だって初めて焼いてくれたやつだもん「わっ…珍しい」
「…珍しいってなんだよ」
学校から寄り道もせず帰宅したら、兄である旬が既に家に居る事に驚きつい本音が零れてしまう。
普段であれば早くても日が暮れてからや、遅ければ葵が自室に引きこもった後に帰宅するのだ、まだ日が明るい時間帯に居る方が不自然だった。
「なに?また怪我でもしたの?」
「なんでそうなるんだよ…」
がっくりと肩を下げる旬の姿をケラケラと笑いながらも安堵する、怪我さえしてなけれなんでも良かった
「折角早く終わったからコレ、作ろうかと思って買ってきたんだけどな…」
無造作にキッチンテーブルに置かれていたビニール袋から音をたてながら見慣れた赤い箱が現れ、葵に差し出される。
「作る気失せたから勝手に作って食べろよ」
「えっ!?買ってきたならお兄ちゃんがちゃんと作ってよ!?」
「誰が作っても一緒だろ…」
「ちーがーいーまーすー!爆速で終わらせてくるから焼いといてよ!」
差し出された箱を受け取らず葵はそのまま自室に向かう、私服に着替えて早く補習を終わらせなければ
目に見えるご褒美がある為か葵の足取りは軽かった
リビングを出る前に葵は立ち止まり、キッチンをちらりと見ると渋々ながらもパッケージを開封している姿が見えて口角が上がり、口を開く
「お兄ちゃん絶対薄いやつ!薄いやつ沢山重ねてよ!」
「…お前本当その焼き方の好きだよな?」
「お兄ちゃんに分厚いホットケーキなんて焼けないでしょ」
「俺だって何回も焼いてるし…出来るぞ、多分」
「いーの!私はあのペラペラが好きなの!」