その国の在り方を、或る者は最先端と賞賛し、或る者は差別的だと侮蔑した。
少女は往く。
下層に落ちたくないと俯き嘆きながら働く者たちを横目に。
少女は往く。
自分たちの富と名声の為に上を向きながら下層を顧みない者たちを横目に。
少女は往く。
地上五十層、地下百層を貫く巨大な摩天楼━━演算機・人工太陽【ハイペリオン】を横目に。
その少女は、願いの叶え方を知っている。
*
地表第一階層。上層と下層の境目、他国との交易の拠点。純白の壁で区画分けされたその南端に、交易の場として似つかわしくない小さな喫茶店が存在する。
ソファに、端末を弄るひとりの少女が座っている。
目深に被った帽子から溢れる、長く癖ひとつ無い髪は薄桃色。瞳は深海を思わせる昏い碧。年は十代後半に見える。
下層育ちにしては小綺麗だが、上層では見ないような軽薄そうで奇抜な格好をしている。
そして━━短い裾から覗く左脚は、太腿を境に鈍い銀色に輝いている。
「━━チル」
声を掛けられ少女が端末から顔を上げると、いつの間にかひとりの青年が店の入り口に立っていた。
年は少女より少し上に見える。上層育ちらしい小綺麗な背広を着ているが何処かぎこちなさがある。
髪は光を透かすと僅かに青みを帯びて見える黒、幼さの残る瞳は鳩羽色。
「新しい依頼が来たぞ」
白い封筒を掲げた右手は革の手袋を着けている。その中から、微かに金属の擦れる音が響いた。
地表を境に上層と下層に隔てられ、上層に生きる者は下を、下層に生きる者は上を見ることを許されていない。
進み過ぎた技術に支配されたこの国の中で、それでも時折、下層を覗く上層民、上層を望む下層民が存在する。
その少女は、願いの叶え方を知っている。
この国の定めを破る覚悟があるならば、大切な"何か"を差し出すことで『願いの叶え方』教えてくれる。
けれどそれは『願いを叶える』わけではない。
それを理解しない者の願いは、決して叶うことは無い。
覚悟の無い者に、少女は決して微笑まない。