ホームワークが終わらない 第六章【マジカル・ミレニアム】
クリスマスの浮かれように引き続き、新千年紀であるミレニアムに向けて誰もが浮足立っている。
「イルミネーション綺麗だね」
人混みではぐれないよう、ヒロと手を繋いだ。ヒロのおばさんたちとはとっくの前にはぐれてしまった。カウントダウン直前のためか、携帯電話はなかなか繋がらない。年が明けた後もしばらくは繋がらないだろうから、合流は諦めて二人でいようとヒロが言った。
「ねえ、ゼロ。ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
「な、何?ヒロ」
どぎまぎしてしまう。夏のあの日から。ヒロの唇の柔らかさを思い出しては意識してしまう自分がいる。あれは何だったのか未だに聞き出せないでいる。
もしかしてその時のことを?マフラーに顔を埋めてヒロの言葉を待つ。
「ゼロでしょ?僕の机に『絶交だ』って掘ったの」
な、なんだそんなことか。ホッと胸を撫で下ろした。
「前に喧嘩した時にむしゃくしゃしてつい。コンパスの針でね」
「ひっどいなぁ。あれけっこう傷付いたんだからな」
「ごめんって」
いつもの僕たちの会話。きっとずっとこんな感じで来年もヒロと過ごすんだろなぁ。
ヒロといるのは、やっぱり一番楽しい。それは紛れもない事実だ。ヒロと出会ってから僕は随分明るくなった気がする。
「あのさ、ゼロ。ゲームしない?」
「こんなところで?」
「いいだろ、どうせ暇なんだから。マジカルバナナやろうよ」
マジカルバナナとは、最近クイズ番組で流行っている連想ゲームのことだ。
「ただやるだけじゃ面白くないから、賭けをしようよ」
「賭け?」
「2000年になる前に、答えられなかった方が負け。負けた人は一年間、何でも言うことを聞くこと」
「よし!負けないぞ」
「じゃあいくよ。マジカルバナナ!バナナと言ったら滑る!」
ヒロの提案で始まったゲームはなかなか白熱している。時間が経つのもあっという間だ。
2000年まであと数十秒。辺りではカウントダウンが始まった。
「年末と言ったらカウントダウン!」
「カウントダウンと言ったら3・2・1!」
ヒロの下手くそな答えに笑いそうになったけど、僕はこう切り返した。
「3・2・1と言ったら、ゼロ!」
一瞬、ヒロが黙り込む。僕は勝利を予感した。
だけどヒロは僕の瞳を見つめて叫んだんだ。
「ゼロと言ったら……好きだ!」
えっ。
聞き返そうとした僕の声を掻き消すように、花火がどんと上がる。
「ハッピーニューイヤー!2000年おめでとうございます!」
街中ではテレビ中継がされているのか派手な音楽が大音量で流れている。
だけど、僕にはしっかりと聞こえた。
「ヒロ……今」
「ゼロの負けだよ」
約束、絶対守ってね。僕の言うこと聞いてね。
にっこりと笑う彼の顔が、ネオンライトに溶け込んでいく。
「あけましておめでとう。これからもよろしく、ゼロ」
新年の挨拶が、なぜか僕らの新しい始まりを意味しているようで。
僕らの未来はまだ、始まったばかりだ。