かがみよかがみのないしょごと(2)ロンディーネが大陸から持ってきた書物の中に紛れていた荒唐無稽な空想小説では、遠い夏日星からタコのような形をした生き物が攻めてくるという筋書きだった。
宵の入りから空の色が何処か落ち着かないそれだとカムラの里の対為す焔はそれぞれに感じ取っていた。
だからといって百竜夜行の兆しがあるでもなく、心の底を羽箒で撫で上げるような曖昧で弱い何らかの予感だけがあったので、黒白の双子の片割れが何を言うでもなく大社跡へと発って四半刻ばかり。
いやに静かで大型モンスターの気配が遠い。
岩山を翔け上り、見下ろす沢には数頭のケルビが悠長に跳ねて行き過ぎた後、水の流れ落ちる音しか響かない。
何かが気まぐれに作った螺旋階段のようなぽつりぽつりとせり出した浮島のような足場を飛び渡って、いつもの場所へ。
1919