……あ?
どこや…ここ?寒い。
身体がぴくりとも動かん。
それどころか寒さ以外の感覚さえもまるで無い。そのせいか今の己には手足や胴体さえも存在していない錯覚に陥っている。
自分の身体が一体いまどうなっているのか、視線以外動かせないせいでまるで解らなかったが、己の隣や目の前に白い物体が幾つか並べられるように置かれている。
よく見るとその物体の一つ一つにも顔があるのに気がついた。彼らは全員目を閉じている。
ワンちゃん、旦那クン、大将、陛下ちゃん、
ぼん、チビすけ、バーサーカー…
現状の何一つとして理解できるものがない。
意識があるのはわがはいだけなんか?
どうしてこんな事になっとるんや!
考えたって解るわけがない。
今のわがはいにはどうすることもできない。
動けないのだから。声が出せないのだから。
そうこうしていると、前触れもなく突然頭上から、わがはい達の身体などいとも容易く握り潰してしまえそうな、巨大な巨大な手が現れた。
恐ろしく大きなその手は、わがはい達の頭のすぐ上まで降りてきたかと思えば、1番手前にいたバーサーカーをむんずと掴み上げあっという間に連れ去っていってしまった。
かと思えば、次々と伸びてきた手がチビすけを、陛下ちゃんを、ぼんを鷲掴んで次々と攫っていく。
誰も抵抗しない。できない。誰も意識がない。
声を上げる間もなく(実際に声を出すことも出来ないのだが)、為す術なく連れていかれてしまった。遠く、遠く、手の届かない所へ。
連れ去られた先でどのような目に遭うのか。
解らない。
そもそもここは何処なのか。
解らない。解らない。
どうしてこんな事になっとるのか。
解らない。解らない。解らない。
考える以外の事が出来ないのに、
いくら考えたところで答えなど出てこない。
考えを纏める暇さえ無いまま、
いつの間にか再び巨大な手が現れていた。
意識の無い旦那クンが。
目を閉じたままの大将が。
声も手も届かないワンちゃんが。
巨大な手に捕まって。
遠く遠く。
どんどん見えなくなっていく。
そしてとうとう己だけになってしまった。
たったひとり取り残されてしまった。
憤慨することも嘆くことも出来ないまま、間髪入れず巨大な手がこちらに伸びてくる。
皆がどうなったのか解らない。
これから己がどうなるのかも解らない。
けれどこのまま、何も出来ないまま無抵抗で連れて行かれるのはひたすらに嫌だった。
ついに手がわがはいを掴んだ。
地面が離れていく。遠く遠く。相変わらず身体は動かない。どうすることも出来ない。けれど。
せめて、せめて最後に、この暴力的な理不尽に対して文句のひとつでも言ってやらないと気が済まない!
「……っっ、アイツらを!!返せや!!!」
声が出た気がした。
その時一瞬だけ身体も動いたのか、それとも気のせいか――わがはいを掴む巨大な手から身体がすり抜けた。
逃れられた――!
だがそう思ったのも束の間、己が相当な高さから落下している事に気が付いた。
駄目だ、このままでは
落ちる、
落ちる、
落ちる、
落ちる、
地面に 叩きつけら れ
「っどぉああああっっ!!!!!いやなんちゅー夢やねんっ!!??」
目が開いた瞬間、たまらず叫んで飛び起きた。
いつも通りの朝日。変わらぬわがはいの部屋。
だが夢見はアホみたいに悪かった。
いや、訳が分からん。なんでわがはい含む全員が卵やねん!!どういう状況や!!?何をどうされたらあんな訳わからん状況に陥るんや!!
いや…ええわ。たかが己の見た夢にいつまでもツッコんどってもしゃあない。これは夢なんやから。ただの変な夢。
…もしかしたら、こないだ卵を使って他の奴らにイタズラを仕掛けた時のバチが当たったのかも知れん。けどあれは何処からかわがはいに届いた謎なお便りがキッカケで…と誰に弁明する訳でもない言い訳を並べ始め、そしてこの時間に何の意味も無いと気が付くとため息をついた。
また夢見が悪くなったら敵わんし、しばらく…ほんの少しの間だけ大人しくしといたるわ。
「あーもうアカンアカン、…朝風呂入ろ」
この件でこれ以上考えるのはオシマイや。
ふぅ、と胸を撫で下ろしベッドから降りた。
ホンマ、…夢でよかったわ。
――数十分後、キッチンにて
「あ、おはようございます!朝食ができあがるまでリビングでもう少しお待ちください!」
「おぉ、さよか…ん?カタツムリ何しとるんや」
「いや〜実は、朝食のおかずにオムレツとだし巻きを作るために冷蔵庫から卵を出してたんでゲスが、手を滑らせて最後のひとつを落っことしてしまったんでゲス」
「黄身が弾けて派手にあちこち飛び散ってしまい、思いのほか片付けに時間が…あれ?どうされたのですか大王さま、そんなに顔を青ざめて」
「……!?!?!?」