ドカ食い閣下 チーズケーキとフォンダンショコラ。
ミルフィーユにフルーツタルト。オペラ、モンブラン。
それから、桃のコンポート。アールグレイのシフォンケーキ。ブランデーで浸したサヴァラン。苺のショートケーキ——
机上で皿の縁と縁が重なり合うほどに置かれたスイーツ群を見て、フロイトは笑いながら呟いた。
「すごいな。ACの見本市みたいだ」
『それを言うなら、〝ビュッフェテーブルのようだ〟、では?』
フロイトの見当違いの発言を、向かい側に座るスネイルが指摘する。しかしそれはスネイルの口からでなく——それも当然で、いまスネイルは菓子を平らげるために口を動かし続けているからだ——、フロイトのすぐ傍に置かれたタブレット端末によって無機質な文章として表示された。スネイルはちらりとフロイトを見た後、レモンクリームがたっぷりと乗ったスポンジケーキに視線を戻して食事を再開する。その様を、フロイトは皿で狭くなっている机の上で頬杖をつきながら眺めていた。
時々あるのだ、こういうことが。彼の言う頭の悪い上層部や邪魔ばかりする敵対勢力のせいで——または積み重なる仕事と責務でストレスが許容量を超えると、スネイルはこのように暴飲暴食の限りを尽くす。山のように積まれた特大サイズのポテトチップスや、大きなハンバーガーのダースなどエトセトラエトセトラ、胃がはち切れんばかりの量を食べ尽くして半ば気絶するように眠る。そしてぷつんと糸が切れた意識の先で目覚めると、苛立ちが収まるのだとか。
それは最早どうでもよくなったの間違いなのではないか、とフロイトは常々思っている。なぜなら大体その後のスネイルときたら、カロリー消費とばかりに戦闘任務や演習を自らのスケジュールに突発的に入れ始めるのだ。その度に勤怠管理をするメーテルリンクやら予算の採決を待つスウィンバーンやらがよく悲鳴を上げている。まあそこら辺はフロイトには関係のないことだし、演習相手として組まれることが多いのは断然自分なので、フロイトとしては願ったり叶ったりだ。
フロイトが見つめる先。スネイルは手早くスポンジケーキを片付けて、ダークチェリーパイを食している。ナイフとフォークで綺麗に切り分けているものの、急ぐように口元へ運んでいるからかパイ生地の欠片やシロップが口の端に付いている。取ってやろうと腕を伸ばすが、拒否するようにがたりとスネイルが顔を引く。そしてかたかたと、タブレットが意思を示した。
『あげませんよ』
「いらない。カロリー計算が面倒だ」
『そうですか』満足感を映さぬ無表情のまま、幾らかのラグを置いて次の言葉が打ち出される。『こんなに、美味しいのに』
……その仏頂面に似合わぬ素直さと率直さに、フロイトは思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
今のスネイルは本当に食べることに必死で、自分の思考に制御ができていないところがある。そしてそれが目の前に置かれた対話用のインターフェースに映し出されるのだ。そこが面白くてたまらないのだが、それを指摘したが最後このタブレットは一瞬で物言わぬガラクタになり、自分はこの部屋から追い出されるのは目に見えている。そんな勿体ないことをする訳にはいかなかった。
だから。ことの顛末に何の興味もないくせに、フロイトは世間話を続けるために口を開いた。
「で、だ。今回はどんな無茶振りをされたんだ、スネイル」