小噺皇帝ラインハルトが崩御してから約二十年、立憲君主制へとゆるやかに舵を切るローエングラム王朝の国務尚書、ウォルフガング・ミッターマイヤーはフェザーンのとある邸宅の前にあった。
呼び鈴を押し、家令が開ける玄関を即座にくぐると、ミッターマイヤーは勝手知ったる様子で長い廊下を抜ける。
それから一際大きな両開きの扉の前へたどり着くと、その重厚な木製の扉を勢いよく開いた。
「ロイエンタール、邪魔をするぞ」
ミッターマイヤーが扉を開きながらそう言うと、声をかけられた張本人であるロイエンタールは、美しい革張りのデスクチェアに預けていた身体を、少しばかり起こしてみせた。
「おい、いくら俺と卿の仲でもノックくらいするものだぞミッターマイヤー」
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