Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    なすずみ

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 21

    なすずみ

    ☆quiet follow

    桃ちゃんではない
    本当に趣味注意!!直接描写ないけどやることやってる
    追記 ちょっと手直し

    ##果物

    モブお姉さん×少年蜜+蜜檸蜜「お腹空いたんだ?」
    チャイムを鳴らす前にガチャリとドアが開き、出迎えられる。足音は忍ばせたはずなのに、どういう特殊能力なのだといつも思う。
    数日前、貯金とも言えない貯金が底をついた。手元にあった食糧も無くなり、向かったのは女の住処だった。
    「ああ。好きにしていい」
    几帳面に爪先を揃えながら靴を脱ぐ。そんな少年を面白そうに眺めながら、女はくすくすと笑った。
    「据え膳だね。どこで覚えたの、そんな台詞」
    「別に覚えてない。金銭の代わりにあんたの趣味に付き合うという契約を、言葉にしただけだ」
    「あーあー、だめだめ。今のナシ。さっきの台詞、言い直して」
    まだ蜜柑ではなかった少年は、億劫そうに小さく溜息を吐く。
    曇り空ゆえに薄暗いが、まだ太陽が真上にある時間だ。光から逃れるようにカーテンを閉め、電気を消してベッドに身を投げ出す。柔らかなクッションに身体が沈んだ。
    「珍しく性急だね」
    「目的以外にすることがない」
    「つまらないなあ」
    女は笑いながら、ベッドの縁に片膝を乗せる。髪ゴムを咥えながら、慣れた手付きで快楽の為の器具を装着した。
    「あんた、たしか小説を読むでしょ。恋愛小説を読みなよ。女の口説き文句、いっぱい載ってるよ」
    「恋愛小説はそういう本じゃない」
    「読んだことあるんだ」
    意外そうに声を上げる。少年は心外そうに眉を顰めた。
    「ふだん何読んでるの」
    「ジャンルの話か?知らない。なんでも読む。推理小説も、官能小説も」
    「なるほどねえ。長生きしなよ」
    「どうして小説から寿命の話になるんだ」
    「あんたが本を読むから」
    「おかしいか」
    「おかしくはないけど。この業界は、本を読むやつと全く読まないやつにきっぱり分かれるんだ。傾向としてね」
    「世の中には二種類の人間がいるってやつか。当たり前だろう」
    「極端なんだよ。そして本を読むやつは長生きするけど、早死にだ」
    「どっちなんだ」
    答えず、女は静かに笑った。
    「ねえあんた、仕事探してるんでしょ。雇ってあげるから、しばらくうちに居ればいいじゃん。私はお金なら持ってるし、あんたもちょっとは長生きできる」
    「実のある同情だな」
    「あんたのこと、気に入ってるから」
    「でもあんたはいつか死ぬ」
    「私の寿命は多分長いよ。そりゃ保証はできないけどさ」
    「保証ができたら、考える」
    女はちらりと目線を逸らす。目の端に、少年の着るシャツの袖口を捉えていた。付着した血痕は、最近のものではない。
    「そうだな、例えばだけどさ」
    ぎしり、とベッドが軋む。
    「私を殺したりとか、できる?」
    「何故、殺せないんだ」
    簡潔な答えに、目を細める。
    「長生きできそうだね。今日は私が殺すけど」
    「La petite mort か」
    「だから、そういうのどこで覚えるの。子供のくせに」

    「誰のこと考えてたんだ?」
    頬に触れた熱に、意識が引き戻される。
    下から伸ばされた右手が、汗で頬に張りついた蜜柑の髪をやさしく払った。
    「檸檬」
    「どうした」
    「なんでも」
    「なんだよ。おまえ、たまにぼーっとするよな」
    「しない」
    そう答えながらも、まだ頭に霧が掛かったような感覚がある。曖昧な空気との境目に、自身が溶けてしまいそうで、蜜柑はゆるゆると頭を振った。
    「昔の……パトロンと言うのか。ふと思い出した」
    「へえ、俺も知ってるかな」
    「知ってるわけないだろ」
    「分かんねえぞ、この業界が案外狭いのは知ってるだろ」
    「竿兄弟は笑えない」
    「兄弟か。よく言われるし、俺たちにぴったりじゃねえか」
    檸檬はからからと笑う。双子だ兄弟だと勘違いが広まっているのは事実で、蜜柑は顔を顰めた。
    「冗談じゃない」
    「まあ俺はトップの方が多かったけどな。檸檬くんみたいな子にあえて突かれるのがいいんだと。あえてってなんだろうな」
    「さあな」
    蜜柑と呼ばれた過去の記憶はない。檸檬だってそうだろう。あの頃の己は何者だったか。脳裏を飛び交う断片的な記憶は朧げで、早々に繋ぎ合わせることを諦める。
    「着ながらやるのも、そいつらの趣味だったりするのか?汚れるっつって嫌がるなら、最初から脱ぎゃあいいのにって思ってたけどよ」
    白い制服を着潰していたかつてとは違って、今はよく黒を好んで着ている。息苦しさを自覚して、首元まで留めていたシャツのボタンを一つ外した。
    「別に癖でも、趣味でもない。こっちの方が落ち着くだけだ」
    そっと息を吐く。
    蜜柑のパトロンは窓辺に写真立てと指輪を飾っていたし、檸檬が相手にした女も、多分、檸檬じゃなくても良かった。
    代替品ばかりだと思う。業界一番という称号だって、次々に張り替えられてなんの保証にもなりはしない。 
    見下ろすと、あちこちに跳ね放題の檸檬の髪も、今は穏やかにシーツに広がっている。首筋の髪を払って、そこに軽く唇を落とす。二度、三度と続けると檸檬は押し殺したようにくつくつと笑った。
    「なんか、変な感じだ」
    「くすぐったいか」
    「なんだろうな。蜜柑のくせに、ばかにそうっとしてて」
    「俺はいつも丁寧だろ」
    どの口が、と笑いながら、蜜柑の首に手を回す。そのまま頭を引き寄せて、耳を喰んだ。
    「蜜柑」
    あまい声にびりびりと背筋が痺れる。目の奥がぶれそうになって、刹那、堪えるようにぎゅっと瞼を閉じた。喉から漏れ出そうになった声を殺して、なんとか返事をする。
    「どうした」
    「なんでもねえよ」
    首を傾げて蜜柑を覗き込みながら、悪戯そうに口角を上げる。腹が立つのに、頭の中は冷えるどころかぐらぐらと沸いた。
    「檸檬、次は……」
    「ん、代わるか」
    檸檬がゆっくりと身体を起こした。こんなときばかり察しが良いと、胸の内で悪態づく。
    普段、倦みきったような目付きを振りまいているくせに、暗闇で覗き込む檸檬の目はどこかきらきらと輝いて見える。一重瞼の瞳の奥に、ぱちぱちと弾ける炭酸のような光を幻視した。
    眩しくて、そっと目を伏せる。
    「好きに、していい」
    甘くて酸っぱい果実のジャムのように、どろどろに溶けて無くなってしまっても、それはそれで。
    そんなの冗談じゃないと、片隅の理性だけが抵抗を示した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works