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    ヒュンポプお題「海」より

    ##ダイ大
    #ヒュンポプ
    hyunpop

    F.O.A.Fこの夜の海で見知った声で話かけられても
    返事をしてはいけないよ

    なぜ?

    それは死者の声だから───


    なんて街のおねーさんたちが話してたんだよな。
    友達の友達が言ってたんだとさ。夏には背筋の寒くなる話ってやつで盛り上がるけどその類いなんだろうな。

    夕焼けの砂浜を歩きながらポップが話す。

    会いたいと願えば故人に会えるとかなんとか。
    でもうっかりついていけば海の藻屑なんだってさ。
    ……本当に会いたい人に会えるのかねえ。
    それが本人かすら…わかんねえけど。

    ──そう言いながら笑っていたおまえを見たのは何年前だったか。

    海の音を聴きながら砂浜を歩く。
    街からの光は遠く夜空に淡く光る月のほのかな光だけ...そんな夜の闇に沈む空の下、ただ波の音だけが響く砂浜から、空よりも暗い海を見る。

    「辛気臭い顔してどうしたよ」
    軽い声が砂浜に届いた。
    はっとして声の方を見ると、いつの間にか海の上には影があった。シルエットが人の形をとっているというだけの表情も見えないほど黒い影。
    海から生まれたのかのように、まるで静かにそこに在った。

    だが声には聞き覚えがあった。待ち望んでもいた。この場でなければ。
    あの話が真実であるならば、この黒い海の上でオレに語り掛けるおまえは…

    「何も言わず消えた者を待っている顔が辛気臭いというのであれば、そうなのだろう」
    返事は返ってこない。

    「…どこで何をしているのか、行方も知れぬ状態で、ここに来ておまえが居ないのならば、きっと無事なのだろうと…オレに出来るのはそれだけだった。」
    返事は…ない。声が闇に溶け込んだのか届いているのかわからない。それでも続けずにはいられなかった。
    恐らく魔界にでも入ったのだろうと考えた。それならばろくに戦えない身体の自分を置いていくのも仕方のないことだと。
    その現実を受け入れようとして、受け入れることができないほどに側に居たいという気持ちは大きくなるばかりだった。
    渇望していた者が目の前にいるが果たしてそれは…

    「……今そこにおまえが居るということは…」
    「死者なのか生者なのか…か?……どっちだと思う?」
    ようやく返ってきた声は少し笑ったような、昔のままの調子だった。

    その声を聞いて黒い海へと足を沈める。
    「……どちらであってもオレがやることは1つだ。ポップ」
    影がすこし揺らいだような気がした。
    腰あたりまで海水がくれば、さすがに水の抵抗も強くなっていき、進行ももどかしい。はやく。はやく。
    胸辺りまで沈みだした頃、泳ぐかと思った辺りで影が海面を歩くように、こちらに近づいてきた。

    「なんでおまえの方から来るんだよ」
    ため息と共に呆れたような声で影が言う。

    「おれ、来いなんて言ってないし、引きずり込む気もないんだけど?チョロすぎるだろ。声だけだぜ?もっと警戒とかしろよ」
    「そう、声だけなのだ。砂浜からでは顔も確認もできないならば、近づいて確認するしかあるまい」

    「………しょうがねえ男だな」

    屈み込んだ影から見えたものは、困ったような顔。だがそれにすら心が高揚するほどに切望していたものだった。

    「そんなにおれが恋しかったのか?」
    「ここに出る何かは人を連れていくのだろ?それすら期待するほどには…」
    「連れていって欲しいから通ってんのか!おまえってやつはよぉ…」
    「そうだな。現れたのがおまえで良かった」

    腕を伸ばせば届く距離まできた顔に 、海水で濡れたままの手を伸ばして触れる。柔らかくて暖かい感触に思わず安堵で目の奥に熱さを感じた。

    「…ほんとしょうがねえ」
    小さく呟かれた言葉は、バシャンと何かが沈む音でかき消された。
    あとに残ったのは波音だけが響く海岸と、そらに流れた一筋の流星──




    その日以降その男の人の姿を浜で見かけることは無くなったんだって
    死んじゃったってこと?
    そうかも?
    えーっじゃあやっぱりあの海には魔物でるんだ

    がやがやと賑わいを見せる海辺の街の昼下がり。

    「その話、最後がちょっと違うんだけど聞く?」
    噂話に花を咲かせる若者達に、突然フードで顔の隠れたの男が軽い声で割って入ってきた。
    突然の乱入者に驚き、話が止まった彼らに気にもせず話し始める。
    「男はその海にいたモノと共に暗い夜空に、まるで流星のような一筋の光になって去ったんだよ。だからそこにいたモノが魔物だったとしても、もうあの海には居ない。なんせ…男が連れていったわけだしな」

    フードから見える口がニコッと笑う。

    えーーほんとに?
    などときゃっきゃと騒ぐ若者達に、なんならもう少し話しねぇ?そこのカフェとか…などと言い始めた男の後ろから咎めるような声がした。
    「ポップ」
    身長は1人目よりも大きくがっしりとした体格で、こちらもフードをしていて表情は見えない男だった。
    「へいへい。じゃあな、さっきの話しはほんとだぜ?何せ友達に聞いたんだからよ」
    そう言いながら離れていったフードの男達が、人混みのなかに消えていくのをしばらくみて、若者達はまた別の話題で盛り上がっていく。


    「いいだろ、ああやって噂話を変質させていけば、噂から生まれる魔を打ち消すわけだし、実際まるっきり嘘ってわけでもねぇし」
    フードの男1…ポップは折角いい感じに話そうとしていたことを止められたことに不満そうに言う。
    「しかし、魔物は本当に居なかったのか?」
    フードの男2…ヒュンケルはその不満顔を、意にも介さない。

    「んーー…魔物が出るっていってんのに定期的に訪れる男の噂を聞き付けた、どこぞのお節介な魔法使いが浄化したって噂だぜ」
    「ほう、お節介な…。だがその噂の男は魔のモノに出会った様だが」
    「じゃあその魔法使いがマモノにでもなったんだろうよ。結局、その男を連れてったわけなんだからよ」
    「ああ、全くもって可愛い魔者だった」
    ヒュンケルが思い出すかのように海を見る。

    「うるせえ!泣きそうな面してたくせにっ。いや、泣いてたろ!海の中で有耶無耶になったけどおれはわかってんだからな!」
    ぷんすこという音が聞こえそうな勢いでフードを取ったポップの顔は真っ赤だった。
    「そうだな、おまえの言葉に歓喜して流れた涙なら海に溶け込んだ」
    フードを外し、とても大切なものだと言わんばかりにポップの顔を撫でる。
    ますます顔を赤くする相手に微笑みながら、遠く海の音を聞く。
    その耳に残った言葉と共に。




    …ほんとしょうがねえから、他のやつに連れてかれるくらいなら、おれが連れてくわ
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