『ホームワークが終わらない』おまけ【マジカルゆでたまご】
「ゼロといったら……好きだ!」
2000年の幕開けとともにどーんと打ち上げ花火が空に舞い散る中、景光は叫んだ。
「意味が繋がっていないからアウトでーす!」
「あ、あなたは!?」
マジカル頭脳アワーの司会でお馴染みの、芸能人・板西英三がいきなり現れた。どうやらこの近くで年越し番組の中継に出演していたらしい。
「ハイハイ、やり直しねー」
急に現れたこの男に、全て仕切られるので景光はたじろいでしまう。
「マジカルバナナ!ゼロと言ったら、からやり直そうや」
「わ、わかりました!」
大物芸能人の貫禄からか、この男には逆らえない何かがある。
零は先ほどから石像のように固まったままで、彼だけが1999年に取り残されてきたようだった。
「マジカルバナナ!ゼロと言ったら……愛して……」景光は、はりきっている。が、しかし。
「ゼロと言ったら!あれやな!1958年夏の第40回全国高等学校野球選手権大会での大会通算83奪三振のワシの記録!破った奴の数はゼロや!」
板西英三は訳のわからない自慢を繰り出した!
「う、あ……」景光はたじろいでいる。
「1958年夏の第40回全国高等学校野球選手権大会での大会通算83奪三振のワシの記録と言ったら!す!ご!い!」
板西英三は早口で呪文を唱えるようにマジカルバナナを続けようとしている。
「すごいと言ったら……ゼロ!」
景光は負けなかった。彼は強かった。なぜなら彼はハッピーミレニアムに一発、ゼロに告白をキメてやろうという揺るぎない決意があったからだ。
「なんですごいんや」
「だって……ゼロは僕の一番星なんだ!一番星と言ったらゼロ!ゼロと言ったら好き!好きと言ったらゼロゼロゼロー!!!!!」
景光は思いの丈を板西英三にぶつけた。
「少年、君のひとりバナナ……むちゃくちゃやけど、ストライク決まったで。ええもん見せてもろたわ」
「板西さん……」
「いいバッテリーになれるように二人で頑張りや。これ食べてな」
板西英三はどこからかゆでたまごを二つ取り出し、景光と零に渡すと去っていった。
「変な人だったけどいい人だったね。……ゼロ?」
零は真っ赤になりながらゆでたまごをわなわなと握りしめた。
「恥ずかしいじゃないか!ヒロの馬鹿!」
「いたっ!」
景光の頭にゆでたまごをぶつけ、殻にヒビを入れるとバリバリと剥いた。
「だってどうしても言いたかったから」
途端に景光も恥ずかしくなってきたようで、それ以上何も言えなくなる。
「……ゆでたまごと言ったら好き。好きと言ったらヒロ」ぱくりとゆでたまごを口にしながら零は言う。
「え?」
「僕もストライク、決まったかな」
照れるようにへへへと笑う零に景光は釘付けになると、ぎゅっと抱き締めた。
ゆでたまごが生んだ奇跡。
板西英三のおかげで、二人はうまくゆで上がったのだった。