クリスマスの話 進捗 いくつもの青い輝線が、縦横無尽に飛び回る。
ドローンが放つ青白いレーザーは、シミュレーションを形作る四角四面のストラクチャーのそこかしこを焼き焦がし、染みのように黒い弾痕を残している。Vvc-700LD——レーザードローンは、遣い手の意思に応えるように宙を駆け、互いを喰み、標的を狙っていた。
そう、この仮想空間で攻性ドローンを手繰るのは一機だけではない。青と紫、二つの機影が轟音響く決闘場で息も吐かせぬ攻防を繰り返している。
——青の機影、すなわちV.Ⅰフロイトが駆る中量二脚型AC〝ロックスミス〟。
——紫の機影、すなわちV.Ⅱスネイルが操る重量二脚型AC〝オープンフェイス〟。
両者の戦法はひどく対照的だ。
オープンフェイスは空中を飛び交うレーザーに怯むことも退くこともなく、その堅固さを示すように相対する機体に突撃/ロックスミスは僅かな動作で迫り来る一撃を回避し、相手と距離を取りながら返しの刃を放ち——それを先読みしたオープンフェイスの刺突で跳ねるようにさらに後退。レーザーブレードとランスから迸る熱が塵を燃やして、パチパチと火花を散らせている。——剛と柔、対極の二機が闘志に猛るように。
技量が高いパイロット同士の戦闘は、仮想演習と言えど鬼気迫るものがある。互いを打ち倒すべく放たれる攻撃は、力量のない者にとっては一撃一撃が死に至る鋭さを確かに秘めていた。ヴェスパー部隊のトップツーは、余すことも躊躇いもなくその実力を発揮する。
縫い付けるようなプラズマミサイルを掻い潜り/放たれた散弾をパルス爆発により吹き飛ばし。相手の一手に対する切り返しが瞬時に放たれるその様は、一種の舞踊(ペアダンス)のようだった。
撃って、打って、射って。
斬って、突いて、裂いて。
跳ねて、弾けて、飛んで——永遠に続くかのような応酬は、しかし刻一刻と戦況を変えていく。
いつの間にか相争うドローンたちの姿が消えている。今や飛び交うドローンは、ロックスミスの制御下のものしか残っていない。そしてそれらは明確に敵機を——オープンフェイスの一手を狭めるために付け狙っていた。
ドローンによる制空権を確保したロックスミスが、畳み掛けるように攻撃と細かな機動を繰り返す。照準を付けようとしてもサイトをぶれさせるその動きは、次の行動を読むことを難しくしていた。
それに対しオープンフェイスは、アサルトアーマーを展開させてドローンを振り払う――いや、振り払おうとした。
それよりも早く、ロックスミスが一手を詰める。ドローンたちが一斉に動き出し、全方位からレーザーを照射/至近距離に近づいて横薙ぎに一閃——くるりと身を翻してまた一閃——今までに蓄積したダメージによって、堅牢なオープンフェイスが遂にACS負荷限界を迎えた。
動きを止めたオープンフェイスに、間髪入れずにロックスミスが重々しいバズーカの銃口を向けそのまま散弾を全て浴びせる。その、一連の大打撃にオープンフェイスが膝を屈するように見えた瞬間、パルスの灰白い閃光が炸裂した。
アサルトアーマーによる衝撃で、ロックスミスが大きく退く——その隙を逃がすまいと、オープンフェイスがレーザーランスで猛追する。その雄邁な突撃を称えるように、ロックスミスもまたライフルを構え、そして——
まるでこのタイミングを見計らっていたかのように連結を終えたドローンが、オープンフェイスのコアを撃ち貫いた。
*
「最高、だったあ……」
「——そうですか。それは、何よりです」
ぺたりと冷却シートをフロイトの額に貼り付けながら、スネイルは気もそぞろに返答した。満足げなフロイトとは対照的に、スネイルはアイウェアに映る今回の対戦記録を納得のいかない眼差しで見ている。何故ならば、
「三勝三敗で引き分け、か。悔しいが、色々アセンブルが試せて良かった。……最後の組み合わせ、もう少し使い込むと楽しそうだ。なあ、スネイル」
そう——午前と午後に区切ってまでやった六試合が、双方引き分けで終わったからだ。装備の変更は三回まで、というスネイルに有利な条件であったというのに。
豊富な戦闘経験と天賦の才を持つフロイトだが、弱みというものが幾つかある。その一つが〝アセンブルの習熟度〟だ。スネイルのような強化人間は初見の武装であったとしても、ACとの優れた接続能力によってある程度は使いこなすができる。しかし生身の人間はそうはいかない。
ACと繋ぐ接続口をその身に持たないフロイトは、その武器の射程距離がどこまで有効で、どのように扱えば良いのか——様々な行為をACを介して理解する必要がある。だからこそ、いつもあんなにも非常識な練習時間を取っているのだ。
加えて、フロイトは練習試合では初見のアセンブルと対した時に観察を重視する。相手の動きやアセンブルの組み方を分析することで、自分の糧とするのがこの男だ。フロイトのそんな特徴を弱点として突いたはずなのに、結局は引き分けで決着してしまったのだ。反省点や不足を今後の調整と訓練に活かさなくては自分が許せなくなる。だのに、スネイルの隣でだらりと寝そべるフロイトは、べらべらと感想ばかりを述べていた。
「最初の試合、お前ときたらいつものアセンだっただろ。つまらないことをすると思ったんだが、あそこで投げ出さなくて良かった。オープンフェイス、まさかあんなのを隠し持っていたなんて。……この、スケベ」
「下世話な物言いをするな。……たかだか軽量を組んだ程度で、何を言っているのです」
——それは、スネイルがまだヴェスパー下位だった頃のことだ。当時第一隊長だった人間の方針で、スネイルは偵察から露払いまで四方八方に駆け回されていた。より多くの功績を集めるため、損耗が少なく身軽に動ける軽量二脚をしばらく愛用していたのだ。
フロイトとのシミュレーションに備えて今までの戦闘記録を片っ端から見直していたところ、軽量では戦ったことがなかったと気付いて現在の最適解で組み直したのだ。重量に慣れすぎたこと、そしてブランクが空きすぎたことで動きは若干ぎこちないものとなったが、その成果はこの通り高評価だ。フロイトは見たことがなかったスネイルのアセンブルに、ご満悦とばかりに満面の笑みを浮かべている。
「レーザードローン対決も良かった! 俺が持ち出した途端、お前も持ってきてくれて。光の線が交叉して、綺麗だった。……戦闘記録、映像で残っているよな。個人的に欲しい」
「勿論残してありますが。何に使うのですか」
「うまく切り取って、デスクトップ画面用に加工する。……スネイル、お前。接待が上手いな!」
「社会人としてこの程度は当然です。喜んでいただけたようで何よりだ」
スネイルはフロイトの喜びように安堵した。要求にここまで答えたのだ。この調子でしばらくは大人しく仕事をしてほしいとも思うが、この男は自分の好きなこと以外は飽きっぽい。最早こちらの邪魔さえしなければ、などと考えてしまうのは致し方ないことだろう。……それに、今機嫌を取っておかなければ後々困ることとなる。
つつっ、とスネイルは横になっているフロイトの首筋をなぞった。ぴったりとしたパイロットスーツ越しにあの時のように鎖骨までを撫で上げれば、ぱしりと手首を掴まれる。釣られてフロイトの顔を覗けば、汗で濡れた前髪の奥から目を細めてスネイルを見ていた。
「スネイル、まだ早いぞ。もう我慢が効かないのか?」
「貴方は、忘れるのが得意ですから。……〝約束〟を覚えているようで安心しました」
「当然だろう。俺は、楽しいことは忘れない」
約束——それは今回の模擬戦を取り付けた際の交換条件だ。フロイトは〝プレゼント交換〟などとまるで子どものような表現をしていたが模擬戦も、そしてスネイルの言う〝約束〟も、決して子どもがするようなものではない。フロイトはその意を汲み取るように微笑んだ。
「こういうのは準備が大事だ。そうだろう? 俺は汗をかいたからシャワーを浴びたいし、飯も食いたい」
額に貼られた冷却シートを剥がし、床に放り捨てながらフロイトが立ち上がる。そしてスネイルの注意が口から放たれる前に、そのこめかみにキスをしてから耳元に唇を寄せて囁いた。
「プレゼントは良い子のところに届くものだ。——夜には必ずそっちに行くから、大人しくしているんだな」
「なっ……!」