづらかった。
     うんうんと唸る私に、次の書類を差し出した一期はふむ、と小さく呟く。
    「私では……お役に立てませんか」
    「とても助かってるよ……?」
     いきなりどうしてそこに着地したのか。即座に否定しつつ受け取った書類は、私が教えた付箋で必要な補足が書きつけてある。しかも極端に達筆ではない、わざわざ覚えてくれたペン字で、だ。
     ここまで気を遣ってくれる刀は、そう多くない。感謝してもし足りないくらいなのにと見つめると、気まずげに視線がそれた。……珍しいこともある。
    「私が近侍を務めるのは明日まで。しかし主は、明日は一日休みにするという」
    「うん。一期も明日はお休みで」
     休みが嫌みたいな言い方だった。……長谷部じゃあるまいし。
    「私も刀です」
    「……そうだね?」
    「主に侍る褒美を、どうして休みと比べられましょうか。……いい加減仕事から解放されたい様子なのは、無碍にはできませんがな」
    「…………そ、うですか」
    「意外そうな顔をされんでください。…………いや、主?」
    「そ、う、なのか…。ご褒美……」
     しゅぽぽぽと、頬に熱が集まった気がした。刀として主に対しての言葉だとしても。そも、面白みのなさとかそういう点をあげるなら、私は一緒に居て楽しみを提供できる自信はない。そういう娯楽は、風雅を理解する刀たちの方が向いている。
     一緒に居るだけでいいなどと、謙虚を持ちだした言葉だとしても嬉しいことに変わりなく。
     顔を覆った私に、わたわたとする彼の気配がした。……ちょっとだけ落ち着かせてほしい。主としての幸福と、個人の気持ちに折り合いをつけたい。
     ……それなら確かに最終日を待たずに「休みだ」と放逐するのは、主としてだめだっただろう。かわいそうなことを言っていた。
    「主、…主? 気にされることでは、ないと、…主?」
     私も一緒に居たいし問題ないのでは…?
    「口から出ておりますが」
    「はっ。………ええと、どこから」
    「……一緒に居たいと。どうやら先のは、勘違いだったようですな」
     聞かぬふりなどしてくれぬ刀に意識して口を閉ざした。いいわけのしようもない事実を、神の一端である相手に誤魔化すのは難しい。否定もしたくないのに、今度は別の意味で頬が熱い。
     誤解……になりかけたことがとけたのはいいのだけど。恥じらい損のような気持ちに、私はペンを置く。私だって一緒に居たい。
    「一期」
    「はい」
    「明日、万屋に、いきませんか」
     部屋でだらだらとするくらいだった予定を返上して提案した私に、彼はふわりと笑みを浮かべた。
    「喜んで。そのためには、書類は終わらせなければなりませんな」
    「う。う~~~、がんばるぅ……」
     後で厨に休憩用の茶菓子をリクエストしに行こう。甘いものでも詰め込んでなければ集中できる気がしない。姿勢を正し直した私に、頼んでいたらしい分を終えた一期は席を立つ。お茶をいれてきてくれるらしい。どちらかというと世話を焼いてくれる方の彼は、なにかと言いつつも私にちょっと甘い。
     そんな彼の期待に応じるためにも、決裁書くらいは午前中に形にしてしまおう。
     個人としての我が儘を、主としての矜持で包み込んでも、気配が遠のくにつれふと笑みがこぼれる。
     特別と言葉にするのはすこし重くても、今回のお礼という建前なら、もう少し彼に構っても許されるだろうか。兄であり、代表者である彼も、私の下では等しく私の刀だ。
     そう考えれば、想い馳せるのもそう難儀な話しではないのかもしれない。――ただ愛しいという私の気持ちを足すなら、私の傍に彼の刀が居ただけなのだ。出会って数年越しに芽吹いた感情は、難解な言葉など必要なかった。
    「休憩にしましょうか」
     お茶を片手に持ってきた一期を隣に招く。さっきの言い方では不十分だ。
    「一期と一緒にお出かけしたい。私だって、あなたと一緒に居たいよ、一期」
    「……主」
    「明日までは近侍だもの」
     遠慮し過ぎるなと、昔注意されたことがある。近侍である間くらいはと。交代制である本丸で、一振りに頼るわけではない状況は難しくてもと。選んだのは私だけど、殊勝にうなずいた心はいつの間にか埋没していたようだ。
     素直が取り柄でしかない私ができるのは、彼らに言葉を尽くすこと。
     片手を額に当てた一期は、おざなりに私の頭を撫でる。…褒めるような手つきは誤魔化しがみえた。
    「一期?」
    「……近侍でなければ、呼びつけませんからな、主は。……ちゃんと伝わっておりますよ」
     伝わっても困るとはのみこんで、彼の持ってきてくれたお茶に手を伸ばす。背を少しだけ預けた近過ぎる距離を許されるのは、主である特権だろうか。さりげなく支えるようにまわされた腕は、近侍の気遣いだろうか。
     ほうとはいた息が、少しだけ白く染まる。
     春遠く、温もりを分けるような感覚は、心を乗せるにはまだ勇気が足りない。
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