「ねぇ巳虎さん、捨てないでくださいね」
「は?何のことだ?」
事後のまだ少し艶を残した声で弥鱈が言う。
突然のことに巳虎は心当たりがない。捨てるな、と言われても弥鱈から何かを貰った覚えもなかった。
「あの時、あなたは這い蹲りながらも拾ってしまったんですよ。そこに捨て置かれるはずだった私の興味を」
「何だよそれ」
「崩れ落ちた姿を見てあなたへの興味は無くなったはずでした。でも、あなたはそれを許さなかった」
「はぁ?」
とんだ言いがかりだ。お前が勝手に…
そこまで言いかけて、巳虎は口を閉ざす。
だいたい、こうして身体を重ねるようになったきっかけは何だったのか。どちらが言い出したことなのかも分からなかったが、正直なところどうでも良かった。
お互いに今の関係に名前をつけるようなことはしなかったし、名前をつけることが枷になるとどこかで考えていたのだろう。
「責任、取ってくださいね?」
弥鱈の目が挑発的に巳虎を捉えた。
負けじと巳虎も笑みを浮かべる。
「勝手に自分で手放そうとしたくせに責任も何もねぇだろ。そんなに心配ならせいぜい俺の興味を引くようにしてろよ」
「どんなのがお好みです?」
「さぁな」
別にお前だったら何でもいいと思ってしまっていることが癪だ。
馬鹿らしいとは思いながらも巳虎の中には、弥鱈に自分だけを見ていてほしいという思いが見え隠れした。
そんな思いを知ってか知らずか弥鱈もまた、この男を好きにできるのは自分だけでありたいと強く思う。
「それで?お前はどんなのが好きなんだ?」
おざなりに向けられた質問に、弥鱈はニヤリと笑う。
「そんなの、言ったらつまらないじゃないですか」